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【解説】SSBJ対応のヒントに。欧州大手ヘンケルに学ぶ「Scope3」と「人的資本」の統合的アプローチ


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3 すべての人に健康と福祉を 8 働きがいも経済成長も
【解説】SSBJ対応のヒントに。欧州大手ヘンケルに学ぶ「Scope3」と「人的資本」の統合的アプローチ

日本のプライム上場企業を中心に、SSBJ(サステナビリティ基準委員会)基準に基づく情報開示への対応が本格化しています。多くのサステナビリティ担当者が「Scope3(サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量)の算定・削減」や「人的資本データのグローバルでの開示」という高い壁に直面する中、ドイツの化学・消費財大手ヘンケルが2026年4月14日にドイツ本社で発表した「2030年に向けた新たなサステナビリティ目標」は、実務上の重要なベンチマークとなります。

創業150年、2025年度売上高205億ユーロ・営業利益約30億ユーロ、世界約47,000名を擁する同社は、単なる環境負荷低減にとどまらず、サステナビリティを事業成長の核とする「意義ある成長」のフェーズへと移行しました。ヘンケル自身は欧州の開示枠組み(CSRD/ESRS等)の下にありますが、国際的なサステナビリティ開示基準が収斂しつつある中で、先行する欧州大手の目標設計はSSBJ対応を進める日本企業にとっても示唆に富む内容です。本記事では、その3つの重要なポイントを紐解きます。

難関「Scope3」はどう減らす? サプライヤーを巻き込む目標設定と支援策

SSBJ基準(およびIFRS S2号)において、日本企業にとって最も対応に苦慮する領域の一つとされているのがScope3の開示と削減マネジメントです。

ヘンケルは今回、2045年のネットゼロ達成に向け、2024年にSBTi(科学に基づく目標設定イニシアチブ)によって認証された包括的なロードマップを策定しました。そのマイルストーンとして、2030年までにScope3の排出総量を30%削減(2021年比)するという明確な目標を打ち出しています(Scope1・2については42%削減)。
注目すべきは、目標設定と並行して具体的な進捗を示している点です。2025年時点ですでにScope1・2・3の合計で29%削減(2021年比)を達成し、世界37拠点でカーボンニュートラルな生産を実現。再生可能電力の割合も世界全体で97%にまで引き上げています。

同社は、さらなるScope3削減を「サプライヤーとの連携強化」によって実現しようとしています。2030年までにサプライヤーの85%が自社のサステナビリティ基準を満たす状態を目指しており、「Together for Sustainability(TfS)」などの業界横断的なイニシアチブを活用して、中小規模のサプライヤーも支援しています。Scope3の削減は自社単独では不可能であり、サプライチェーン全体を巻き込んだ「エンゲージメント(対話と支援)」が不可欠であることを示しています。

(生成AIを用いて編集部作成)

グローバル水準の人的資本マネジメント:「女性管理職45%」と「賃金の公平性」

日本でも有価証券報告書における人的資本開示が義務化され、女性管理職比率や男女間賃金格差の是正が急務となっています。しかし、グローバル展開する企業にとって、地域ごとに法規制や文化が異なる中で統一基準を設けることは容易ではありません。

その中でヘンケルは、「2030年までにすべての管理職レベルにおいて男女がそれぞれ45%以上を占める」という、ジェンダー均衡を志向するバランス型の野心的な目標を設定しました。2025年末の時点で、女性管理職比率はすでに43%超に達しており、目標達成に向けた確固たる進捗を示しています。さらに踏み込んでいるのが、世界規模での賃金の公平性(Pay Equity)の確保を明言した点です。現地の法律や地域性に配慮しつつも、グローバル企業としての揺るぎない一貫性を示す姿勢は、国内外の機関投資家から高く評価されるポイントです。

人事、インフラサービス、サステナビリティ部門担当取締役副社長のシルヴィー・ニコル氏が「新しい目標は、事業全体の日常的な意思決定にサステナビリティを組み込むための、明確で実行可能な枠組みを提供する」と語る通り、この取り組みは現場レベルの実務にまで深く浸透しています。

(出典:SUSTAINABLE IMPACT REPORT 2025)

脱プラ規制の先へ。自社技術を活かした「パッケージ100%リサイクル」の挑戦

プラスチック資源循環促進法など、日本でもサーキュラーエコノミーへの対応が求められています。ヘンケルは、2030年までにコンシューマー向け製品のパッケージの100%をリサイクル・再利用可能な設計にするという目標を掲げており、現時点で既に88%まで到達しています。さらに、素材面でも、現在28%である再生プラスチックの使用率を35%以上に引き上げる計画です。

ここで見逃せないのが、同社がアドヒーシブ・テクノロジーズ(接着技術)事業部門の技術力を活かし、自社のみならず業界全体のリサイクル可能なパッケージ開発に貢献している点です。開発された特殊な接着剤ソリューションは、デュッセルドルフと上海にある専用施設「パッケージング・リサイクラボ」でテストされています。サステナビリティへの対応を「コスト」や「規制対応」として捉えるのではなく、自社のコア技術を活かした「新たなビジネスチャンス(ソリューション提供)」に昇華させています。

「義務としての開示」から「攻めの戦略」への転換

SSBJ基準への対応準備を進める中で、多くの日本企業は「データの収集と開示そのもの」が目的化してしまう「コンプライアンスの罠」に陥りがちです。

しかし、カーステン・クノーベルCEOが「明確で一貫した姿勢をとることはこれまで以上に重要」と語る通り、ヘンケルの新目標は「開示のため」ではなく、激動の市場環境において「持続可能な価値を創出するための事業戦略」そのものです。2025年のCDP気候変動分野で初のA評価を獲得し、最新のEcoVadis評価でも再びゴールドメダルを獲得するなど、国際的にも高く評価されている実績がその成果を物語っています。

こうした評価の背景にあるのが、気候変動(E)と公平性(S)、そして持続可能なサプライチェーンを完全に統合した包括的アプローチです。これは、日本企業が「守りのサステナビリティ」から「攻めのサステナビリティ」へ転換するための、強力な道しるべとなるでしょう。