互いの違いを理解し、交流を深めるには?ろう者と聴者が遭遇する舞台作品『黙るな 動け 呼吸しろ』始動
この記事に該当する目標


東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団及び国立大学法人東京藝術大学が、2025年11月のデフリンピック開催にあわせ、“ろう者とろう文化に対する社会的認知”と“ろう者と聴者が互いに共通理解を図ること”を目的とした、ろう者と聴者が遭遇する舞台作品「黙るな 動け 呼吸しろ」を、11月29日(土)に東京文化会館大ホールで上演します。
「黙るな 動け 呼吸しろ」は、世界陸上とデフリンピックが開催される2025年に実施する3つのアートプロジェクト「TOKYO FORWARD 2025 文化プログラム」の一つ。ろう者にとってのオンガク、聴者にとっての音楽の本質を互いの交流の中で探究し、言葉や文化が異なる両者が創作の場で遭遇していきます。そのプロセスをベースに創り出されていくオリジナルストーリーを、日本手話と日本語によって上演する、世界初演の作品です。
「黙るな 動け 呼吸しろ」このタイトルに込められた意味
「異なる言語、文化に出会うと、通じないと思って黙ってしまう、変わらないと思って動きを止めてしまうことがある。それぞれの呼吸のリズムが交わる『オンガク』と『音楽』の表現を通して、停滞する状態を解きほぐしていきたい」本作品のタイトル「黙るな 動け 呼吸しろ」には、そんな願いが込められていると総合監修を務めた日比野氏は言います。
制作陣は、聴者、ろう者が交じり合ったクリエイションメンバーで構成されています。総合監修を東京藝術大学学長の日比野克彦氏が、構成・演出を牧原依里氏、演出・出演を島地保武氏が、ドラマトゥルク(演出家に助言やサポートをする役割)を雫境(だけい)氏と長島確氏が務めます。
今回の企画経緯について日比野氏は「10年前に牧原さんと出会い、ろう文化を知った。その後、10年の時を経て東京都からこのお話をいただき、ろう者と聴者にとって相互の文化理解ができるような舞台を、と提案した」と話し、牧原氏は、「ろう者のまち、聴者のまちは、現実社会を投影したもの。“共生”という言葉をよく耳にするが、聴者の皆さんが思っていることと(ろう者の)私が思っていることは少し異なると思う。そのイメージを舞台にできたら」と語りました。
また日比野氏は、「本作品は、制作陣で行っている定期会議の中での発見や、一緒に実際に外を歩いてみて感じたこと、一般の方を交えたワークショップで新たに発見したことなどをもとに制作している。“ろう者の文化と聴者の文化が融合した世界初の舞台の目撃者”に是非多くの人になってほしい」と意気込みを述べました。
ストーリー (プレス資料より抜粋)
霧に包まれた「ろう者のまち」。建国記念日の式典が行われている。そこへ1人聴者が迷い込んでくる。 霧を抜けて「聴者のまち」からやってきたのだ。
ろう者の「オンガク」を伴う式典の様子に見とれる聴者。 3人のろう者と親しくなり、このまちで暮らすようになる。
「ろう者のまち」は、浮遊し移動するまちである。
ろう者だけが暮らし、ろうの文化が発達し、あらゆるものがろう者に便利なようにできている。50年ごとに「聴者のまち」に接近し、数年間近くにとどまるが、霧に遮られ、互いに知らない。
2年が過ぎ、聴者は3人のろう者を「聴者のまち」へ誘う。
「聴者のまち」は一極集住が進み切った超高層巨大都市である。 音の文化が発達し、一方で、人口過密ゆえに騒音問題が深刻化し、極度に静寂が求められている。
2年ぶりに戻った聴者は、3人のろう者に「聴者のまち」を案内する。 さまざまな出会いを通して、4人はやがてコンサートに参加することになる……


「聞こえない」は、目に映らない。
今年11月15日(土)~26日(水)にかけて、「東京2025デフリンピック」が開催されます。
デフリンピックとは、世界中のデフアスリートが一堂に会する国際的な総合スポーツ競技大会。デフ(deaf)は、英語で「耳が聞こえない」という意味を持ち、耳が聞こえなかったり聞こえづらいろう者の選手は「デフアスリート」と呼ばれます。競技中は補聴器などを外し、聞こえない状況で競技を行います。デフリンピックはオリンピック同様4年ごとに開催されており、これまで世界26カ国で開催されてきましたが、東京での開催は今回が初めてです。
デフリンピック開催に合わせ上映される本作品の目的は2つ。
1つ目は、視覚で世界を捉えるろう者の存在と、ろう文化に対する社会的認知を高めること。2つ目は、ろう者と聴者が互いに共通理解を図ることです。
「聞こえない」という状態は目に映らないため、一見すると、その違いがわかりにくいです。音声でコミュニケーションをとる聴者と、手話でコミュニケーションをとるろう者では、それぞれ異なる文化を持っています。こうした違いがあることを知る、その一歩として本舞台があります。
ろう者と聴者の協働による先進的な舞台創作に挑む出演者を広く募集するオーディションを開催
本舞台の上演に当たり、ろう者と聴者の協働による先進的な舞台創作に挑む方を広く募るため、出演者オーディションが開催されます。「ろう者のまち」の住人たちを20名程度、「聴者のまち」のメインキャストを3名程度それぞれ募集し、「聴者のまち」エキストラオーディションも別途実施予定とのことです。
本プロジェクトは、このような出演者募集オーディションや、クリエイションのための公開ワークショップを実施するなど、創作過程をひらき、発信していくことも特徴のひとつです。
SDGsの中には、目標10「人や国の不平等をなくそう」、目標11「住み続けられるまちづくりを」、目標16「平和と公正をすべての人に」、があります。そしてSDGsでは、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。
ろう者は、音や言葉などの聴覚でコミュニケーションをとり世界を知覚する、聴者と“異なる方法”で、世界を認識しています。両者に違いがある中で、具体的にどのような違いなのか、どのように世界が見えているのかを互いに感じ、さらに、異なる文化同士が交流するためにどのような手段・方法があるのか考える、この舞台はそんな大きなきっかけとなるはずです。
この舞台の記者発表の会場は、登壇者・手話通訳者・記者などを含めた座席がひとつの円形に設置されていました。お互いの顔を見合えるような状態にし、手や表情を用いて会話を行う、手話を第一言語とするろう者にとっては重要なことです。こうした一つ一つの発見、そして文化の融合を、是非あなた自身で感じてみてください。
「黙るな 動け 呼吸しろ」出演者募集オーディション
応募期間:2月10日(月)10:00~3月16日(日)23:59
【「ろう者のまち」の住人たち】
応募資格:ろう者・難聴者、10歳以上、性別・演技経験・国籍不問 など
募集人数:20名程度
【「聴者のまち」の住人たち(メインキャスト)】
応募資格:18歳以上、性別・国籍不問、舞台出演経験があり、身体表現に興味がある方 など
募集人数:3名程度
※応募条件に適う方ならどなたでも応募可
※応募はこちらから:ろう者と聴者が遭遇する舞台作品「黙るな 動け 呼吸しろ」公式サイト


執筆/フリーライター Makiko Kawamura