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元トラックドライバーのジャーナリスト・橋本愛喜さんに聞く「物流とSDGs」後編 格差しかない現状を変えるカギは「環境の整備」と「現状を知ること」


元トラックドライバーのジャーナリスト・橋本愛喜さんに聞く「物流とSDGs」後編 格差しかない現状を変えるカギは「環境の整備」と「現状を知ること」

パーソナリティの新内眞衣さんとともにSDGsを楽しく分かりやすく学べるニッポン放送の『SDGs MAGAZINE』。5月5日の放送では、前回に続いて物流をはじめとした社会問題を中心に活動するジャーナリストで元トラックドライバーの橋本愛喜さんをゲストに招き、「物流とSDGs」にまつわる話を聞いた

前回は「物流の2024年問題」について掘り下げたが、「今回はそれ以外の観点での『物流業界とSDGs』にまつわる話を伺えれば」と新内さん。まず、「環境面」への運送業界全体の取り組みについてたずねた。

橋本 「もうだいぶ前にはなるんですけど、排ガス規制のトラックに代えましょうっていう動きがあったんですね」

新内 「あっ、はい」

橋本 「なので、だいぶ業界としては排ガス規制とかCO2に関する問題意識っていうのはあるんです。じゃあ、それを実行できるかっていうと、なかなか難しいところが労働環境にはあって、アイドリングストップをしてしまうと、ドライバーさんの命に関わるようなことがある」

新内 「はい」

橋本 「真夏の炎天下で、何時間も待たされている中で、アイドリングストップをしてしまうと、冷房もない中で…」

新内 「しんどくなりますね」

橋本 「そうなんですよ。だから、どっちをとってもSDGs的にはどうなんだろうっていうところはあるんです。そういう問題があるっていう認識をした上で、できることを少しずつやっていくっていう気運はあるので、これからに期待していきたいなってふうに思っています」

新内 「環境面に関しては、車ごと代えているっていうことなんですね」

橋本 「そうです。ドライバーさんの中には自分の労働環境に意識を置くだけでもう精一杯っていうところがあるので、もう少しドライバーさんの労働環境が良くなっていけば、そういう自分以外のところに意識を向けたりとか、許容したりっていうところにもつながっていくと思います。もうちょっとドライバーさんに精神的な余裕が出てくれば、と思いますね」

新内 「ドライバーさんの環境とCO2とかそっちの環境をうまい具合に融合させていかないといけない」

橋本 「そうなんです。今、トラックのメーカーさんとかも、すごく頑張っていらっしゃる。それこそアイドリングストップをしても冷房機能がついたままにできるとか」

新内 「そういうところから、少しずつでも変えていかないといけないっていう感じですね」

橋本 「そうですね」

次に新内さんが聞いたのがSDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」について。「運送業界では、女性の格差とかはあったり、感じたりしますか」と問いかけると、橋本さんは「正直に言うと、格差しかない状況」と即答した。

橋本 「今、全国のトラックドライバーさんって全体に86万人いらっしゃいます」

新内 「はい」

橋本 「このうち女性の割合がどのくらいかっていうのを、ちょっと考えていただきたいのですけど…」

新内 「えっ!?」

橋本 「ちなみに、女性自衛官さんは8.7%ぐらい」

新内 「私は実家の近くに自衛隊があったので、結構女性の方は少ないですけど、いるなってイメージなんですけど、でもドライバーさんというか、自分の宅配で、女性の方が来ることって、ほぼないですね」

橋本 「そうですよね、うん」

新内 「って考えると、半分ぐらい? 4%ぐらい?」

橋本 「今まで聞いた中で一番近いかもしれない。3%の3万人です。そして、その3万人いる女性の方は、いろいろ問題を抱えていらっしゃる。今、それこそ一番大きい問題として人手不足、『2024年問題』っていうのがあるので、政府も女性のドライバーさんとか、外国人労働者とか、いろんな人たちを受け入れようと考えているみたいなんですけど、私はこれ自体、すごく良くない動きだなっていうふうに思っているんです」

新内 「それは、どうしてでしょう」

橋本 「そういう危機的な状況の時だけ、女性を矢面に立たせる。で、『2024年問題』の解決策として、『救世主はトラガールだ』みたいな言い方をしてしまっているんですね」

