何が変わった?何で変わる?2022年4月に施行された法改正まとめ
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出会いと別れの季節、春。日本では、新学期や新年度と何かと区切りの季節とされています。4月も後半にさしかかり、それぞれ新生活を迎えた方も少しずつ慣れてきた頃ではないでしょうか。
日常生活でも変化の多い時期ですが、社会的な変化も多く、この4月に様々な制度が施行されました。2022年4月に施行された、私たちの暮らしに関わる5つの制度について見ていきましょう。
1.民法上の成年年齢が20歳から18歳に引き下げ
日本の成年年齢は明治時代より約140年間、20歳と定められていましたが、民法改正により2022年4月1日から18歳に変わりました。では、成年年齢の引き下げにより何が変わったのでしょうか。
18歳(成年)になったらできること
・親の同意なしの契約(携帯電話、クレジットカード、部屋を借りるなど)
・10年有効のパスポート取得
・国家資格の取得(医師免許、公認会計士、司法書士、薬剤師免許など)
・結婚(女性の結婚可能年齢が引き上げられ、男女ともに18歳に)
・性同一性障害の性別の取扱い変更審判請求
20歳にならないとできないこと
・飲酒
・喫煙
・競馬、競輪、オートレースや馬券の購入
・養子を迎える
・大型・中型自動車運転免許の取得
そもそも、なぜ成年年齢が18歳に変更になったのか。それは2016年に選挙権の年齢が20歳から18歳に引き下げられたことが挙げられます。国政の重要な判断に18歳が参加するということで、市民生活に関わるルールを定める民法でも18歳以上を大人として扱うべきではないかという議論が始まり、今回の改正に至りました。なお、こちらについては1月の記事もご覧ください。
2022年4月から成人年齢は18歳に! TikTok法務省と連携「大人になるってどういうコト?」
2.育児・介護休業法の改正
育児・介護休業法とは、働きながら育児や介護を行う労働者が、円滑に仕事と両立できるよう配慮し支援するための法律です。今回は育児休業に焦点が当てられ、4月に以下の2点が改正されました。
企業の雇用環境整備等の義務
育児休業所得を推進する職場環境の提供(例えば研修や相談窓口の設置など)や、妊娠・出産を申し出た本人(または配偶者)に育児休業制度情報を周知し意向を確認する。
有期雇用労働者の育児・介護休業の取得要件の緩和
これまでは育休取得条件として、
1.引き続き雇用された期間が1年以上
2.1歳6ヶ月までの間に契約が満了することが明らかでない
という2つの要件を満たす必要がありました。今回の改正では1が撤廃され、雇用期間に関わらず取得できるようになりました。
2022年10月からは男性の育児休業取得促進のための「産後パパ育休制度」がスタート。また、育児休業を分割して取得可能になるなど、更に柔軟な内容に改正されます。そして、SDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」には、以下のような家庭内における男女の責任分担を推進するターゲットが定められています。
5.04「家事や育児を労働とみなし、家族で、社会全体で分担しよう」
共働きであっても、多くの女性が時間を費やしている育児・介護や家事労働。これらについて評価し、夫婦や家族内で分担する。その大きなきっかけとなるのが、男性の育児休業取得の促進なのかもしれません。女性活躍の機会が増えることは、持続可能な社会を構築するために必要な基盤なのです。
3.不妊治療の保険適用の拡大
不妊治療には、妊娠しやすい時期を医師が指導する「タイミング法」、排卵の時期に子宮内に精子を直接注入する「人工授精」、卵子と精子を体外に取り出し受精卵を体内に戻す「体外受精」の3つがあります。これまで公的保険が適用されていたのは、不妊の原因検査の一部や排卵誘発剤による治療、そしてタイミング法のみで、人工授精や1回の費用が平均50万円かかる体外受精、より高額な顕微受精は対象外でした。今回の保険適用で人工授精や体外・顕微受精、また、男性の不妊手術も自己負担は原則3割になります。なお、現行の不妊治療1回あたり30万円の助成制度は廃止されます。(4月1日時点で治療が続いている場合は経過措置が適用)
