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『ワークシックバランス』とは? 剛力彩芽が聞く、ヤンセンファーマの啓発活動


この記事に該当する目標
3 すべての人に健康と福祉を 8 働きがいも経済成長も
『ワークシックバランス』とは? 剛力彩芽が聞く、ヤンセンファーマの啓発活動

持続可能な開発目標「SDGs(エスディージーズ)」を学べるニッポン放送の特別番組『SDGs MAGAZINE』。2021年1月8日に放送された第10回はSDGsのゴール3「すべての人に健康と福祉を」とゴール8「働きがいも経済成長も」がテーマとなった。番組の後半では、ヤンセンファーマ株式会社の岸和田直美さんをゲストに招き、女優の剛力彩芽さんと明治大学経済学部准教授で経済学者の飯田泰之氏が、それぞれの問題に大きく関わる「ワークシックバランス」という考え方について聞いた。

「ワークシックバランス」という言葉を聞いたことがあるだろうか。「仕事と生活の調和」を表す「ワークライフバランス」は一般的なワードになっているが、こちらは「仕事と病の両立」を示す言葉だという。その啓発を行うのが世界最大のトータルヘルスケアカンパニー、ジョンソン・エンド・ジョンソングループの医薬品部門であるヤンセンファーマ。今回は同社でコミュニケーション&パブリックアフェアーズ部セラピューティックエリア・コミュニケーションリーダーを務める岸和田さんに話を聞き、その取り組みを掘り下げた。

剛力 「まず、岸和田さんはどのようなお仕事をされているんでしょう」

岸和田 「一言で言いますと治療領域の広報です。例えば、疾患や新しい薬剤が出たときにメディアの方に正しく理解していただくためのコミュニケーションをしています。患者さんの薬だけでは満たされない課題、ニーズにともに向き合うために、どういう啓発が必要かなどを活動に落とし込んで進めていくこともしています」

剛力 「まず、ヤンセンファーマが取り組んでいるSDGsに関する活動を伺いたいのですが、同社が注力しているSDGsのゴールは」

岸和田 「私たちヤンセンファーマは人々の健康を向上させるといったことを目指しています。具体的にはゴール3の『すべての人に健康と福祉を』、ゴール5の『ジェンダー平等を実現しよう』、ゴール17の『パートナーシップで目標を達成しよう』の取り組みを推進しています。製薬会社としては革新的な薬剤を提供するのが一番のミッションなのですが、薬だけではなかなか患者さんのニーズを満たしきれるかというと必ずしもそうではない。私たちは「ビヨンド・ザ・ピル(薬剤を超えて)」という姿勢を大切にしているんです」

剛力 「その中で岸和田さんが取り組まれているのが『ワークシックバランス』ということですが、この言葉は正直、今回初めて聞きました」

岸和田 「一言で言いますと“仕事と病の両立”です。病気があっても、周囲の理解を促しながら仕事と病の調和を取り、自分らしい働き方をご本人が選択できることを目指す考え方です。2020年10月に全国の就労中の男女 1,000人を対象に調査を行った結果、働く人の約3人に1人(32%)が定期的な通院が必要な持病を抱えているというデータがあります。つまり、『ワークシックバランス』は、多くの人にとって身近な課題であり、ぜひそれを広めていきたいなと考えています」

剛力 「病気を隠すというより、病気とともにお仕事ができる環境づくりを啓発する取り組みということですね」

飯田 「全くの素人から見ると、持病を抱えている方のかなりの方が一見しただけでは治療中とはとても感じられないというケースがあります。これって、働いている当人からすると逆に変に気を使われてもつらい半面、全く気付いてもらえないのもつらいところなのかなと思うんです」

岸和田 「そうですね。患者さんによっては病気のことを言えないという方もいらっしゃいますので、自分で働きやすい就労環境を築いていくためには一つの選択肢として病気のことを周囲に正しく知ってもらって、その上で働きやすい就労環境が広がっていくことを私たちは願っています」

剛力 「働く場所、環境が健康ということですね」

SDGsのゴール8「働きがいも経済成長も」のターゲットには「若者や障害者を含む全ての男性及び女性が、自分らしく働けるようにする」という項目がある。それは、病気を抱えながら働く人も含む考え方で、病気や患者に対する社会の理解が深まることが、まさに社会全体の成長にもつながることを意味する。

剛力 「この『ワークシックバランス』という言葉はいつ頃生まれたんですか」

岸和田 「昨年11月に改めて発表させていただきました。ヤンセンファーマでは2019年からIBD(炎症性腸疾患)の疾患啓発を進めています。IBDは主にクローン病と潰瘍性大腸炎を指しているのですが、患者さんの多くが10代から20代で罹患される一方で、根治する治療法がなく、一度その病気にかかると一生向き合っていかなくてはいけないという特徴があります。つまり、働きながら向き合っていかなくてはならない病気といえるんです」

腸に炎症が起こるIBDは主に下痢、腹痛、発熱などの症状があり、日本の患者数は約29万人にものぼるとされている。また、病気が落ち着いている寛解期と、病気が悪くなる再燃期を繰り返す特徴もあるという。