新内 「あ〜」

橋本 「いくら女性が頑張っても、男性より出世できないっていうことを『ガラスの天井』っていう言い方をするんですが、『2024年問題』のような危機的な状況の時だけ女性を矢面に立たせるっていうのは、これ『ガラスの崖』っていう言い方をするんです。自分の業界とか自分の国とかが、もうすぐ潰れちゃうかもしれないっていう時に、『こういう人もいるよ』って言って、女性をわざわざ立たせて、何か本当に問題があった時に『ほら、女性だったから』っていうのを、すごくこの『2024年問題』の解決策として感じるんです」

新内 「はい、はい」

橋本 「国交省が2014年に『トラガール促進プロジェクト』っていうのを立ち上げたんですけど、私、その『トラガール』っていう言い方が、すごく好きじゃない。『ガール』って幼稚性のある言葉を、一生懸命働いている女性のドライバーさんにつけてしまう。私も『あっ、橋本さん、元トラガールなんですよね』って言われると、食い気味に『いえ、違います! 普通のドライバーです!!』っていうふうにいつも答えます。私は、トラックドライバーだけではなく、いわゆる何かをつくるとか、運ぶとかっていうところに従事している人の現場をよく取材するんですね。その中で、毎度毎度思うのは、こういう現場には、やっぱり女性がまだまだ進出できない。『THE 男性社会』っていうのが、すごくあるんです」

新内 「う〜ん」

橋本 「もちろん『私、トラックドライバーをやってみたい』っていう女性はウェルカムなんです。だけど、何も環境を整えていないのに、国・団体が『おいで、おいで。女性ドライバーも活躍できるよ』って言って、いざ働かせてみると、トイレはない、更衣室はない、託児所もないでは、お母さんたちは働けない。なのに『おいで、おいで』って言うのは、ちょっと違うでしょって思うんです。まず環境を整えた上で『女性ドライバーさん、今働きやすくなったから来てください』っていうのが順序なんじゃないですかって、すごく感じますね」

新内 「確かに何も知らない状態、パイオニアといわれる最初に始める人って難しかったりするじゃないですか」

橋本 「はい」

新内 「女性1人で入っていきにくい業界ではあるなっていうのは感じていて、でも格差をなくすように働きかけなきゃいけないのも事実。女性を雇いたいと思う人も、やる気のある女性もたくさんいらっしゃると思うので、そこの環境が追いついてないっていうのは、やっぱりネックですよね」

橋本 「そうですね。トラック協会さんとかだと、女性部会っていうのが最近でき始めたんです。すごく、私は素晴らしい動きだと思っているんですけど、やっぱり女性部会さんの講演会とかに行くと、その参加者さんはみんな女性なんです。これもこれで私、問題だと思っていて、すごく自分たちで問題意識があるから集まるけど、それは、その問題意識を男性に知ってほしいからでしょっていう。そういうところで考えると、いつか半分ぐらい男性が入ったらいいなっていうふうに思っていますね」

新内 「ちなみに、女性の割合は今、3%じゃないですか。それって10年前ぐらいと比べて増えてはいるんですか」

橋本 「増えています。私、年齢非公表でやっているんですけど、数字を出して探られると多分ばれちゃうんですけど…」

新内 「(笑)」

橋本 「私が働いていたときは1.4%ぐらいでした。かつ、長距離、中長距離で走っていたドライバーに女性がいなかったので、サービスエリアやパーキングエリアで毎日同じところに同じ時間に行くと、同じ顔ぶれのドライバーさんが私を待っているっていう状態だったんです」

新内 「えーっ」

橋本 「そのくらい、やっぱり目立ったんですね」

新内 「そっかぁ!」

橋本 「『あの子、また来るよ』って。『すっげぇ頑張っているから芋を奢ってやりたいんだ』って(笑)」

新内 「(笑)」

橋本 「『愛喜ちゃん、芋っこー』って言って、すごく良くしてくださったんですけどね」

新内 「やっぱり、着実に増えてはいるけど、まだまだ環境が足りていないっていうのが…」

橋本 「そう! 環境さえ変えれば、もう爆発的に、それこそすごく増えている自衛官さんと同じぐらいの上り調子で増えていけばいいかなって思います。なので、女性を増やすのであれば、まず環境をつくってほしい。もう、女性ドライバーさんはウェルカムなので、国とか団体とか企業は、そういう受け入れ体制を、ぜひつくってくださいっていうところですね」

