災害時に“情報弱者”をつくらない。外国人観光客の避難支援から考える、多文化共生のまちづくり
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観光地に人を呼び込む力と、非常時に人を守る力は、本来セットで考えられるべきなのかもしれません。
とくに訪日外国人観光客にとって災害時の不安は、揺れや噴火そのものに加え、「何が起きているのか分からない」「どこへ行けばいいのか分からない」という情報の断絶によって大きくなります。
山梨県は7月2日、内閣府(防災担当)や観光庁、新潟県、長野県、静岡県とともに、「大規模災害時における外国人観光客の超広域避難具体化研究会」を立ち上げました。これは防災の取り組みであると同時に、多文化共生のあり方を問い直す動きでもあります。
外国人観光客が直面するのは、災害そのものだけではない


日本は災害の多い国です。地震、噴火、豪雨など、国内で暮らす人にとっても判断が難しい場面は少なくありません。そこに、土地勘がなく、日本語にも十分慣れていない観光客がいたらどうなるか。
避難所の場所、交通機関の運行状況、出国に向けた移動手段、行政や観光地からの案内にたどり着けなければ、命を守る行動そのものが遅れてしまいます。
今回の研究会が扱うのは、まさにその「情報と行動の断絶」をどう埋めるかという課題です。大規模災害時の外国人観光客の広域避難や帰国支援については、これまで法的な位置づけや実務ガイドラインが十分ではなく、現場対応に委ねられてきた面がありました。
だからこそ今、観光地で起こりうる非常時を前提に、支援の流れを具体的に設計しようという動きが始まっています。
富士河口湖町をモデルに、伝わる避難支援を考える


研究会に設けられたワーキンググループでは、具体的な脅威として富士山噴火を想定し、山梨県富士河口湖町を最初のモデルケースに指定しました。ここで検討されるのは、避難ルートの整理だけではありません。
外国人観光客の帰国支援に向け、どの手段で情報を届けるのか、どう移送し、どこで案内し、誰が支えるのかといった実務レベルの論点です。
この視点は、多文化共生の実践にもつながります。多文化共生は、平時の異文化理解だけを意味しません。問われるのは、緊急時にも言語や文化の違いを理由に誰かを取り残さない仕組みがあるかどうかです。
「その場にいるすべての人を守る」前提で地域の仕組みを組み立てられるか。今回の取り組みは、その現実的な検証でもあります。
大使館や交通事業者も加わることで、支援は現実になる
ワーキンググループには、関係省庁や自治体だけでなく、交通・インフラ事業者、各国大使館の担当者も参加しました。ここに、この研究会の本質があります。外国人観光客を守るには、防災部門だけでは完結しません。交通の確保、国際的な連絡調整、観光案内、宿泊や待機場所の運用など、多くの接点が必要になります。
つまり、外国人観光客支援とは「翻訳の問題」ではなく、「社会の受け皿をどうつくるか」という問題です。誰が情報を出し、誰が移動を支え、誰が帰国までの導線をつなぐのか。こうした連携の精度が上がるほど、非常時の支援は机上の計画ではなく、実際に機能するものへ近づきます。
防災のアップデートは、誰も取り残さない地域づくりになる
この取り組みは、SDGsで言えば目標11「住み続けられるまちづくりを」に加え、包摂性の観点から目標10「人や国の不平等をなくそう」、さらに安心・安全な社会の基盤という意味で目標16とも重なるテーマです。災害時に必要なのは、同じ情報を一斉に出すことではなく、異なる背景を持つ人に届く形で支援を設計することです。
観光地の価値は、景色や体験だけで決まるものではありません。非常時にも自分たちを守ってくれる土地だという信頼があってこそ、持続可能な観光地になっていくはずです。山梨県から始まった今回の動きは、防災の話でありながら、これからの多文化共生社会のあり方そのものを映しているのかもしれません。





