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重い台車も書類の外にある力も Preferred Networksが見せた「人を生かす」AI


この記事に該当する目標
8 働きがいも経済成長も
重い台車も書類の外にある力も Preferred Networksが見せた「人を生かす」AI

棚の下に潜り込んだ黒いロボットが、荷物を載せた台車ごと持ち上げ、指示された場所へ運んでいきます。先日、幕張メッセで開幕したデジタル技術の展示会「CEATEC 2026」で、株式会社Preferred Networksが「日本の現場を、日本の知能で動かす。」をコンセプトに、AIの実装事例を紹介しました。人手不足が深刻になるなか、人の負担を減らし、人の力を取りこぼさないAIの姿を追います。

「重さ」をロボットに預ける

Preferred Networksのブースは「動く・考える・届く」の3エリアで構成されていました。案内してくれたのは、同社AI Products & Solutions事業本部 ビジネス開発マネージャーの井上拓哉さん。「動く」エリアで実演されていたのが、新型の自律搬送ロボット「カチャカEvo」です。

カチャカは、子会社のPreferred Roboticsが開発する自律搬送ロボットのシリーズで、家庭で棚や荷物を運ぶ「カチャカ」に始まり、法人向けの「カチャカプロ」はクリニックや工場などで使われています。カチャカプロは富士経済の調査(2026年版)で、AMR(自律走行搬送ロボット)の国内台数シェア1位となりました。

その最新モデルがカチャカEvoです。ブースに置かれた従来のカチャカと見比べると、大きさの違いは一目瞭然。工場や物流倉庫といった業務の現場向けに開発され、最大100kgまで運べます。また、高さ200mm・幅500mmのすき間があれば、現場で使っている台車の下に潜り込み、そのまま持ち上げて搬送も可能。

「工場では台車のホイールをロックしていることが多く、引っ張ると倒れてしまう。だから持ち上げて運ぶんです」と井上さん。

周囲をカメラやセンサーで読み取りながら自分で地図をつくって走るため、床に磁気テープを貼って通り道を示す工事も要りません。設定はPCやスマートフォンから行え、専門業者に頼む必要もないそうです。

「同じような台車が何台もあっても、間違えずに往復できるのか」尋ねたら、井上さんは「運ぶ荷物とそれぞれの置き場所を与えておけば、全部拾ってきます」。

重い荷物の運搬は働く人の身体に負担をかけ、ただでさえ人手の足りない現場をさらに圧迫します。運ぶ仕事をロボットに任せれば、スタッフは出荷や検品など、人が担うべき業務に時間を使えるようになります。

日本語で考え、日本で守る

「考える」エリアの中心は、Preferred Networksが一から開発した国産の大規模言語モデル「PLaMo(プラモ)」です。日本語の性能では世界最高クラスをうたい、その応用先として紹介されていたのが教育分野でした。

AI文章指導サービス「ろんじろう」は、小論文や作文をAIが添削し、主張と根拠のつながりを示しながら、書いては直す学びを支えます。就職活動や入試で論述形式の課題が増えるなか、日本語の文章を正しく読み解き、評価する力がAIに求められているといいます。

背景には、教育ならではの事情もあります。海外製のモデルには、欧米の価値観や教育制度に寄った偏りが潜むおそれがあります。児童・生徒の個人情報や学習履歴といった機微なデータを、日本の側で管理できることも欠かせません。

滋賀大学は2026年4月から、全学生と全教職員にPLaMoの提供を始めました。日本語を中心に設計されていることや、海外のサーバーに頼らずに済む構成が評価されたそうです。

書類の外にある力を見る

「届く」エリアでは、井上さん自らがAI面接を受けてみせました。AIアバターと対話する「タレスカAI面接」です。

モニターに映されるアバターは、井上さんの答えに沿った相づちを返しながら、さらに詳しく聞かせてほしいと質問を重ねていきます。決まった質問を読み上げるのではなく、相手の話を踏まえて、深掘りの問いをその場で組み立てていくのが特徴です。

面接後の画面には評価の結果だけでなく、AIがなぜそう判断したのかという理由や、次の面接官への申し送りも表示されます。「評価がブラックボックスになってしまうと問題ですから」と井上さん。

同社が2027年卒の就活生308名に行った調査では、面接官との相性や運で合否が左右される「面接官ガチャ」を感じたことがある学生が44.5%、対人面接で不公平を感じた経験がある学生は75.6%にのぼりました。

導入企業では成果も出始めています。沖縄セルラー電話のインターンシップ選考では、エントリーシート(ES)の評価が下位3分の1ながら、AI面接で上位3分の1と評価された学生が11名いました。そのうち5名が、人による選考でも認められて合格しています。

24時間どこからでも受検できるため、受検者の約3割が夜間から早朝の時間帯を利用。離島や県外の学生にも機会が広がりました。シミックグループも、2028年4月入社の新卒採用でESを廃止し、AIアバターに自分の言葉で語る「トークエントリー選考」を導入しています。

「うまく書けるか」より「自分らしく伝えられるか」。書類では見えにくかった力に、光が当たり始めています。

公平さを対話で磨く

ただ、AI面接への信頼はまだ道半ばです。同じ調査で、評価を「公平」と考える学生は、対面面接の85.4%に対してAI面接は51.9%。受検者が挙げた不満で最も多かったのは「相手の反応がなく、伝わっている感覚や話の引き際が分からない」(43.5%)でした。差を埋める鍵は、効率よりも対話の質にあるといえそうです。

タレスカの評価指標の一部も、PLaMoで動いています。井上さんは、モデルを自社で開発しているからこそ性能の引き出し方を深く理解していると話し、面接での対話と評価の分析とで、PLaMoとほかのモデルを使い分けていると説明しました。

一方で、技術をむやみに広げることには慎重です。表情や声から評価した運用実績はあるものの、たとえば「明るい人がいい」と言っても、「明るさ」の定義は企業ごとにばらばら。安易に表情を評価に組み込めば、選考結果がゆがみかねません。どこまでをサービスで扱うかは、顧客と対話しながら決めていくといいます。

人手不足、重い荷物を運ぶ身体の負担、面接官による評価のばらつき、住む場所による機会の差。Preferred NetworksのAIは、人の負担を引き受け、人の可能性を見落とさないことで、誰もが働きがいを持てる社会、SDGs目標8「働きがいも経済成長も」の実現に近づこうとしています。

ロボットが運び、AIが見いだす。人に残るのは、人と向き合う仕事なのかもしれません。



執筆 / フリーライター 小見山友子