私たちのトイレが食卓を救う?神戸市に学ぶ、下水から「肥料」を作る挑戦
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私たちが毎日当たり前のように使っているトイレ。そこから流れていく下水が、未来の日本の農業を救う「宝物」だとしたら、驚きませんか?実は今、兵庫県神戸市で、都市部から集まる下水から農作物を育てるために欠かせない資源を取り出し、再び私たちの食卓へ戻すという画期的な循環の仕組みが始まっています。今回は、神戸市の先進的な取り組みをヒントに、私たちの暮らしのすぐそばに眠る「見えない資源」と、食料危機という社会課題を解決するそのポテンシャルについて探ってみました。
日本の農業を脅かす「リン」の枯渇危機
私たちが食べている野菜やお米が元気に育つために、絶対に欠かせない栄養素があります。それが「リン」です。窒素、カリウムと並ぶ肥料の3大要素のひとつですが、日本ではこの大切なリンのほぼ全量を外国からの輸入に頼っています。
リンの元となる鉱石は地球上で採れる場所が限られており、将来的な枯渇が心配されている有限の資源です。さらに近年では、輸出国による制限や国際情勢の変化により価格の高騰が起きています。もし、外国からリンを買えなくなってしまったら、日本中で作物が育てられなくなるかもしれないという、食料安全保障上の大きな課題を抱えているのです。
輸入に頼らない国内の資源を確保する必要がある中で、意外な場所にリンが隠れていることがわかりました。それが「下水」です。
私たち人間は、食事からリンを体に取り入れ、それを排泄しています。そのため、多くの人が暮らす都市部の下水には大量のリンが集まってきます。全国の下水に含まれるリンをすべて集めると約5万トンになり、なんと日本の農業で必要とされる量の約6分の1にも相当すると言われています。人が集まる都市部は、まさに「リンの鉱山」なのです。
これまで、下水に含まれるリンは、放っておくと勝手に固まって下水管を詰まらせてしまう厄介者として扱われてきました。しかし、この厄介者を取り出して良質な肥料に生まれ変わらせる技術にいち早く目をつけ、実用化を進めてきたのが神戸市です。神戸市では2011年から研究を開始し、下水処理の工程の途中でリンを結晶化して取り出し、「こうべ再生リン」という肥料の原料として回収しています。




「下水由来」の壁を破った、農家との絆
この取り組みの注目ポイントは、回収したリンがしっかりと市民の暮らしに還元されていることです。最初は「下水からできた肥料」に対して農家の方々も不安を感じていたそうですが、実際に処理場を見学してもらい、安全性を確かめてもらうなどの地道なコミュニケーションを重ねることで、少しずつ信頼関係が生まれました。
現在では、農業関係者と協力して地域循環型肥料「こうべハーベスト」が開発され、それを使って育てられたお米や野菜が「BE KOBE農産物」として販売されたり、子どもたちの学校給食として出されたりしています。さらに、地元の酒蔵ではこの肥料で育てた酒米を100%使った日本酒まで造られ、私たちの食卓へと循環しているのです。
2025年4月からは市内2か所目となる処理場も稼働し、年間200トンの全国最大の回収能力を実現したそうです。「下水から肥料を作り、農家の方に使ってもらい、農作物を育てて市民が食べる」という全工程を、行政や地域が一体となってサポートしている点は、特筆すべき大きなポイントだと感じました。


神戸市の挑戦が教えてくれること
神戸市の取り組みは、特別な場所でしかできないものではありません。人が住み、下水道がある街なら、日本中どこでも応用できる可能性を秘めています。
私たちが毎日ご飯を食べ、トイレに行く。その当たり前の生活から生み出された資源が、再び安全な食べ物となって戻ってくる。外国に頼りきりだった資源を自分たちの街の中で回し続ける神戸市の仕組みは、持続可能な未来に向けた力強い「発明」です。日本の食卓を守るためのこの静かな革命に、これからも注目していきたいと思います。





