フェーズは「実証」から「社会実装」へ!「富士ハイドロジェン・サミット2026」山梨県で開催
この記事に該当する目標

水素の社会実装と課題解決を目指す国際会議「富士ハイドロジェン・サミット2026」が、10月19日~21日までの3日間、山梨県で開催されました。
海外9カ国・13地域を含む国内外の自治体や企業、大学、研究機関などから、オンラインを含めて1000名を超える関係者が結集。現在進行形で進む最先端の知見や現場の課題を共有し合いました。
この記事では、10月20日に北杜市で開催された「本会議」の様子をレポートします。
金の墨で描く「水」の一文字から、華やかに幕を開けたサミット
サミットの幕開けを飾ったのは、やまなし大使でもある書法家・望月大耿さんによるダイナミックな書道パフォーマンスでした。金の墨を使い、水素の「水」の字を流れるような曲線でつないだ草書体で一気に書き上げ、会場を沸かせました。

続いて、主催者である山梨県の長崎幸太郎知事が登壇。「このサミットは単に成果を披露し合う場ではなく、実装の現場で直面した課題と乗り越え方を持ち寄る場です」と力強く開会を宣言しました。
「山梨×東京」が描く、都市と地域の新たな水素連携モデル

最初の主要セッションは、長崎知事と東京都の小池百合子知事によるトップ対談です。小池知事は「気候危機とエネルギー危機の双方を解決する切り札」として水素の重要性を強調。水素を作る最先端の技術がある「生産地・山梨」と、日本最大の「大消費地・東京」が手を組み、市場をリードしていくための具体的な3つの連携の柱を示しました。
・ グリーン水素経済圏の創出:山梨県産の水素を東京のモビリティや地域熱供給(赤坂のTBSなど)へ運び、継続的な需要を生み出す。
・ 技術と人材の育成:両地域が連携し、現場での難しい経験や知恵を共有しながら、次世代の水素社会を担う人材を育てる。
・ レジリエンス(防災力)の強化:災害時の電力確保など、平時から有事まで都市と地域がエネルギー分野で支え合う強靭な社会をつくる。
対談の結びには、長崎知事から「それぞれの地域がエネルギーを自給できるようになり、外に求める必要がなくなれば、世界の様々な争い事もなくなっていくのではないか」という、実装の先にある平和への大きなビジョンも示されました。
「ニワトリとタマゴ」を乗り越える!トップ企業が語る現場の本音
企業経営層による対談では、水素サプライチェーンのコアを担う日本を代表する3社が登壇。水電解装置などインフラの製造を担うカナデビア株式会社、製品づくりの熱源脱炭素化を推進するサントリーホールディングス株式会社、そしてモビリティ分野で水素普及を牽引するトヨタ自動車株式会社です。それぞれの立場から、水素ビジネスを成立させるためのリアルな課題が語られました。

「供給(ニワトリ)が先か、需要(タマゴ)が先か」という、インフラ初期特有のジレンマをいかに打開するか。メーカーであるカナデビアの桑原道社長は、「まずはインフラを担う私たちが先に動いて道筋を作るのが筋だ」と語り、山梨県内の量産化工場へ投資を決断した覚悟を明かしました。
サントリーの浅木純常務は、日本初のウイスキー蒸留所建設やペットボトルのリサイクルに挑んできた同社の歴史を振り返り、「1社で抱えきれないリスクだからこそ、全員で分け合い課題を解決する姿勢が重要だ」と述べました。
また、トヨタ自動車の山形光正プレジデントは、大型トラックが集まる東京・平和島の水素ステーションで年間250トンの需要が生まれ、黒字化の予見性が立ってきた事例を紹介。一気に広げるのではなく「自立できる成功モデルを丁寧に作って広げていくこと」の大切さを語り、このアプローチでニワトリとタマゴの関係を「花とミツバチの関係」に変えていきたいと明かしました。
世界各地の挑戦が共有された「海外先進事例発表」も

サミットでは、国内だけでなく世界を視野に入れた「海外先進事例発表」のセッションも行われました。ステージには、インド、ブラジル、カナダ、フィンランド、大韓民国、ベトナムといった世界各国の地域政府や研究機関の有識者が登壇。肥料や鉄道への水素活用、投資促進に向けた政策など、世界各地の実装現場で得られた多様なケーススタディや知見が共有されました。

アツアツのピザにコーヒーも!水素がある未来の暮らしを体感
難しい議論が交わされた本会議場ですが、中庭などでは、暮らしをワクワクさせる「水素のあるライフスタイル」が提案されていました。
水素の熱を活かしたグルメ体験ブースでは、水素コンロでジューシーに焼き上げられた鶏肉やかぼちゃ、水素ピザ窯の圧倒的な熱量で一気に焼き上げられた本格ピザが振る舞われました。

カナデビアの桑原社長も対談の中で、「水素を燃やすことで発生する水分が、調理を美味しくするという新たな魅力に気づかされた」と語っています。
さらに会場入り口では、独立型インフラ供給装置「hydro+(ハイドロプラス)」の展示も。災害時などにライフラインに依存せず、1セットで100人×3日分の電気、水、加熱、衛星通信によるネット環境を同時に提供できる画期的な防災インフラとして注目を集めていました。

絵本『水素のスイチョ』のお披露目セレモニー
サミット終了後には、水素の仕組みをわかりやすく伝える絵本『水素のスイチョ』のお披露目セレモニーが行われました。この絵本は、山梨県クリエイティブプロデューサーの中野シロウさんが企画・デザインを手掛けたもので、主人公の「スイチョ」が水素で動く車に乗って街の中のエネルギーの秘密を探しにいく物語。子どもたちが、クリーンな「グリーン水素」について楽しく学べる内容になっています。

かつてインターネットや携帯電話がそうであったように、新しいインフラは私たちの日常にすうっと入ってきて、いつの間にか「当たり前」へと変わっていくものです。
最初はどこか遠い未来の話に思えた「水素社会」ですが、会場で交わされた熱い議論、紹介された世界各地の取り組み、そして水素ピザ窯や水素焙煎コーヒーといった身近な技術を通じて、それは私たちの生活圏や食卓へと着実に、そして自然に溶け込み始めていることを肌で感じました。
そして、そんな未来が、この山梨の地から確かに始まっているのだと実感させてくれたサミットでした。
執筆/フリーライター こだまゆき