適用の対象にはいくつか条件があり、
・対象年齢は治療開始時点での女性の年齢が43歳未満
・体外受精の胚移植の回数は40歳未満が子ども1人につき最大6回の胚移植まで、40歳以上43歳未満は子ども1人につき最大3回の胚移植まで
などがあります。
経済的負担は軽減されても、身体的・精神的な負担の大きさに変わりはありません。不妊治療と仕事を両立できずに退職することになったというのは珍しい話ではなく、これについては引き続き社会全体での支援が必要だと言えるでしょう。
4.年金制度の改正
少子高齢化やシニア世代の活躍などを受け、年金制度も改正されます。改正項目は多岐に渡りますが、ここでは4月に改正された内容を簡潔にご紹介します。主なポイントは2つです。
働きながらでも受け取れる年金額の要件が緩和
働きながら年金を受け取る場合、これまでは月の賃金と厚生年金の合計が28万を超えてしまうと年金は減額されていました。この金額が4月からは月47万円へと緩和されました。
年金受給開始の上限年齢が75歳に延長
これまで年金の受給開始年齢は65歳で、70歳まで遅らせることができていましたが、これからは75歳まで延ばすことができます。受給開始年齢を遅らせるほど、より大きな金額を受け取ることができ、75歳から受給する場合は最大84%の増額が可能となります。
また、2022年5月からは企業型確定拠出および個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入年齢が引き上げられ、10月からは、パートなどの短時間労働者の社会保険適用が拡大されます。
制度による金銭的な制限を理由に働くことに意欲的になれなかった人たちも、この改正によって多様な働き方を選択することができるようになります。経験豊富で優秀な人材を雇用する機会が増えることは、企業側にとっても大きなメリットではないでしょうか。
5.プラスチックごみ削減の義務化
4月に、プラスチック資源循環促進法が施行されました。これは、プラスチックを使用する製品の設計から販売、廃棄物処理に至るライフサイクル全般での3R(リデュース・リユース・リサイクル)+Renewable(再生可能な資源に替えること)を促進し、ゴミを出さないように設計する、サーキュラーエコノミー(循環型経済)への移行を加速することを目的としています。
特定プラスチック製品を年間5トン以上扱う事業者に対しては、削減に向けた目標の制定と対策を講じることが義務付けられたため、私たちの生活にも大きな変化が起きるでしょう。
対象となるプラスチック製品はフォークやスプーン、歯ブラシ、ハンガーなど12品目。これらについて、エコな代替素材やリサイクル可能なものを選ぶといった使用製品の見直しだけでなく、有償化したり不要と申し出た消費者にポイントを還元したりするなど、提供方法についての対応も始まっています。コンビニやホテルなどでは当たり前だったことが、当たり前でなくなることで、私たちのプラスチックへの意識も大きく変わっていくことになるのではないでしょうか。
SDGsのターゲット14.01では、「海へ流れるゴミを減らし、これ以上の海洋汚染を防ごう」を掲げています。海洋プラスチックゴミの80%を占めると言われる陸上からの流出。日本に先駆け、世界では多くの国々が脱プラスチックに向けて動き出しています。プラスチック生産量の多い日本で今回の法律が施行されたことにより、今後、海洋プラスチックの削減に大きな影響を及ぼすことは間違いありません。
暮らしに関わる部分では他にも、商品包装に「無添加」や「不使用」と記載するルールが厳格化されました。これは「無添加の食品は健康で安全」というイメージが独り歩きすると、添加物が入った食品は安全性がないのでないかと思われてしまうことを問題視したようです。
実は日常生活へのインパクトは大
法改正や制度改正と聞くと硬く難しい印象を受けがちですが、実際に調べてみると私たちの生活や暮らしに大きく影響していることが分かります。改正による環境の整備や周知、理解の促進は企業義務になっていますが、私たち一人ひとりが理解を深めることで社会全体で意識を変えていきたいものです。