新内 「そうですね。現実的に、働ける環境をちゃんと整えてほしいっていうことですよね」

橋本 「そうです。はい」

新内 「いろいろな現状をお話しいただいて、これからの課題とかもたくさんあるとは思うんですけども、逆にポジティブな要素はあったりしますか」

橋本 「今、若手とベテランさんで希望している働く環境っていうのがだいぶ違うんです。若手はどっちかっていうと、その日のうちに自分のベッドで寝たいっていう。ベテランさんは、もっと長く働きたい。なので、そういうところを、もうちょっと多様化していく方に向かってはいるんです」

新内 「そうなんですね」

橋本 「はい。『中継輸送』っていう運び方があって、長距離ドライバーさん、例えば青森県から、すごく極端な話をすると大阪に走るとなると、今までは1人のドライバーさんが青森から大阪に行かなきゃいけなかったんですけど、静岡あたりに1個、拠点を置くと、青森県から静岡県に来るドライバーさんと、大阪から静岡県に行くドライバーさんが、そこで落ち合えるんです」

新内 「はい」

橋本 「で、トラックを交換して…」

新内 「えっ!?」

橋本 「乗り換えて、青森県から来たドライバーさんは静岡県からまた青森に戻るんです。で、大阪から静岡に来たドライバーさんは、青森県から来た車に乗って大阪に帰るので、荷物がそのままつながるっていう」

新内 「ほう!」

橋本 「それを『中継輸送』って言うんですけど、そういう取り組みが今、すごく活発に行われているんです」

新内 「今までは、なぜ長距離だったんですか」

橋本 「その方が、効率がいいからです」

新内 「そっか」

橋本 「例えば、静岡県で落ち合うとなると、どっちかが事故を起こしたとか、来なくなったとかってなると」

新内 「道が渋滞していれば、待ち時間とかも出てきますしね」

橋本 「そう。そうすると、青森県って生鮮食品を運んでいることが多いのですが、なるべく新鮮な方がいいのに、そこで時間をロスしてしまうと、やっぱり効率的に良くないとか、コストがかかるんですね。『中継輸送』には、その拠点となる場所が必要にもなってくるし、やっぱり本当はスムーズに1本でいった方が効率はいいんですよ」

新内 「確かに。でも、労働環境の多様化というのは、これから期待したいところかもしれないですね」

橋本 「そうですね、はい」

そして、番組最後の恒例の質問。新内さんは橋本さんに「今、私たちにできること=未来への提言」を聞いた。

橋本 「知ることが、許容、理解の第一歩」

新内 「あ〜、確かに」

橋本 「もう最近、ずっとこれを言っているんです。私もこういう仕事をやっていますけど、まだまだ知らないことが多くて、知らないまんまその人にお話を聞いて、何の気なしに聞いたものが、人を実は傷つけてしまうことってあったりするんですよ

新内 「はい」

橋本 「私も、それで沢山の失敗をしてきましたけど、その失敗から、これはこういうふうに言った方がいいとか、こういう知識をもうちょっと増やした方がいい、増やすことでその人たちがもうちょっと生きやすくなるんだったら、そういう意識とか知識を深めていくっていうのは大事だなっていうのは、すごく感じます」

新内 「こういうところで発信することによって、これを聴いた方も、ぜひそちらに思いを向けていただければと思います」

橋本 「そうですね、はい」

新内 「最後に、改めて橋本さんからお知らせがあれば」

橋本 「私は、物流に特化したライターではなく、社会的な問題、それこそ差別とかっていうところも含めて書いているライターなんですね。SNSで皆さんからアンケートとか、今どういうふうに働いていますかっていうことを聞いたりしているので、自分の労働環境、実はこうなんだよっていうことがあれば、教えていただけるとうれしいなと思います」

新内 「Xをやっているんですか」

橋本 「はい、Xをやっています」

新内 「では、橋本さんのXをぜひご覧いただければと思います。今週のゲスト、橋本愛喜さんでした。ありがとうございました」

橋本 「ありがとうございました」

橋本さんに「物流業界のSDGs」の話を聞いた今回の収録を終え、新内さんは「会社とか、運んでいる荷物によっても、長距離の方もいれば中距離の方もいるし、本当にそれぞれの労働環境によって大変さとかが違うと思うんです」と、同じ物流業界の中でも、決してその問題の解決策が一つではないことを実感した様子。「一律というより、働き方の選択肢が増える方がスマートなんじゃないかなって、すごく思いました」と、問題の本質を知り、多様性を許容することに大きな可能性を見出していた。