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【サイエンスアゴラ2021レポート】全国各地の中高生がSNSのより良い使い方をネットを通じて議論!(前篇)


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4 質の高い教育をみんなに
【サイエンスアゴラ2021レポート】全国各地の中高生がSNSのより良い使い方をネットを通じて議論!(前篇)

2021年11月3日(水・祝)から7日(日)の5日間に渡って行われた国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)主催のイベント『サイエンスアゴラ2021』。昨年に引き続き、オンライン開催となった今年は「Dialogue for Life」をテーマにさまざまな企画が実施され、SDGsの観点でもさまざまな興味深い取り組みがありました。ここではその中から、ターゲット4.7の「2030年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、全ての学習者が、持続可能 な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする。」に該当する、JST社会技術研究開発センター(RISTEX)の「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」研究開発領域が企画した「持続可能な開発のための教育(ESD)」にも通じるワークショップ『マンガで話すみんなのリアル―中高生SNS編―』について、その内容をご紹介したいと思います。

なお、今回は、このワークショップに参加したお茶の水女子大学附属高等学校にお伺いする形で取材。オンライン動画では見えなかった、参加した生徒らのリアルな参加風景も合わせて前後篇の2本立てでお届けします。

マンガ教材をもとにSNSの使い方を生徒たちが議論

今回のワークショップで議題となったのは、東京大学大学院工学系研究科、鳥海不二夫教授の研究開発プロジェクトで作成した、SNSの使い方について考えるマンガ教材『ほんとうのこと』。とある中学の吹奏楽部で起こったできごとから子供たちの多様な解釈を引き出し、主体的な話し合いを促そうというものです。ワークショップに参加したのは、全国各地の中学生・高校生たち。今回、取材にご協力いただいたお茶の水女子大学附属高等学校では希望した12名が参加していました。マンガを読んだ生徒たちは、どのような思考を経て、どのような結論を導き出していくのでしょうか?

議論の内容についてお伝えする前に、まず簡単にマンガ『ほんとうのこと』の内容についてお伝えしておきましょう。このマンガは吹奏楽部員の中学2年生「りこ」を主人公に、部活内で起こった人間関係のトラブルとその結末を描いた作品です。りこの親友である「しおり」は最近部活の練習に身が入らず、部長の「さとみ」はそのことを不満に思っています。しかし、りこはその原因がしおりの祖母が倒れ、彼女が幼い妹の面倒を見なければならなくなったからだと知っていました。勉強と部活、そして家事に頑張るしおりを励ますりこ。ですがその結果、吹奏楽部はコンクールで満足いく演奏ができず伝統的に勝ち上がってきた県大会への出場を逃してしまいます。

その夜、りこはさとみから吹奏楽部のグループSNSに誘われます。そこにしおりは誘われていません。やがてグループ内では演奏の足を引っ張るしおりへの不満が噴出。りこはしおりの家庭の事情を説明するべきかと悩みますが、個人情報をSNSに投稿してはならないという学校の指導を思い出し二の足を踏んでしまいます。そうこうしている内にグループSNSは吹奏楽部の話題の中心となり、参加していないしおりは徐々に孤立。いつの間にか部活にも来なくなってしまいました。

それから数週間後、りこはしおりのSNSを見て驚愕します。以前、グループSNSでしおりへの不満で盛り上がっていた様子のスクリーンショットが投稿されていたのです。慌てたりこはしおりに声をかけますが、頑なになったしおりは聞く耳をもちません。そして、SNSを通じて騒動は校外にも広まり、しおりを追い詰めた首謀者とされたさとみは学校も塾も休むようになってしまいました。

りこは思います。「なんで…なんでこうなっちゃったの…?」

誤解や行き違いはどうして生まれるのか? どうすれば防げるのか

今回、このワークショップのファシリテーターを務めるのは関東学院大学 人間共生学部 コミュニケーション学科 准教授の折田先生。折田先生は長らくネットとプライバシーに関する研究を行ってきたこの分野の第一人者であるほか、今回のマンガ教材を開発した方です。また、コメンテーターは、学校現場でのICT活用を推進するWebサイト『教育ICTリサーチ』を主宰する、フューチャーインスティテュート株式会社 代表取締役の為田裕行氏が担当。生徒とのやりとりは、リアルタイム投票・投稿ツール『スグキク』を使って行われました。

イベントの冒頭、マンガの概説が終わった後に行われた最初の討議は、この物語の中で誰に共感できたかというもの。ワークショップに参加した生徒たちの結論は、部長のさとみに共感する人が37%ともっとも多く、次いで主人公・りこに共感する人が36%となりました。しおりに共感する人が14%とかなり低いのが印象的です。「誰もいない」と回答した人も13%います。

投票の理由について問うと、さとみについては部長というプレッシャーの大きさに、りこについてはさとみとしおりの板挟みになってしまったことに同情・共感する人が多かったようです。また、しおりについても、昨今社会問題となっているヤングケアラーであることを気にしている人が多数見られました。「誰もいない」とした人も、全員に共感できないというよりも「みんな惜しい行動ばかり」と、誰か1人だけに肩入れできないという気持ちの人が多かったようです。

