『ウポポイ』で学ぶアイヌ文化、先人の知恵“自然を大切に共存する世界”
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アイヌ文化を復興・創造させる拠点として創設された施設「ウポポイ(民族共生象徴空間)」は、主に国立民族共生公園、国立アイヌ民族博物館、慰霊施設があります。アイヌ文化の振興だけでなく将来に向けてアイヌ文化を伝承し、先住民族の尊厳を尊重し、差別のない多様で豊かな文化を持つ活力ある社会を築いていくための象徴として整備されたものです。
今回は、アイヌ文化の象徴的な「カムイ(いわゆる神)」の信仰とともに、持続可能な未来に繋がるポイントについて紹介します。
アイヌ文化の発信拠点!『ウポポイ』とは?


愛称「ウポポイ」は、アイヌ語で「(おおぜいで)歌うこと」を意味します。
令和2年に一般公開された「ウポポイ(民族共生象徴空間)」の中の「国立アイヌ民族博物館」では、アイヌ民族の視点で語る6つのテーマが展示され、より深くアイヌ文化を知ることができます。
その他にも国立民族共生公園内には、「体験交流ホール」や「体験学習館」など、実際にアイヌ文化を見て・感じることのできる施設が点在しています。
「体験交流ホール」では、重要無形民俗文化財指定の「アイヌ古式舞踊」や、「ムックリ」というアイヌ民族に古くから伝わる竹製の口琴の演奏など儀礼や日常の様々な場面で演じられてきた伝統芸能の魅力を垣間見ることができます。


またアイヌ民族のチセ(家屋)が並ぶ「伝統的コタン」エリアでは、茅葺のチセが再現されており、家屋内では生活空間を体験したり、伝統衣裳を着て写真を撮ることができるエリアもあります。
食べて遊んでアイヌ民族の暮らしを体験


「体験学習館」では、伝統料理「オハウ」を試食することができます。
「オハウ」とは、魚や肉、山菜、野菜といった具材を煮込み、塩、油でシンプルに味付けされたスープです。今回の体験で食したオハウは「チェㇷ゚オハウ」(サケの汁物)でした。その材料の一つ、重要な食材として重宝されています。


サケを洗って2ヶ月ほど寒風にさらした後チセの囲炉裏で燻して作る「サッチェㇷ゚(干し魚)」といった保存食も寒さの厳しい土地で暮らす中で受け継がれた知恵です。


また体験学習館-別館では、アイヌ民族に伝わる弓矢を使った遊びを体験することもできます。弓矢体験「アクシノッ」は、遊び用の弓矢を再現したもので的に向かって矢を放つプログラムです。狩りに出かけ、エゾシカやヒグマなどの獲物を狩って貴重な食糧としていました。子供たちは幼少期に遊びを通して弓矢の練習をして道具の使い方を覚えたそうです。
腕力と集中力がないとなかなか的には当たりませんが、先の尖っていない矢で大人も子どもも楽しく体験できます。その他にも、体験学習館ではVRでカムイ(いわゆる神)とされている動物の視点から見る迫力の映像体験が楽しめます。
工房では、刺繍や木彫の制作物、制作風景を見られるだけでなく、伝統楽器の「ムックリ」の演奏体験や、刺繍体験・木彫体験など体験を通してアイヌ民族の暮らしを身近により深く知ることができます。
「カムイ」の信仰




「ウポポイ(民族共生象徴空間)」では、アイヌ文化を知るには欠かせない「カムイ(いわゆる神)」について学習することができます。アイヌの世界観では、人間の周りに存在するさまざまな生き物や自然現象や道具などには「ラマッ(霊魂)」が宿っており、それぞれ生きていると考えます。その中でも、人間にとって重要な働きをするもの、強い影響があるものを「カムイ」と呼んで尊敬します。アイヌ民族には、この「カムイ」を信仰する文化があります。
人間が暮らす世界とは別に「カムイ」が住む世界があり、さまざまな「カムイ」は普段そこで人間と同じ姿で生活しています。そして、人間の世界で役目を果たしたり、遊びに行ったりするときに、動植物や自然現象や道具など、さまざまな姿にその身を変えて人間の世界へ行くと考えます。
アイヌ文化の中では動物を捕まえた場合や道具が壊れた場合は、感謝の気持ちとともに、「カムイ」の霊魂をもといた自分たちの世界に帰す「霊送り」という儀礼を行います。
捕らえた獣や魚などの動物や採集した植物は食べるだけではなく、さまざまな道具の材料にもなります。例えば、動植物の皮から衣服や靴などを仕立てたり、動物の骨は獲物を捕らえる道具の部品にもしたりします。木や草も、家屋や舟やござなどをはじめ身の回りにあるいろいろな道具を作るのに欠かせません。
「カムイ」へ感謝の気持ちとともに、自分たちが得た動植物―自然からの恵みを無駄なく利用することで、アイヌ民族は北海道の厳しい自然を暮らしてきました。
「カムイ」から私たちが学ぶこと


アイヌ文化の「カムイ」に感謝し動物や道具を無駄なく大切に使うという考え方は、現代社会で持続可能な環境資源を守るうえで重要です。
これは、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」に通じているように思えます。
また、環境資源を守る心構えを持って適切に資源を活用することで、不必要な資源の乱獲や乱用を避け、目標11「住み続けられるまちづくりを」にもつながります。
アイヌ文化を通して、限られた地球資源のために私たちが大切にしなければならない精神を学び、考える機会にしてみるのもいいかもしれません。
執筆/フリーライター Nami Harashima