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新内眞衣とSDGsを学ぶニッポン放送「SDGs MAGAZINE」男性学の視点で見るジェンダー平等を実現しよう#後編

新内眞衣とSDGsを学ぶニッポン放送「SDGs MAGAZINE」男性学の視点で見るジェンダー平等を実現しよう#後編

#RADIO
  • ジェンダー平等を実現しよう

毎週日曜日午後2時10分からオンエア中のニッポン放送『SDGs  MAGAZINE』。パーソナリティの新内眞衣さんとともにSDGsを学ぶラジオ番組の12月4日放送回では、前回に引き続き大妻女子大学社会学専攻・田中俊之准教授をゲストに目標5「ジェンダー平等を実現しよう」を「男性学」の視点で掘り下げ、その制度の変化に焦点を当てた。

11月27日の放送では「男性学」のスペシャリスト・田中俊之さんに、“男性目線”での「ジェンダー平等」をテーマに「働く男性ならではのしんどさ」「ジェンダーバイアス」について話を聞いた。今回はその後編。「育休」をはじめ、変わっていく制度について学んだ。

「前回は、男性目線での『目標5 ジェンダー平等を実現しよう』について、お話を伺いましたが、なかなか当事者意識が生まれにくい中でも『ハード=制度』が変わることによって動いてきているとのことで、今日はそのあたりを掘り下げていきたいんですが」と、切り出した新内さん。まず、これに関わるSDGsのターゲット5.4を見てみる。

【5.4】
公共のサービス、インフラ及び社会保障政策の提供、並びに各国の状況に応じた世帯・家族内における責任分担を通じて、無報酬の育児・介護や家事労働を認識・評価する。

ここから派生するのが、最近大きな動きがあった「男性の育休制度」や「男女の働き方の平等」の問題だ。1992年4月1日に施行された「育児・介護休業法」は「男性従業員の育児休業取得率の伸び悩み」や「出産育児を機に離職する従業員の割合が一定数存在する」ことなどを背景としているが、今年の4月から2023年4月の間に段階的に改正され、整備・義務化が進んでいる。

〈2022年4月施行〉
1.育児休業を取得しやすい雇用環境の整備を義務化
2.育児休業の周知・取得意向の確認を義務化
3.有期雇用労働者の育児・介護休業の取得要件の緩和
〈2022年10月施行〉
4.産後パパ育休(出生時育児休業)を創設
5.育児休業の分割取得が可能に
6.育休取得期間の幅拡大
〈2023年4月施行〉
7.育児休業取得状況の公表を義務化

新内 「そもそも『育児・介護休業法』というのはどういうものなのでしょうか」

田中 「育児に限って言えば、育児休業についての決まりなど定めているものなのですが、改正があったというのが今、注目されているポイントです。例えば、今年4月に改正されたものの2点目に『育児休業の周知・取得意向の確認を義務化』というものがあるのですが、これってどういうことかというと、育児休業に入る対象者がいた場合に『あなたは育児休業を取れて、こういう制度が今あるんですよ』ということをちゃんと教えてあげるということです。『うちの会社には育児休業の制度なんてありません』みたいな勘違いをしている人がいるんですよ。ただ、育児休業というものは育児休業法で決まっているものだから、国の制度としてある。『うちの会社だけない』ということはあり得ないんです。これを企業側が、しっかり教えてあげるということですね。さらに、今年10月には『産後パパ育休制度』というのができました。女性は、子供を産んだ後に8週間ほど産休に入ります。育休ではなく産休です。女性には産褥期(妊娠中に起こった体の変化が妊娠前に戻っていく期間)があるので、子供を産んだ後、体を休めることに専念しなくてはいけないんです。この産休の期間にお父さんが育休を取れる制度ができたよということなんです。ここで注目されるのは、分割で取れるということですね」

