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Z世代を中心とした若者が「自然環境ボランティア」に参加する理由


この記事に該当する目標
11 住み続けられるまちづくりを 15 陸の豊かさも守ろう 17 パートナーシップで目標を達成しよう
Z世代を中心とした若者が「自然環境ボランティア」に参加する理由

ESG経営が加速するなか、持続可能な開発目標(SDGs)17の目標の中でも、若い世代の間で自然環境保全のボランティア活動に関心を持つ人が増えています。参加することで「自分のしたことが社会にどのような影響を与えるか?」がわかりやすく、成果が可視化できることも参加理由の1つです。
また、ボランティアに参加する若者は、将来的に企業や行政、研究機関などで、環境問題の解決に貢献できる期待も大きく寄せられています。年々、若者世代を中心に活動登録者数を伸ばしている「レンジャーズプロジェクト」の活動について、なぜ若い世代に支持されているか、その理由を分析しました。
※ESG経営:E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス) を重視する企業経営

そもそも「レンジャーズプロジェクト」とは?

「レンジャーズプロジェクト」の始まりは、ある団体の代表者が「この森を守れなくなるから、木を全部切って芝生にしようと思っている……」という声がきっかけでした。いま多くの地域で自然環境保全の活動メンバーの高齢化が進み、活動の継続が危ぶまれています。
「レンジャーズプロジェクト」は、都市の身近な自然環境を保全して未来へつなぐことを目標に、地域の環境保全団体とボランティア希望者をつなぐマッチングプロジェクトです。これまで20年間、毎週のように地域の自然を守る活動を続けています。

この活動は、環境保全の専門家と連携することで、科学的根拠に基づいた里山保全や森林整備、外来種除去、湿地の回復などを実施し、持続可能な社会の実現に大きく貢献しています。

市街地の中に残る樹林地を主体とした神奈川県有地の「桜ケ丘トラスト緑地」。長い間放置されていましたが、都会の中のオアシスとして存続し、蛍や昆虫、そして人間の心地よい居場所となることを願って、市民が中心となって活動しています。「レンジャーズプロジェクト」などの協力もあり、湧水を活用した水田など里山景観が復元しつつあります。

「レンジャーズプロジェクト」への登録者数は年々増え、2019年11月末に3,792人、そのうちの約7割が20~30代でした。2021年末で4381人、2022年度末 4733人と隊員(ボランティア)数が増加し、現在は約5000人の隊員が活動しています。

若い世代に「レンジャーズプロジェクト」が人気の理由

2024年5月、伊豆半島の西側の先端に位置する静岡県松崎町にある、石積みの棚田の田植えボランティアの活動をしました。平成に入り90%が耕作放棄されていた「石部棚田」ですが、地域住民が中心となって復活活動が来なわれ、約370枚の棚田が復活し、未来へとつながる活動となりました。

「レンジャープロジェクト」への参加が増えている理由は、大きく4つ挙げられます。

1.気軽に活動に参加できるアクセスの良さ
「レンジャーズプロジェクト」の主な活動フィールドは、東京・神奈川・埼玉・千葉・大阪の都市近郊です。都市部の自然環境に特化しているためアクセスがよく、しかも活動は週末の3時間だけです。
仕事や学業と両立しやすく、SDGs目標達成につながる活動への参加ハードルの低さが魅力です。若者の間では、受動的な支援(寄付や署名活動など)よりも、実際に現場で体を使って社会貢献できるボランティア活動が人気を集めています。

2.大学側の評価が高まっている
2021年度の入試から「大学入学共通テスト」が導入され、思考力・判断力が重視され、主体性や課外活動が評価されるようになりました。立教大学や青山学院大学などでは、総合型選抜(旧AO入試)※において環境ボランティア活動の経験を出願条件とする学部もあります。
また、一般選抜の割合は減少し、総合型選抜や学校推薦型選抜など、多様な入試方式が増加するなか、ボランティア経験が重要視されるようになっています。自然環境ボランティアの経験があることは、主体性と協調性、課題解決能力の高さを示すことできます。

※総合型選抜(旧AO入試)とは、大学が求める学生像(アドミッションポリシー)に合致した人物を選抜する入試方式。学校長の推薦は基本的に不要で、学力以上に受験生の能力や適性、意欲、目的意識などが総合的に評価されます。

身近な環境保全活動を共にする学生同士の仲間づくりに焦点を当てて、東京都杉並区・「柏の宮(かしのみや)公園」にて、地元ボランティアの柏の宮公園自然の会様のご協力のもと学生同士で交流するイベントを実施しました。

3.企業の採用活動で「社会貢献活動に積極的な人材」が評価される
SDGsやESG経営の推進により、企業は社会貢献活動に参加している人材を評価する傾向が強まっています。社会的価値を理解し、主体的に行動できる人材は、企業のブランド向上にも寄与するため、ボランティア活動が採用時の評価ポイントとして注目されています。
また、環境保護活動に積極的に関与する人は、リーダーシップやチームワークの能力が高いと評価される傾向にあります。

4.子育て世代とZ世代の価値観と合致している
Z世代は、プラスチック削減やエコ活動に積極的で、環境に配慮した製品・サービスを積極的に選びます。将来の就職先を選ぶポイントとして、企業のESG経営を重視するなど、会社選びが多様化してきています。
社会をより良くする仕事に就きたいという価値観を重要視し、自然保護活動のボランティアに参加することで、目指す目標に対して自分自身が適切に到達できるだろうという自信=キャリア自己効力感が高まることもプロジェクトに参加する原動力になっています。

2025年1月25日(土)大阪城公園での活動。この場所は、子どもたちが元気いっぱい走り回れる所です。伸びすぎた草を刈り、枝を切って景観や安全を維持し、利用する人たちが心地よく過ごせるように、みんなで作業をしました。刈り取った枝木は粉砕して堆肥として利用されます。

子育て世代も、環境に配慮した企業やブランドの物やサービスを選ぶ傾向が強まっています。未来の子どもたちのためにサステナブルな生活を取り入れたいという思いが強く、環境保全のボランティア活動に子どもと一緒に積極的に参加しています。

「レンジャーズプロジェクト」は、
「都市近郊の自然環境の保全を通じた住みやすいまちづくり」(SDGs目標11)
「生態系の保護、回復、持続可能な利用の促進」(目標15)
「環境保全団体や企業、ボランティアとの連携強化」(目標17)
といったSDGsの達成に貢献しています。

このプロジェクトを運営するNAREC(認定NPO法人自然環境復元協会)は、ふるさと未来創造プロジェクトや環境再生医の育成・支援、企業のCSR活動支援などを通じて、持続可能な社会の構築を推進しています。
環境意識の高まりとSDGsへの関心の増加を背景に、「レンジャーズプロジェクト」のような自然環境保全のボランティア活動は、いま社会に大きなインパクトを与えて好循環を生み出しています。

レンジャーズプロジェクト
NAREC



取材・執筆/脇谷美佳子