元気に春を迎えるために!今改めて知っておきたい「免疫」の仕組みと風邪や感染症に負けないための栄養素
この記事に該当する目標


冬はなにかと体調を崩しやすくなる季節。この冬は季節性のインフルエンザが流行しただけでなく、溶連菌、⼿⾜⼝病、マイコプラズマ肺炎などが同時多発的に広がり、体⼒が弱った状態で次々と別の病気に感染する『感染症ドミノ』も多く見られ、例年以上に感染症やその対策⽅法に注⽬が集まりました。
2月も終わりに近づき、春はもうすぐですが、ここで気を抜いてはいけません。そもそも免疫とはなんなのか、冬に免疫が低下しやすい理由は何か、そして免疫力をアップするために必要な栄養素まで、今知っておくべきことを、⾷を医学的な観点から研究している伊藤明⼦先⽣に伺いました。
冬の健康トラブルにも深くかかわる「免疫」とは
昨今の感染症流⾏により注⽬を集めている「免疫」。特に冬になると“免疫アップ”、“免疫低下に注意”など免疫というワードを聞く機会が増えますが、そもそも免疫とは何か正しく理解できているでしょうか。
免疫とは、体内に侵⼊したウイルスや細菌などの病原体を認識して攻撃し、全⾝を健康な状態に保つ働きをする⾃⼰防衛システムのこと。免疫⼒は加齢により低下し、個⼈差はありますが20歳頃までにピークを迎え、40代ではピーク時の半分程まで低下します。加えて喫煙や不規則な⾷⽣活によっても下がってしまうので、外⾷が多い⼈や偏⾷の⼈、⾷が細い⼈などは免疫がどんどん低下してしまう恐れがあります。
ウイルスや細菌などの病原体は、普段⽣活している私たちの周りの空気中に⽬にはみえないながらも存在し、⼝や⿐、あるいは⽪膚から体内に侵⼊します。病原体に対して働くのが2種類の免疫機能で、「⾃然免疫」と「獲得免疫」があります。
「⾃然免疫」は、⾃分の細胞ではないものを認識できる機能で、⽣まれつき備わっている⼒です。体に侵⼊してきた病原体をいち早く⾒つけて排除することができます。
もう一つの「獲得免疫」は、⼀度侵⼊してきた病原体を記憶して、次にその病原体が体内に侵⼊したときに機動して排除しようとする仕組みです。ワクチンで病気を予防したり、感染症の種類によっては⼀度かかったものにその後かかりづらくなったりするのは、この獲得免疫によるものです。
冬に免疫が低下しやすくなるのはなぜ?