新内 「まとめてではなく、ということですか」

田中 「はい。最初に2カ月取って、その後3、4カ月で奥さんが実家に帰っている間はお父さんが仕事に復帰する。そして、また実家から帰ってくるので休暇を取りますよ・・・みたいなことが可能になるんですね。取る側にとって柔軟性がかなり上がるというのがポイントです。さらに、来年4月の改正で大きいのが、大企業だけではあるのですが、育児休業の取得率の公表が義務化されます。男の人が育児休業を取れていないところは、傍から見たときに『あの会社やばいな』『男が育児休業を取れないんだ』ということが可視化されてしまうということですね」

新内 「それは、ちゃんと取った人の数を公表するということですか」

田中 「そうです。取得率です。例えば、対象者がこの会社に10人いて1人しかとっていなかったら10%。10人いて10人取っていたら100%となりますね」

新内 「逆に、働きたいという場合はどういう扱いになるのでしょう」

田中 「その場合は、まあ取らないということですね」

新内 「でも、それを公表されてしまうわけですよね」

田中 「育休を義務化している国もあるんですけど、今回は義務化ではないので、各家庭の状況に応じてということになります。でも、状況に応じてとなると、賃金の格差がものすごくあるということで、お母さんだけ取ってお父さんは取らない、みたいなことになっちゃうかなと。その辺に懸念があります」

新内 「なるほど。こうした制度が生まれた背景は」

田中 「これは、やはり男性の育児休業の取得率が伸び悩んでいるというのがすごく大きくて、それを後押しするために何ができるかを考えたということですね」
新内
 「制度として法律が整備されることで、すごく取りやすい環境にはなるとは思います。育休を男性が取ることによってどう変わっていくのでしょうか」

田中 「まず指摘しておく必要があるのが、90年代って男性の育児休業取得率って0.01%くらいだったんですね。90年代に育児休業を取るよという男性がいたら、変わり者のように見られました。それが最近の数字だと13.97%ですから7人に1人くらいになってきている。最近は“たまにいる”という感じにはなってきている。身近になってくることによって増えてくるということはあると思うんです。これが5人に1人とかになっていけば、当たり前になってくる。実際に周りにいることで意識が変わるということだと思うんですよね」

新内 「制度ができて、周りに育休を取る人も出てくると思いますが、これを使っていくことの難しさもあるのでしょうか」

田中 「難しさはありますね。例えば、職場に理解がないといけない。あとは代わりの人をどうするかという問題がある。これは女性が取る場合でも同じです。大企業なら良いかもしれませんが、10人しか従業員がいない小さな会社なら1人抜けることが痛いわけです」

ここで田中准教授が挙げたのが「パタハラ=パタニティ(父性)ハラスメント(嫌がらせ)」という言葉。男性が育児のために時短勤務や休暇を請求したり、取得したりすることで不利益な扱いなどを受ける行為、言動を指す。

田中 「『あなたの家は、妻が専業主婦なんだから育児休業取る必要がないでしょ』とか『男なのに取ったら出世に響くよ』とか。そういうのがパタハラに当たります」

新内 「出世に響くんですかね、本当に」

田中 「響いちゃいけないんですけど、その会社の社風によっては出世に響くとかはあり得てしまいますよね。でも、それはいけませんよということです」

新内 「逆に10人しかいない会社で5人の家庭で子供が生まれることになったら、どうやって対処していけばいいかという問題も出てきます」

田中 「そうですね。ただ、今まで女性も、そういう会社にいたわけですよ。それをどうしていたかというと、辞めているんです、そういう会社では。結婚・妊娠・出産で辞めていくというのが当たり前だったわけです。しかし、男の人は結婚して子供ができようが何しようが無限定に働かせる、女の人は辞めてもらう。そういうことが通用しなくなっている。これを機に、一気に5人欠ける場合があるかもしれないということに備えておかないと、ということです。だって、そもそもその会社に入りたい人がいなくなってしまったら、会社がなくなってしまうじゃないですか」

新内 「働き方に直結する問題でもあるということですね」

田中 「おっしゃる通りです」

今年7月には「女性活躍推進法」に関する制度改正も行われた。この制度では、従業員が301人以上の企業に男女賃金差の公表を義務化。さらに上場企業を対象に女性管理職の比率など男女格差の公開も検討されている。

