300年の伝統が息づく富山県・南砺地⽅——文化を未来へつなぐ福野夜高祭の特別体験
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「ヨイヤサ、ヨイヤサ」──この掛け声とともに、⾼さ6m以上の⼤⾏燈(おおあんどん)が街中を練り回り、勇壮な夜⾼太⿎が打ち鳴らされる……それが、富山県南砺市の春の風物詩『福野夜高祭』です。日本ユネスコ未来遺産にも登録されているこの祭りは、300年以上もの歴史を誇る伝統的な行事でもあります。今回は、令和7年5月1日(木)から3日(土)にかけて開催されるというこの祭りを、SDGsの11個目の目標である「住み続けられるまちづくりを」の視点で深掘りしてみました。
市民たちの情熱と色鮮やかな行燈が賑やかに行き交う
改めて、福野夜高祭とは、南砺市に位置する福野神明社、その氏子である上町・七津屋・新町・浦町・辰⺒町・横町・御蔵町の 7 町の人々によって行われている伝統的行事です。この7町の中央に位置する「銀行四つ角」周辺を中心に祭りは開催され、各町の大小様々な20本余りの行燈が賑やかに街を練り歩くのだとか。ちなみに、この色鮮やかな行燈は、毎年3月ごろより、それぞれの町の若衆たちを筆頭に制作されるそう。長い歴史を誇る本行事を守ろうとする彼らの情熱や誇りが、ひしひしと伝わってきますよね。そんな行燈はもちろんのこと、太鼓と笛の前触れも祭りを盛り上げる重要な要素。行燈、太鼓、笛……これらが生み出す祭りの一体感が、暗い夜を豊かに、勇壮に、優美に彩るのです。
最大の見どころは「引き合い」
さて、この祭りで特に注目したいのが、2日目の夜が深まった頃に行われる「引き合い」。これは、互いの町の行燈を激しく壊し合う儀礼的なケンカのことを指しています。福野夜高祭の最高潮とも言えるこの瞬間は、かなり迫力満点です。


“ケンカが派手なほど神様の悦びとなり、豊年満作につながる”、この言い伝えを体現するかのごとく、相手の行燈を全力で壊そうとする担ぎ手たちの姿が印象的。狭い通路ですれ違う際に、相手の行燈に飛び乗ったり、吊物(ツリモン)を引っ張って叩き壊したり……激しく繰り広げられる接近戦に、思わず見入ってしまうことでしょう。
伝統を次の世代へとつなげるために──福野夜高祭の特別見学プランを用意
ここまでは福野夜高祭の魅力や特徴を中心に紹介してきましたが、夜空を照らし出す圧巻の行燈を見てみたいと感じる人も多いのではないでしょうか?この祭りの由来、文化などをもっと詳しく知ってみたいと思う人もいるかもしれません。祭りの作り手である市民たちの間で、行燈制作や練り歩きといった伝統の継承をしていくことももちろん大切ですが、我々のような他地域の人に向けて行事を発信していくことも、まちづくりにおいて欠かせないかと思います。そこで、この豊かな伝統を次の世代へとつなげるべく、今年用意されたのが、特別な観覧プラン。地域文化の奥深さに触れながら、まちの魅力を再発見できる取り組みになっているようです。
例えば、大迫力の引き合いを目の前で観覧できる特別観覧席。また、祭りのおすすめ観覧スポットや見学ルート、祭り関係者だからこその夜高祭り・福野の楽しみ方を、祭り関係者が参加者に案内するという内容も、とても興味深いですよね。参加者が地元の人々と交流し、その地域の文化を理解する。こうすることで、南砺市民と私たちの双方が、伝統的な祭りを一層大切に思うことにつながるはずです。


さらに、この特別プランの嬉しいポイントは、南砺の地ビールを楽しみながら地元の素材をふんだんに使ったお弁当を堪能できることも挙げられるでしょう。


祭りの雰囲気を感じながら、ゆっくりと楽しめる特別休憩所の利用も、プラン内容に含まれているとのこと。なお、この休憩所は、空き家を改装して作られているのだとか。祭りを起点に、空き家活用にも取り組んでいるのです。多種多様なやり方で、街をよりよくしようとする姿勢が感じられます。


福野夜高祭の熱気を肌で感じ、太鼓や笛の音色を聴き、彩り豊かな行燈を目に焼き付ける。地元の食材に舌鼓を打ち、祭り・お弁当の匂いを吸い込む……。特別見学プランの内容をチェックしてみると、南砺市の魅力を五感いっぱいに使って味わい尽くせることが、理解できます。
守りながら、進化していく文化継承
今回は、福野夜高祭を例に取りながら、地域の文化遺産について考えました。観光資源として活かしつつ守っていくという取り組みは、今後の地域づくりにおける重要なモデルケースになるでしょう。特に、特別見学プランで見た「祭り関係者の案内」は、より多世代・多国籍な人々との交流の場として、文化継承において学ぶ部分が大いにあると思います。コミュニケーションが広がる場の発展をはじめ、デジタルによる記録・発信強化など、 “守りながら、進化する文化継承”が、これからますます求められることが予想されそうです。
執筆/フリーライター 黒川すい