冬は免疫が低下しやすい条件が揃っており、⾵邪などの感染症にかかりやすくなります。原因は様々ありますが、主にあげられるものは3つです。
1つ目は、冬はビタミンDが不⾜しやすいこと。ビタミンDはカルシウムの吸収促進、⾻の成⻑促進に加えて、体内に侵⼊してきたウイルスを⾷べて細かく破壊する「マクロファージ」と呼ばれる免疫細胞の活性を助ける働きがあり、免疫⼒向上に⽋かせない栄養素です。
ビタミンDはそもそも、⽇光にあたることで体内で作られる栄養素ですが、⽇本⼈は紫外線を気にする⼈が多く、日光にあたる量が少ないためビタミンD不⾜になりがちです。冬は特に⽇照時間の短さや寒くて家の中にこもりがちになるなど、⽇光にあたる機会が極端に少なくなります。当然、紫外線を浴びることが少なくなるためビタミンDは低下し、関連して免疫の低下をきたします。
2つ目は、冬の乾燥による免疫⼒の低下。気温が低い冬は、空気中に含まれる⽔分量が夏より減るうえに、暖房を使うことで飽和⽔蒸気量に対する空気中の⽔分割合が低くなるため乾燥しやすくなります。
空気が乾燥していると、菌やウイルスが空気中に浮遊しやすく繁殖⼒が⾼くなります。 加えて、のどや⿐の粘膜も乾燥しやすくなり、ウイルスなどをブロックする働きが弱まり免疫⼒の低下に繋がります。冬に加湿器・霧吹きなどを使⽤して室内の湿度を上げることやこまめな水分補給が勧められるのはこのためです。
3つ目は、酵素の活性低下。酵素は、体の中で起こっている化学反応を担うタンパク質です。⼈間の体には、⾷べ物の消化を⾏う「消化酵素」などおよそ5000種類の酵素が存在します。なかでも免疫に深く関係しているのが「代謝酵素」。⾝体の反応の中で消化以外の⽣命維持のために起こる化学反応を担当しており、体の細胞ひとつひとつに働きかけ、新陳代謝の⼿助けをしています。
酵素はそれぞれが働くための「⾄適温度」(⼀番活躍できる温度)があります。冬でもほとんどの⼈は恒常性機能(からだの状態をおなじように保とうとする機能)があるので寒いからといって体温が下がることはありませんが、⼀部の低体温の⼈で、免疫に関連する酵素が効率よく働くための体内環境が得られないと、酵素活性が低下してしまい、免疫にも影響します。
免疫サポートに⽋かせない栄養素4選!その役割と効率的な摂取方法を伝授
健康的な⽣活を送るために重要な役割を果たす免疫システムは、バランスのとれた⾷事や適度な運動・睡眠を通じて強化することが出来ます。特に免疫システムの向上に⽋かせない栄養素としておすすめしたいのは「ビタミン C」、「ビタミンD」、「ビタミン E」、「亜鉛」の4つです。
健康に必須な栄養素「ビタミンC」
まず1つ目はビタミンC。ビタミンCは、それ⾃体が強⼒な抗酸化物質(病原体の攻撃や炎症の抑制に役⽴つ)で、体内に侵⼊したウイルスや細菌と戦う免疫細胞の機能をサポートします。⽩⾎球に多く含まれていることから、ビタミンCを適量摂取することで免疫機能がサポートされ、病気への抵抗⼒を⾼めることが期待できます。


ビタミンCといえばレモンが思い浮かぶ⽅もいると思いますが、柑橘系だけでなく、アセロラや苺、野菜だとパプリカやブロッコリーなどにもビタミンCは多く含まれています。ビタミンCは体内で合成できない栄養素のため、⾷事で摂取しなければなりません。⽔に溶けやすく熱に弱い性質なので、ビタミンC を多く含む⾷材を調理する時は、⽔に流れでてしまう調理法ではなく、汁・スープもそのまま摂取できるものがよいでしょう。
また、体外への排出スピードが早いので、⽇々の⾷事からこまめに取りいれたり、サプリメントをうまく活⽤することもおすすめです。不安・疲労・寒暖差・睡眠不⾜、また⾵邪などの感染症にかかった時には、ストレスを感じることが多くなりますが、ビタミンCはストレスにさらされることで急速に消費されてしまう栄養素でもあるので、その際は特に意識して摂取しましょう。
免疫を調節し、抗ウイルス作⽤で感染症への防御作⽤をもつ「ビタミンD」
2つ目におすすめしたい栄養素はビタミンD。 ビタミンDは、殺菌作⽤を発揮する⼒をもつ「抗菌ペプチド」という成分を作る働きをし、体内に侵⼊したウイルスや細菌などに対して必要な免疫機能を助ける役割を担います。このため⾵邪やインフルエンザ、気管⽀炎や肺炎などの感染症の発症、悪化の予防にも関与するといわれています。また、ビタミンDは腸粘膜を修復する働きがあることから免疫に多⼤な影響⼒をもつ腸にとってもなくてはならないビタミンです。


前述したように、ビタミンDは本来、太陽にあたることで体内で作られる栄養素で、必要量の約8割は太陽にあたることで作られ、⾷事から作られるビタミンDはせいぜい2割程度です。過度な紫外線対策はせずに、⾃然に太陽光にあたることができるときは⽇光を避けないように過ごすのがよいでしょう。なお、ビタミンDが多く含まれる食べ物としてあげられるのは鮭、イワシ、卵などです。
ビタミンの中で最も強い抗酸化作⽤を持つ「ビタミンE」
おすすめの栄養素3つ目はビタミンE。強い抗酸化作⽤を持つ脂溶性のビタミンで、体内の脂質の酸化を防ぎ、⾎管の健康維持に役⽴ちます。⼀般的に抗酸化作⽤のビタミンとして知られていますが、免疫細胞を活性化させる作⽤もあり、体内に侵⼊してくる細菌やウイルスを防ぐ働きを持った免疫⼒に⽋かせない栄養素です。