剛力 「傍から見ると、理解がなければお腹が痛いくらいの問題に思われてしまいそうです」

飯田 「私の知人にも潰瘍性大腸炎を患っている人がいるのですが、普段はたくさん食べるし、全然元気なんです。しかし、どのタイミングで厳しい健康状態になるか全く分からない中で仕事をしているプレッシャーは、かなり大きいのかなと思います。さらに、日本の場合はメディアの問題もある。病気で職務が継続できなくなったときに『病気なのに、なんでそんな重要な仕事をしたんだ』とか『病気だったら仕事をするな』という批判が平気で行われる。この環境も変えていかないと『ワークシックバランス』を実現するのは難しいように思います」。

ヤンセンファーマは啓発活動の一環としてイベントも行っており、2020年12月11日から13日の期間には東京・二子玉川ライズ・ガレリアでIBDを事例として仕事と治療の両立を考える「ワークシックバランスひろば」を開催した。イベントに先立って行った同11日のメディアセミナーでは、エッセイスト・タレントの小島慶子さん、北里大学北里研究所病院炎症性腸疾患先進治療センター(IBDセンター)副センター長の小林拓氏、医療ジャーナリストの森まどかさんらを招いたトークセッションも実施された(詳細はhttps://sdgsmagazine.jp/2021/01/08/1004/)。

岸和田 「人事総務系の方にIBDや仕事と病気の両立というテーマのセミナーも開催するなど、2019年から疾患啓発に取り組んでいますが、そうした活動の中で大きな学びとなったのが、このテーマが“世の中ごと”になっていないということです。メディアの方もイベントにお呼びするのですが、なかなか広がっていかないんですよね」

剛力 「どこか他人ごとになってしまう・・・」

岸和田 「そうですね。病気ってなってみないとなかなか当事者の方の気持ちにはなれないところがあるものですが、とはいえ働いている人の3人に1人が病気を抱えているとなると、自分が病気ではなくても同僚の方が罹患している可能性もあり、実際は身近なテーマなんです」

飯田 「すごく単純な話をすると、病院のベッドで寝ている方が病気なのは誰でも分かるけれども、当然ながら多くの方が入院しているわけではないんですよね。病気というと、ベッドで寝ている方というイメージが固定し過ぎているのかなとも思います」

剛力 「病気を持っている方にどう接すればいいのかという難しさもあります。誰もが、気を使ってほしいわけでもないと思うんです」

岸和田さんによると、持病を抱えている人のうち約半数以上(55%)が日常や仕事に影響があると回答しながら、上司に持病を伝えている人は32%にとどまり、上司や同僚といった周囲の人たちに自身の病気のことを言いにくいと感じている現実があるのだという。また、周囲の人たちの約7割が「どのようにサポートしたらいいか分からない」「病気について触れていいのかわからない」など疾患に関するコミュニケーションの難しさを課題に挙げており、両者のギャップを埋めることが、課題解消の大きな一歩になるのは間違いない。

岸和田 「そのギャップを埋めるためにも『ワークシックバランス』というコンセプトが広まって、もう少し職場で体調のことや病気のことが話しやすくなるような環境が広がっていってほしいなと考えています」

飯田 「60代以上の就労が当たり前になってきていて、今後は恐らく70代前半まで拡張されると思います。そうなると、より持病を抱えながら仕事をするのが普通な状態になっていくわけです。これからの高齢化社会においては大体の人は持病を持っている前提で会社側も意識を変えていかないといけないですよね」

岸和田 「あとは、患者さんが在宅勤務をしやすい環境をサポートする取り組みとして、リモートワーキングロボットの無償貸し出しもしています。会社側にロボットがいて、患者さんはご自身のパソコンで遠隔操作ができる。オフィスにはいないんだけれども、オフィスにいるようなコミュニケーションを取れるのが特長になっていて、疾患を問わず会社の許可を得られれば無償で2週間の貸出しをしています」

剛力 「どんどんいろいろな人が働きやすい環境が広がっていくんですね」

番組の最後に、岸和田さんはSDGsが目指す2030年のあるべき未来に向けて、リスナーへメッセージを送った。

「10年後には『ワークシックバランス』というコンセプトが広く浸透して、病気か仕事かという二者択一ではなく、病気と仕事という“アンド思考”で自分らしく働くのが当たり前になってほしいなと思います。まずは、きょうの番組をきっかけに『ワークシックバランス』という言葉を知ってもらったり、IBDについて知ってもらったりするきっかけになればうれしいなと思います」

そんな呼び掛けに、剛力さんは「どうしても他人ごとになってしまいがちなことを一人一人が意識することで、職場が健康になることが大事なんじゃないかなと思いました。『ワークシックバランス』というコンセプト、広めたいですね。病気や何かを抱えていることが当たり前であるということが日常的に意識されればいいなと思いました。2021年は、もっと自分の言葉で発信していける年に出来たらいいなと思います」と呼応した。「ワークシックバランス」という考え方も、SDGsのゴール3「すべての人に健康と福祉を」、ゴール8「働きがいも経済成長も」の実現に向けたカギといえそうだ。