田中 「これは、めちゃめちゃ大きいことです。男女の賃金の格差って、どうして生まれるのか。男女雇用機会均等法というのがあって、本当は男女別の募集ってできないんです、今。事務職だから女の人だけ募集と言ったら法律違反になります。ただ、事務職というのは女の人の仕事で、転勤とかもある総合職でばりばり働くのは男性というイメージがありますよね。実際、事務職の方って出世もできないわけですよ。入った時の給料が一緒くらいでも、働けば働くほど男の人は給料が上がっていって、女の人は上がらないという賃金の格差が出てしまう。そこで、男女の賃金格差の公表が行われれば、そうした古い体質の分業を行っている会社だというのがばれるし、女性が偉くならない職場は当然賃金の格差が大きいので、偉い女性が少ないんだなということも可視化されちゃうということですね」

新内 「でも、日本は私も就職活動をしていたので感じましたが、総合職と一般職の募集があった時に、ブースとかも総合職と一般職で男女の比率が違ったりします。実質的に男女別の雇用形態を取っている企業って少なくないと思うんですけど、これはこの法律の改正によって、少しずつ差がなくなっていくとお考えですか」

田中 「法律の改正だけではなくて、今若い女性が働き続けるという意識を前より持っていると思うんですよね。そうなってきたときに、全然給料が上がりませんとか、難しい仕事を任されませんとかになると、敬遠していくというのはあると思います。なので、こういう公表の義務化ということとセットで、古い体質の企業を若い子が選ばなくなるというところが重要なポイントなのかなと思います」

新内 「なるほど。就職活動の色も変わってくるかもしれないということですね」

田中 「そうですね」

新内 「これ以外で、注目されている制度や気になっている取り組みなどはあったりしますか」

田中 「気になっている制度や取り組みというより、この手の話が今全部、国から、上から来てやっていることが気になります。例えば、僕も一人の父親として思うんですけれども、もっと当事者からやりたいという話しが出てこないかなという気がしていて、上から降りてきて義務化ですとか、公表しますとか、外からの、国からの圧でやっていくものなのかなという気がしています。SDGsのジェンダー平等の達成って、いかに男性が当事者意識を持つかという問題だと思います。もっと男性から、内側から出てくる声がないと、外からやらされているだけだったら・・・」

新内 「意識が全然違いますよね」

田中 「はい。それでは、SDGsが正直“やってる感”だけで終わりかねないかなという気がしてしまうんですよね」

新内 「前回の長野智子さんも、数字を追いがちになっちゃうという話しをされていました。制度を整えるのも重要だと思うんですけど、それと一緒に意識も変えていかなくてはいけないんだなと感じています」

田中 「そう思います」

そして、番組の最後に新内さんは、SDGsの目標年である2030年を見据えた「未来に向けた提言」を田中准教授に聞いた。

田中 「男性が、男性という性別が自分の生き方に影響を与えているよという視点をまず持ってほしいですね。それを持つと、何が良いかというと、ジェンダーの問題が男性にとって身近になるし、これができると男性という性別がこれだけ自分に影響を与えているんだということが分かる。そうすることで、女性という性別が女性にどのような影響を与えているんだろうということも初めて想像できるようになります。LGBTQの人たちは性別という“枠の外”に置かれてしまっています。“枠の外”に置かれているって、どういう状態なんだろうとか、この問題全般に対する想像力がつく。とにかく、男性には男性という性別が自分に与えている影響を考えてほしいですね」

新内 「ありがとうございます」

田中 「どうも、ありがとうございました」

「今日は、『育児・介護休業法』についてお話をお伺いしたのですが、やはり法整備されることによって制度が使いやすくなったり、意識改革がなされたりすると思いました。すごく勉強になりました」と新内さん。「段階的に今年の4月から行われているということですので、ぜひ皆さんこれを機に調べて、関心を持っていただきたいなと思います」と呼び掛け、制度や法律のみならず、意識の変化がもたらす社会の変化に思いを馳せた。

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