なお、折田先生曰く、この結果は回によって大きく変わるようで、今回とは逆にしおりに共感する人が圧倒的に多いこともあるのだとか。「今回のポイントは『共感できますか』というところ。その人の立場に立って考えられることが大事」と為田氏は言います。

この結果を踏まえ、折田先生が提示した第2の議題は、もし自分が「しおり」だったら、自分の立場をまず誰に説明しますか、というものでした。これに対する投票結果は「先生」が36%、「吹奏楽部の部員」が45%、「吹奏楽部以外の友達」が13%、「学校外の人」が6%という数字に。先生と部員、つまり実際に自分が吹奏楽部で関連している人たちに相談するという回答が8割を超える結果になったのが印象的でした。

この結論については折田先生、為田氏とも納得。しかし「実際のしおりさんは、この人たちに相談できなかったんですよね」(折田先生)とも。そして全国の生徒に向けて、もし自分がしおりの立場なら、誰にどんなことを話すのかを考えてほしいと問いかけました。

『スグキク』を通し、1問目と比べて長く、具体的な回答が次々と上がってきます。お茶の水女子大学附属高等学校の生徒たちも、この質問の重要性にすぐに気がついたようで、真剣にキーボードを叩き始めます。その回答はまちまちで、吹奏楽部の部員でも部長のさとみだけに話すといったものから、両親に部活のことを相談して負担を減らしてもらうべき、という選択肢に含まれなかったようなものまで実に多岐に渡っていました。興味深かったのが、皆に何もかもを打ち明け理解を求めるという回答がほとんど見られなかったこと。これについて為田氏は次のように分析します。

「吹奏楽部はみんなでやる部活なので、もしかしたらメンバーを外されてしまうかもと言いにくくなってしまうのはあり得ますよね。また、部員に話すと言っても部長だけに話す、仲の良い子たちだけに話す、いろいろなグラデーションがあります。そういう選択肢をたくさん持てるというのはとても大事なことだと思います」(為田氏)

為田氏はその上で、比率的には最も小さかった「学校外の人」を選び、「学校外の人にどうやって部員、あるいは先生に話せばいいか相談する」とした回答をピックアップ。学外の専門家や自分と似た境遇の人、あるいは吹奏楽部とは全く関連しないコミュニティの友だちに相談することには効果があるのではないかと語りました。

為田氏はさらに「言わないと誤解が起きるというのは本当」とこの問題の根本的な原因の一つにも言及。折田先生も「言えばよかったこと、でも言いたくなかったこと。言わなければよかったこと、そういったことを議論していくと面白いかもしれませんね」と語り、ワークショップ終了後に個々の生徒が考えてほしい“種”を植え、次の議題へと話を進めていきます。

今回の議論を今後のコミュニケーションに活かしていってほしい

その後、ワークショップは、もし自分がさとみのグループSNSに招待されたらどうするか、りこが何かをしていたら「未来」は変わったのかを問うかたちで、どうすればこんなことにならなかったのかを深く考察。日本全国の生徒からさまざまな意見が集まり、活発な議論が行われました。お茶の水女子大学附属高等学校の参加現場においては、生徒たちが発表内容を受けて周囲と活発に意見交換していく姿も見られました。他の参加者の意見を見て生徒たちがざわつくような一幕も。皆、マンガの内容がどれも他人ごととは思えないようです。

そして気がつけばワークショップは終了時間目前に。最後に折田先生が出した議題は、この物語の登場人物のうちで最も共感できたのは誰かという、冒頭と全くおなじものでした。議論を通して、参加生徒の意識がどう変わったのかを問う設問となります。

その結論は、「さとみ」が34%、「りこ」が31%、「しおり」が9%、そして「誰もいない」が25%でした。最初に聞いた時と比べて3人の順位が入れ替わることはありませんでしたが、3人とも得票数を大きく減らし、その分、「誰もいない」がほぼ倍増しています。これは一体何を意味しているのでしょう? 折田先生らはこの結果を非常に興味深いものとしつつ、そこに正解・不正解はないということを強調します。

「(最後の設問は)誰に共感すべきとか、変わるべきという話ではありません。それぞれの背景にいろいろな事情があって、それはどの時点で変えていけば変わる可能性があったのか(を考えた)ということを、今回覚えておいてほしいなと思います」(折田先生)

「この数字の変化はとても面白いですね。最初の回答で終わりにするのではなく、いろいろな立場があるのだということを知って、共感する人を変えるというのは、自分の選択肢の選び方の疑似体験だと思います。今回、『誰もいない』を選ぶ人が増えたというのはもう少しこうすれば良いのにということがたくさんあったから。ぜひ皆さんの今後のコミュニケーションの中に今日のワークショップが生きてくればいいなと思います」(為田氏)

今回のワークショップは、全国の中学生・高校生がオンラインで参加。お茶の水女子大学附属高等学校の他にも、大分県の岩田中学校の生徒も参加し、「SNSの使い方など、日常的に使っているスマホなどの使い方を再度気をつけようと思いました。また、友だちとの会話も対面でお互いにぶつける方が誤解もあまりうまれず、絆が深まるのかなと思いました」と今回のワークショップに刺激を受けている様子でした。

全編をしっかり通して確認してみたいという方は、YouTubeのサイエンスアゴラチャンネルをご覧ください。


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