ビタミンEは卵やうなぎ、カボチャなど幅広い⾷物に含まれているため、⾷事がとれていれば⽐較的不⾜する可能性の低い栄養素です。しかし近年、ダイエットや多忙による偏った⾷事をする⼈が増えており、ビタミン E⽋乏症の⽅も意外に増えているので注意しましょう。
健康維持や体調管理に⽋かせない「亜鉛」
おすすめの栄養素の最後の1つは亜鉛。200種以上の酵素の構成や酵素反応の活性化、ホルモンの合成や分泌の調整、DNA 合成、タンパク質合成、免疫反応の調節などに作⽤し、⾝体の成⻑と維持に必要な栄養素ですが、体内では作ることができない「必須微量ミネラル」の⼀つです。体内に⼊り込んだ異物、ウイルス、細菌などを駆除してくれる「免疫細胞(⾃然免疫、獲得免疫)」が正常に成⻑し、機能するようになるまでをサポートしてくれる為、免疫⼒維持に⽋かせません。さらに活性酸素を除去する酵素の働きを助けることもわかっており、亜鉛が⽋乏する事で免疫機能だけでなく抗酸化作⽤も正常に働かなくなってしまいます。
また、感染症にかかると、病原体と闘う際に⽩⾎球が体内にあった亜鉛を使ってしまうため、体内に亜鉛があっても亜鉛が減ってしまいます。⾵邪を含め、感染症になってしまったときは普段以上に亜鉛を補充することが⼤切です。


亜鉛の含有量が多い⾷材は、牡蠣やからすみ、⽜⾁ですが、⾼級⾷材や、なかなか⼿に⼊らない⾷材に含まれていることが多く、日本は先進国で唯⼀亜鉛⽋乏者が10〜30%いることが報告されています。亜鉛の吸収を⾼める栄養素には、動物性タンパク質、クエン酸、ビタミンCが挙げられます。そのため⾁、⿂、卵、⽜乳、柑橘類などの⾷べ物と⼀緒に亜鉛を摂取すると、亜鉛が効率よく利⽤されます。反対に、アルコールで失いやすいため、飲酒時には牡蠣のオイル漬けや⽸詰をおつまみに常備しておくと安⼼です。
監修者の伊藤先⽣によれば、寝不⾜や⾷⽣活の乱れはグローバルなトレンドでは「ダサいこと」だそう。SDGsの目標3は「すべての人に健康と福祉を」。私たちも少し意識を変えるだけで、より健康的な生活を送ることができます。気づいた時が始める時。”必要な栄養素”などを意識しながら、体調を崩さず楽しい春を迎えましょう。
監修者プロフィール
⾚坂ファミリークリニック医院⻑ 伊藤明⼦(いとう みつこ)先⽣


医師になる前から同時通訳者として天皇陛下や歴代⾸相、⽶国⼤統領の通訳を務め、現在も医学系会議を中⼼に活動。通訳の仕事をしながら2児をもうけたあと、40歳で医学部を受験し医師に。⾷を医学的な観点から研究しており、海外の学術論⽂から⽇々最新の情報をアップデートしている。⼀般診療に加え、栄養・⾷事療法、ストレス管理、(バイオフィードバック・ニューロフィードバック)での診療を行っている。わかりやすい説明と親しみやすい⼈柄で信頼は厚く、メディア出演も多い。東京⼤学医学部附属病院医師。社会医学系専⾨医。
主な著書は『子どもの食事 50 の基本』、『はたらく細胞公式レシピ BOOK』、『細胞のおそうじふりかけ』など
栄養素についてもっと詳しく学びたい方は、日本のこれからの健康と栄養素についての正しい知識づくりをサポートするWEBサイト『大塚製薬 栄養素カレッジ』もご覧ください。
執筆/フリーライター Yuki Katagiri