「誰もが当たり前に医療を受けられる社会へ」Tokyo Prideで広がる『Ally表明医師マップ』の輪
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「病院に行きたいのに、行けない人がいる」。
LGBTQ当事者の中には、医療機関で嫌な思いをした経験や、「理解されないのではないか」という不安から受診をためらう人が少なくありません。
誰もが必要な医療を受けられる社会の実現は、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」、そして目標10「人や国の不平等をなくそう」にもつながる重要なテーマです。
こうした課題に向き合うため、ノバルティス ファーマ株式会社は2023年から「Ally(アライ)表明医師マップ」の取り組みをスタートしました。LGBTQについて学び、理解を深めた医師を可視化することで、誰もが安心して医療にアクセスできる社会を目指しています。
6月6日、7日の2日間にわたり、代々木公園で開催された『Tokyo Pride 2026』の会場で、活動の背景や手応え、そして目指す未来について話を聞きました。
「薬をつくるだけでは患者さんに届かない」


Ally表明医師マップ誕生の背景には、ノバルティス ファーマのパーパス「Reimagining medicine, together(ともに、医薬の未来を描く)」があります。
「製薬会社というと、薬を開発し、製造し、販売することが仕事だと思われがちです。しかし、それだけでは本当に必要な人に薬は届きません」
そう話すのは、ノバルティス ファーマの大山由紀子さん。
医療制度の課題、医療機関へのアクセス、社会に残る偏見。さまざまな障壁によって、必要な医療につながれない人が存在します。
その一つが、LGBTQ当事者の医療アクセスの問題でした。
「当事者の方々の中には、医療機関で嫌な思いをした経験がある方が約3割いると言われています。また、過去に経験がなくても『嫌なことを言われるのではないか』『アウティングにつながるのではないか』という不安から受診をためらう方もいます」
受診の遅れは、病気の発見や治療の遅れにつながります。
「これは非常に大きな医療アクセスの課題です。だからこそ、何とか解消したいと思いました」
「うちにはいない」から始まった挑戦
活動をスタートした2021年当時、医療現場の反応は様々でした。最初に取り組んだのは、医療従事者向けの講演会です。
「『大事なことだよね』と言いながらも、『都会で起きている話でしょ』『うちにはいない』という反応は少なくありませんでした」
一部の医療者からは強い共感が寄せられた一方で、多くは様子見の状態だったといいます。
しかし、その状況は少しずつ変わっていきました。
「ここ2〜3年で、『困っている人がいるよね』『大事なテーマだよね』と言われることが圧倒的に増えました」社会全体の理解が着実に進み始めていることを、大山さんは実感しています。
理解を“見える化”するAlly表明医師マップ


マップに掲載されるためには、LGBTQと医療について学ぶeラーニングを修了しなければなりません。
所要時間は約4~5時間。基礎知識だけではなく、当事者が医療現場で経験したリアルな声も学びます。
「例えば、糖尿病で通院している患者さんに『奥さんにご飯を作ってもらっているの?』と何気なく聞いた一言が、当事者の方にとっては深く傷つく経験になることがあります」
そう話すのは、ノバルティス ファーマの久保田舞さんです。
何気ない言葉の積み重ねが、やがて患者さんを医療機関から遠ざける原因になることもあります。
そのため、修了テストは100点満点が条件です。
「患者さんは安心して受診できる先生を探しています。だからこそ、中途半端な理解ではなく、しっかり学んでいただきたいと思っています」
現在、全国で132名の医師が登録しています。特に総合診療科の医師の参加が多いそうです。
医療者同士をつなぐ、新たなネットワーク


Ally表明医師マップは、当事者が安心して受診できる医師を探すためだけのものではありません。
ノバルティス ファーマの山田和宏さんは、医療者同士をつなぐ役割にも大きな価値があると話します。
「自分の地域の近くにAllyの先生がいることが分かるので、困った時に相談できます。横のつながりが生まれることも大きな意味があると思っています」
実際に、病院内研修でeラーニングを活用したいという問い合わせも増えているそうです。
また、医療現場ではLGBTQだけでなく、宗教や文化、言語など多様な背景を持つ患者さんへの対応が求められています。
「多様性という視点で考えた時に、LGBTQもその一つです。さまざまな価値観や背景を持つ人に目を向ける医療者が増えていると感じています」
こうした学びの輪が広がることで、医療現場そのものにも変化が生まれています。
「近くにAllyの先生がいる」その安心感
Tokyo Prideの会場では、多くの当事者や家族から反響が寄せられています。
「全国にAllyの先生がいることが見えるだけで勇気づけられる」
「近くにいるなら受診してみたい」
そんな声が多く聞かれたそうです。
中でも印象的だったのが、LGBTQ当事者のお子さんを持つ親御さんの言葉です。
「これからは先生にいちいち説明しなくてもいいね。今まで大変だったよね」
親子でマップを見ながらそう話していた姿が忘れられないといいます。
また、ブースを訪れた方の中には、入院時のパートナー同席や看取りの問題について、「これまで深く考えたことはなかったものの、説明を聞くうちに課題の大きさを実感した」と話す方もいたそうです。
「それは確かに大きな問題ですね。ぜひ、一刻も早く広めてください」
当事者自身も気づいていなかった課題があることを知り、活動への期待を寄せていました。
目指すのは「マップがいらなくなる社会」


現在、Ally表明医師マップには、登録医師がいない県が9県残っているそうです。
今後は全都道府県への展開と、登録医師の診療科のさらなる拡大を目指しています。しかし、関係者が語る理想は意外なものでした。
「本当は、このマップが必要なくなるのが理想なんです」
そう話すのは久保田さん。
LGBTQ当事者だからといって特別に探さなくても、どの医療機関でも安心して受診できる社会。それこそが目指している未来です。
山田さんも、多様性への理解が社会を豊かにすると語ります。
「自分とは違う立場の人のことを知ることで、想像力は広がります。そうした理解が、人とのつながりや社会の豊かさにつながっていくと思います」
そして大山さんは、活動の原点である医療アクセスの課題を改めて強調します。
「LGBTQだけではありません。誰もが公正で当たり前の医療を受けられる社会をつくりたい。そのために、一人ひとりが課題を理解し、自分にできることを考えていく社会になってほしいと思っています」
登録医師数は現在132名。しかし山田さんは、「登録していないからといって理解がないわけではありません」と話します。
昨年実施したウェブセミナーには1万人を超える医療関係者が参加しました。数字には表れないところでも、理解の輪は確実に広がっています。
大きな変化は一朝一夕には生まれません。
それでも、「自分の半径1メートルから変えていく」という思いを胸に、活動を続けています。
誰もが安心して医療につながれる未来へ。
Ally表明医師マップが目指しているのは、誰かが勇気を出して受診先を探さなくても済む、そんな“当たり前”の社会です。
パレードには社員と家族・パートナー計128名が参加


また、Tokyo Pride当日には、ノバルティス ファーマの社員の家族やパートナーもパレードに参加しました。LGBTQ当事者だけでなく、その思いに共感するAlly(理解者)として歩く社員の姿は年々増えているといいます。
医療アクセスの課題解決に向けた活動は、単なる社会貢献ではありません。社員一人ひとりが多様性について考え、理解を深め、自分の行動につなげていく取り組みでもあります。
医療現場で学びを深める医師が増え、病院内で研修を取り入れる医療機関が増え、そして社内でも当事者に寄り添う理解者が増えている。
誰もが公正で当たり前に医療を受けられる社会の実現に向けて、その歩みは着実に前へ進んでいます。





