同じものを食べても、体への働きは人それぞれ。腸内マイクロバイオームとAIが切り開く「個別化栄養」の未来
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健康寿命を延ばし、いつまでも健やかに暮らすために、毎日の食事は大切な要素の一つです。では、体に良いとされる食品を食べれば、誰もが同じように健康効果を得られるのでしょうか。
2026年10月16日、一般社団法人 国際栄養食品協会(AIFN)主催、日本アムウェイ合同会社特別協賛による「第2回 ファイトケミカルス×マイクロバイオーム ―『植物の力』を活かす鍵とは―」が開催されました。
今回のセミナーでは、植物に含まれる成分と腸内細菌の関係をはじめ、食品の働きに生じる個人差や、AIを活用した新しい栄養研究について専門家が解説しました。一人ひとりに合った食事を考える「個別化栄養」の可能性が紹介されました。
植物の力を引き出す鍵は、腸内環境にある?


特別講演「植物栄養が支える健康寿命」では、東北大学未来科学技術共同研究センターの宮澤陽夫博士が登壇しました。
野菜や果物、大豆などの植物性食品には、ビタミンやミネラルのほか、「ファイトケミカルス」と呼ばれる植物由来の成分が含まれています。抗酸化作用など、体の働きに関わる可能性が研究されており、講演では米ぬかに含まれるトコトリエノールの研究例などが紹介されました。
また、食事は腸内にすむ微生物の種類や働きにも影響を与えます。例えば、食物繊維を多く含む食品は、腸内細菌が短鎖脂肪酸と呼ばれる物質をつくることに関係しています。
ここで重要になるのが「腸内マイクロバイオーム」です。これは、腸内にすむ多様な微生物と、その遺伝情報などを含めた概念です。腸内細菌は、食べ物に含まれる成分を別の物質へと変える働きも担っています。
つまり、食品にどのような成分が含まれているかだけでなく、食べた後に腸内で何が起きるのかを知ることも、健康を考えるうえで大切なのです。
同じ食品を食べても、体の中での働きは違います


続いて、韓国の梨花女子大学名誉教授であるオラン・クオン博士が「ファイトケミカルス代謝の個人差を左右する腸内マイクロバイオーム」をテーマに講演しました。
紹介されたのが、大豆に含まれる成分「ダイゼイン」と、そこからつくられる「エクオール」の関係です。エクオールは、特定の腸内細菌によってダイゼインからつくられる物質です。しかし、この働きを担う腸内細菌を持つかどうかには個人差があります。そのため、大豆を食べても、全員が同じようにエクオールをつくれるわけではありません。
また、ほかの植物由来成分についても、腸内細菌による代謝のされ方は一様ではありません。ある成分は多くの人で代謝物が確認される一方、別の成分では、摂取していても代謝物が確認される人が限られる場合があります。
こうした研究から見えてくるのは、同じ食品を食べても、体内で起きていることは人によって異なるということです。
もちろん、腸内細菌の種類や多様性だけで健康状態が決まるわけではありません。それでも、食事の内容と腸内環境の両方に目を向けることは、一人ひとりに合った健康づくりを考えるうえで重要な視点となります。
腸内環境を再現し、AIで食品への反応を予測


HEM PharmaのCEO、チ・ヨセフ博士は「バイオコンバージョンの予測と個別化栄養への可能性」をテーマに講演しました。
紹介されたのは、便の検体を使って個人の腸内環境を試験管内で再現し、食品成分を加えたときの変化を調べる「PMAS」という技術です。腸内細菌や、細菌によってつくられる物質の変化を分析することで、食品成分がどのように代謝されるかを調べます。
さらに、こうして得られたデータをAIで解析し、食品成分に対する反応を予測する研究も進められています。講演では、反応性を予測するモデルについて、AUC約0.93という結果が報告されました。これは、研究で設定された条件のもとで、反応の違いを見分ける性能が示されたことを意味します。
こうした技術が発展すれば、将来的には、個人の腸内環境を踏まえて食事を提案することも可能になるかもしれません。
ただし、AIが反応を予測できることと、その食事によって実際に健康状態が改善することは別の話です。予測の精度や、食事などによって腸内環境を変えられるかどうかについては、今後も検証が必要です。
腸と脳の関係、食品研究におけるAIの可能性


講演後には、AIFN理事長の天ヶ瀬氏が進行役を務め、宮澤博士、クオン博士、チ博士によるパネルディスカッション「『植物の力』を最大限に活かす未来へ」が行われました。
議論では、腸内環境と食事・生活環境の関係に加え、腸と脳のつながりや、食品研究におけるAIの活用についても意見が交わされました。
腸と脳は互いに影響し合っており、この関係は「腸脳相関」と呼ばれています。ストレスを感じるとおなかの調子が悪くなることがあるように、腸と心身の状態にはつながりがあります。腸内細菌がつくる物質も、こうした関係を理解するための研究対象となっています。
また、食品には多くの成分が含まれ、それぞれが体や腸内細菌に複雑に関わっています。そのため、従来の方法だけでは、すべての関係を把握することが難しいとされています。AIを活用すれば、大量の研究データを分析し、これまで見つけにくかった関係を発見できる可能性があります。
一方で、AIの分析結果をそのまま信頼するのではなく、研究者が内容を確かめ、科学的に検証することも重要です。食品や栄養の研究に、AIや計算科学など異なる分野の知識を取り入れる必要性も示されました。
一人ひとりに合った健康づくりを目指して
今回のセミナーで紹介されたのは、食品の働きを考える際に、食材や栄養素だけでなく、それらを受け取る一人ひとりの腸内環境にも目を向けるという新たな視点です。
健康寿命の延伸は、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」にもつながります。また、腸内マイクロバイオームの研究やAIを活用した個別化栄養の技術開発は、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」にも関連しています。科学的な知見と技術を活用し、個人差を踏まえた健康づくりを目指すことは、誰もが健やかに暮らせる社会の実現に向けた一歩といえるでしょう。
腸内マイクロバイオームやAIを活用した個別化栄養は、まだ研究が進められている段階です。今後、科学的な検証が重ねられ、一人ひとりに合った食事の提案へとつながっていくのか。植物が持つ成分の可能性と、それを解き明かす科学技術の進展に期待が高まります。





