富山県の獅子舞を通して考える、伝統文化を次世代に伝えるためのモデルケースとは?
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地域ごとに特色ある獅子舞を、現在でも数多く保存・継承している富山県。その数はなんと1,000を超え、全国屈指の継承数を誇っているそう。この文化は、伝統芸能としてはもちろんのこと、地域住民のアイデンティティやコミュニティの結束を強める重要な役割を果たしています。しかしながら、近年深刻な問題として挙げられているのが、高齢化や人口減少です。これにより、伝統文化の継承も危機に直面しているのだとか。さて、地域のアイデンティティを守りながら未来の世代へ文化を伝えるべく、獅子舞を継承するために、一体どんな取り組みが行われているのか、ここではチェックしていきましょう。
獅子舞を活用して地域コミュニティの活性化を図る
今回注目するのは、富山県が実施している『「祭りで富山を元気に!」歴史ある伝統的な祭りを未来につなげるプロジェクト事業』。観光庁の補助事業として採択されたというこのプロジェクトですが、獅子舞をはじめ、小矢部市の『津沢夜高あんどん祭』、 魚津市の『たてもん祭り』、富山市八尾町の『越中八尾おわら風の盆』、射水市の『新湊曳山まつり』の4つの祭りを対象にしているそう。地域に根付く文化の魅力をより多くの人々に伝え、今後も長きにわたり文化が継承していくことを目的としているとのこと。伝統文化を活用しながら、地域コミュニティの活性化を図る本事業は、SDGsの目標の一つである「住み続けられるまちづくりを」にも関わってくる部分ではないでしょうか。
現代に合った文化の再解釈とは?
それでは具体的に、本プロジェクトの第一弾で行われたことをご紹介していきたいと思います。この第一弾では、地元企業と連携し、獅子舞をテーマにした商品の開発を行いました。若い世代を含む多様な層に、伝統文化を身近に感じてもらうための新たなアプローチとして実施されたこの取り組みは、現代的なデザインや商品化を通じて、伝統文化が再び脚光を浴びるきっかけを作り出しています。


例えば、富山県で寛文三年(1663年)創業の老舗店「島川あめ店」とコラボレーションした「とやまの獅⼦まめ」。島川あめ店のロングセラー商品でもある、富山県産大豆と麦芽水飴を原料に作られた豆菓子をアレンジしているようです。獅子頭に見立てた赤豆に、紅白のおめでたい印象を持たせるべく白豆を忍ばせた商品は、 素朴で優しい味わいながらも、ついつい手が伸びてしまうあと引く美味しさが魅力的。


また、島川あめ店と同じく富山県の自家焙煎コーヒー店「FLAT COFFEE」とコラボレーションしたオリジナルブレンドのコーヒーバッグ「とやま獅⼦舞ブレンド」も。深煎りのマンデリンと浅煎りのエチオピアをバランス良く配合し、富山の獅子舞のような力強さと華やかさを兼ね備えた一杯に仕上がっているとのこと。豆菓子・コーヒーバッグともに、デザインや味わいから獅子舞らしさを感じさせますね。どちらも2024年12月27日より、富山県内のお店や大阪のアンテナショップにて、数量限定で登場しているそうです。
地元の経済活動とも密接に繋がっている
ここまで見てきたように、地元企業との関わりはもちろんですが、それに加えて、パッケージに使用されているオリジナルデザインの獅子舞についても、こだわりが垣間見えました。こちら、富山県高岡市在住のデザイナーを起用しており、この点からも地元の経済活動に密接に繋がっていることが分かります。新たな雇用の創出をはじめ、小さな頃から獅子舞に慣れ親しんでいたデザイナーだからこそ表現できる“獅子舞の魅せ方”もポイントではないでしょうか。
「一見怖いイメージもあるけれど、地元に愛されている獅子舞を多くの方に知ってほしい」という願いのもと、 本プロジェクトでは、キャラクターのような少しおどけた表情を意識した、親しみの持てる獅子頭が誕生しました。このデザインを活用し、今後も富山県のさまざまな事業各社とのコラボレーションを展開していく予定ということで、一体どのような広がりを見せるのか今からワクワクします。
次世代に向けたまちづくりのモデルケースに
改めて、この富山県の取り組みは、文化的遺産を活用した持続可能なまちづくりのモデルケースと言えそうです。地域資源を活かしながら、観光や地元企業の振興と連携し、伝統文化を未来へ紡ぐ方法を提示する……。他県の受け手が獅子舞の文化を知るきっかけとして機能するだけでなく、住民一人ひとりが地域の価値を再認識し、文化を共有するきっかけとしても有効かと思います。獅子舞を継承することは、伝統を伝え守るという意味を含むと同時に、地域の誇りを未来に繋げることでもあるでしょう。今回注目したこの富山県の挑戦が、他の地域にも広がるインスピレーションになり得ることに、いま期待が寄せられています。「住み続けられるまちづくりを」の実現に向けて、このモデルケースをどう捉えるかが、今後重要なキーポイントになりそうです。
執筆/フリーライター 黒川すい