日産、日立、Microsoftなど世界の企業がものづくりに導入している「製品ライフサイクル管理」とは?
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2015年9月の国連サミットにおいて採択されたSDGsに対する取り組みは、世界各国の様々な分野で進んでいます。その動きは製造業においても同様です。原材料の調達方法の変更や、製造方法の見直し、設計変更など、SDGsに対応するための取り組みを進める企業は年々増加してきました。
環境、エネルギー問題との関係性が強い製造業は、SDGsが目指している持続可能でよりよい世界の実現に密接にかかわっています。製造業のSDGsに対する取り組みは、顧客や投資家からも注目される点であり、企業の信頼性向上、競争力強化の為にも欠かすことができません。
製造業の生産活動との関連の深いSDGsの目標には以下が挙げられます。
7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに
9:産業と技術革新の基盤をつくろう
12:つくる責任 つかう責任
13:気候変動に具体的な対策を
製造業との関連性もあるSDGsですが、その内の取り組みとして製品ライフサイクル管理(PLM)があります。
今回は、製造業において注目されているPLMとはどのようなシステムであるかを説明するとともに、製造業がサーキュラーエコノミーを実現するために必要な施策と、PLMが施策に対してどのように関係しているかを解説していきます。更に、世界的シェアを持つ、PLMシステム「Aras Innovator」についても紹介していきます。
製品ライフサイクル管理(PLM)とは?
PLM(製品ライフサイクル管理)は、製品の企画や設計開発段階から、生産、販売、廃棄に至るまでの、製品のライフサイクルに係る情報を一元管理するシステムです。
製品の製造では、形状情報を中心とした設計データの他、部品リスト、製造コスト表、仕様書、制御プログラムなどの多くの製品データが存在します。これに加え、製造設備、生産管理、原料調達、保守、廃棄など、製品のライフサイクルに係わるデータは多岐に渡ります。従来これらのデータは、各業務に係わる部門で保有し、他部門が活用することはありませんでした。
PLMでは、各部門の持つデータを一元管理、連携させることで相互に活用することを可能にします。ERP(Enterprise Resources Planning)などの従来の基幹業務システムでは、製造プロセスの計画に焦点を当てているため、このようなデータの連携は困難でした。PLMを活用することで、製品データのトレーサビリティを確保し、製品ライフサイクルの各段階で、持続可能性に対してどのような影響を与えるかを正確に把握することができます。
サーキュラーエコノミー(循環型経済)とPLMの関連
製造業のSDGsに関する取り組みにおける重要なキーワードがサーキュラーエコノミーです。国際的に活動するサーキュラーエコノミー推進団体であるエレン・マッカーサー財団は、サーキュラーエコノミーの3原則として以下を掲げています。
1.Eliminate waste and pollution
廃棄物と汚染を出さない
2.Circulate products and materials (at their highest value)
製品や原料を高い価値の状態のまま循環させる
3.Regenerate nature
自然を再生させる
サーキュラーエコノミーでは、リサイクルを前提として設計を行い、製品としての価値ができるだけ長くなるように修理、メンテナンスを行います。更に、製品ライフサイクルの全ての段階において、廃棄物や汚染の発生、新しい資源の利用を最小限に抑えることが必要です。製造業と関連の深いSDGsの目標のターゲットには、資源利用効率向上や廃棄物の発生防止、再生利用及び再利用などが掲げられています。サーキュラーエコノミーを実現することで、SDGsの目標達成に大きく近づけると考えられます。
しかし、製造業のサーキュラーエコノミーの実現は、単一の部門の施策だけでは不可能です。企画、から設計開発、原料調達、製造、販売、保守に至るまで、全ての部門が連携して取り組む必要があります。部門間の連携では、各部門の持つデータの相互活用が必要です。そのためには、データを一元管理、連携させる必要があります。近年、製造業ではデジタル化が進み、製品ライフサイクルにかかわるデータは膨大なものになってきました。この膨大なデータの一元管理、連携を可能にするのがPLMです。
例えば、PLMを用いて技術情報を各部門で共有できれば、設計製造ミスによる製品廃棄が減り、開発にかかる時間やコストも削減することができます。設計情報に材料の調達時間、環境負荷情報が反映されれば、輸送負荷や環境対策を意識した製品開発が行えます。設計時の各部品の耐久性データがメンテナンス情報と連携できれば、メンテナンスパーツをいつまでにどれだけ用意すべきかが予測可能となり予知保全ができます。余計な在庫や利用期限を過ぎて廃棄するメンテナンスパーツを削減することが可能です。他にも、PLMはデータを用いたシミュレーションも可能であり、仮想環境で製品ライフサイクルにかかわる影響を事前に分析することもできます。
PLMは、製造業のサーキュラーエコノミーの実現において、欠かすことのできないシステムなのです。
多くの企業で導入されているPLMプラットフォーム
PLMシステムを提供している世界的な企業としてArasがあります。同社の「Aras Innovator」は要件仕様、設計から製造とサービスに至るまで、完全なエンドツーエンドの製品ライフサイクル管理のための、統合された独自のプラットフォームを提供。ローコード開発のアプローチでカスタマイズできるように設計されており、すぐに利用を始めることができます。多くの国の様々な企業で導入されてきました。
世界で 450社以上、国内だけでも100社以上の企業が導入しており、導入企業には、川崎重工業、デンソー、日産自動車、日立製作所、Airbus、Microsoftなど、大企業が名を連ねている他、建設業界の竹中工務店が導入を決めるなど、シェアを拡大しています。
持続可能な製品設計には、製造業者がバリューチェーン全体のステークホルダーと協働することが求められています。また、サプライヤーも持続可能な製品設計を行い、原材料を持続可能な方法で調達することが必要です。それと同時に、製品の購入者(顧客)もその製品を使用する際に、持続可能な基準を満たす必要があるため、関わりを持つこととなります。
ArasのPLMシステムは、製品ライフサイクル全体およびサプライチェーンの、あらゆる部門のユーザーを、重要な製品データやプロセスと繋ぎます。複雑化している製品の設計開発、製造、および運用を支援し、製造業のレジリエンス性の向上、グリーン化、デジタル化に貢献します。
製造業のサーキュラーエコノミー実現に必要な様々な施策は、PLMシステムが無ければ実施が困難です。PLMとはどのようなものかを理解し、皆さんが普段利用している製品の製造の裏側を考えてみてはいかがでしょうか。