SHOW CASE

FIFAワールドカップ2026が示す、スタジアムの新たな価値


この記事に該当する目標
6 安全な水とトイレを世界中に 7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに 11 住み続けられるまちづくりを 12 つくる責任つかう責任
FIFAワールドカップ2026が示す、スタジアムの新たな価値

FIFAワールドカップ2026の開催期間中、北米のスタジアムは完成された施設というよりも、試合を運営しながら大会を成立させている「生きた現場」として機能していました。今回、日本対オランダ戦をAT&T Stadiumで、オーストリア対ヨルダン戦をサンタクララのLevi’s Stadiumで観戦し、さらにサンフランシスコではOracle Parkの視察も行ってきました。

そこで強く印象に残ったのは、スタジアムは単なる「試合を見る場所」ではなく、都市や社会の仕組みとともに機能する存在だということでした。

既存施設を活かした大会運営へ

アメリカ国内のワールドカップ開催会場の多くは、NFLスタジアムを活用しています。普段はアメリカンフットボール用に設計された巨大施設が、サッカーの世界大会を受け入れます。その前提に立つと、今回の大会は新設スタジアムを整備するというよりも、既存施設をワールドカップ仕様へと最適化しながら運用していく取り組みといえるでしょう。

その中で象徴的なのがピッチ環境です。2024年のコパ・アメリカでは天然芝の品質が大きな議論となったこともあり、スタジアムごとに安定した試合環境をどう維持するかは継続的なテーマとなっています。天然芝の品質を保つためには、雨水管理や排水、通気といった地下インフラの整備が重要であり、さまざまな雨水管理・排水技術が活用されています。スタジアムは単なる建築物ではなく、競技環境を支えるインフラとしての役割も担っています。

サステナビリティを支える仕組み

一方でLevi’s Stadiumでは、サステナビリティがスタジアム運営の前提として組み込まれていました。太陽光発電や再生水の活用などが日常的な運営に組み込まれており、それは追加的な取り組みではなく、施設運営を支える仕組みの一部として機能しているように感じられました。

また印象的だったのはゴミ箱の運用で、リサイクル・堆肥化・一般廃棄物が明確に分けて配置されています。ただ現場では迷う観客も多く、そのたびにスタッフが自然に補助に入っていました。仕組みだけで完結させるのではなく、人の動きも含めて成立している設計でした。

売店で使用される容器もリサイクルやコンポストを前提としたものが多く採用されており、観戦体験の中で生まれる廃棄物の流れそのものが、スタジアム全体の環境設計につながっています。観客は環境配慮を強く意識するというよりも、自然と資源循環の仕組みの中に組み込まれている感覚でした。

スタジアムがけん引する持続可能な都市開発

さらに今回の視察ではOracle Parkも訪れました。ここでは既存のスタジアムを活かしながら、観客体験や設備の継続的なアップデートが進められていました。新たな施設を建設するのではなく、既存資産を更新しながら価値を高め続ける姿勢が印象的でした。ウォーターフロントと一体になった立地も含め、スタジアムが都市の風景の一部として進化し続けていることを感じられました。

また、ロサンゼルスのSoFi Stadiumは外観や周辺環境を通じてその存在感に触れる機会がありました。巨大な屋根構造と周辺エリアを含めた大規模な再開発は、スタジアムが単体施設ではなく、都市開発プロジェクトの中核として位置付けられていることを象徴しているように感じられました。

スポーツが支える未来のまちづくり

今回の観戦と視察を通じて感じたのは、スタジアムにおけるSDGsは、もはや掲げるべき理念ではなく、日々のオペレーションや施設運営そのものに組み込まれているということでした。

スタジアムを新設して使い切るのではなく、Oracle Parkのように既存資産を更新しながら価値を高め続ける考え方や、SoFi Stadiumのように都市開発と一体となって地域全体の価値向上を目指すアプローチは、SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」の考え方とも重なります。
また、海外ではスタジアムが災害時の避難拠点や地域コミュニティの拠点として活用される事例もあり、都市インフラとしての役割はますます広がっています。

SDGs目標12「つくる責任 つかう責任」という観点では、スタジアムという巨大な消費の場で廃棄物をいかに資源として循環させるかが重要になります。印象的だったのは、観客の意識や善意だけに頼るのではなく、分かりやすい導線設計とスタッフのサポートによって、自然と資源循環に参加できる仕組みが構築されていたことです。サーキュラーエコノミーを実践する一つのモデルとして参考になります。

天然芝を維持するための雨水管理や排水・貯留などのインフラ技術に加え、Levi’s Stadiumで導入されている再生水(高度処理した水をトイレや芝生の散水などに利用する仕組み)は、水資源を効率的に活用する取り組みとして、SDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」の考え方と重なります。気候変動による干ばつや豪雨への対応が求められる中、スタジアムは水循環を支えるインフラとしての役割も果たしています。
また、太陽光発電を取り入れている施設もあり、SDGs目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」に通ずるところもありました。

スポーツは人を集め、都市を動かし、同じ時間を共有させます。そのエネルギーを競技の枠に閉じるのではなく、社会の仕組みへどう接続していくのでしょうか。ワールドカップ2026は、スタジアムを都市とともに進化する「生きたインフラ」として捉える視点を強く印象付ける大会でした。

現場のゴミ箱の分別から、スタジアム全体の設計に至るまで。北米で目撃した「使いながら更新していく」という姿勢は、今後の日本のスタジアムのあり方、ひいては持続可能な都市づくりを考える上で、多くの示唆を与えてくれるはずです。