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新内眞衣と学ぶニッポン放送『SDGs MAGAZINE』廃棄物でアートをつくる美術家・長坂真護氏の取り組みとは #前編


この記事に該当する目標
1 貧困をなくそう 12 つくる責任つかう責任
新内眞衣と学ぶニッポン放送『SDGs MAGAZINE』廃棄物でアートをつくる美術家・長坂真護氏の取り組みとは #前編

ニッポン放送で毎週日曜日午後2時10分からオンエア中のラジオ番組『SDGs MAGAZINE』。パーソナリティを務める新内眞衣さんとともにSDGsを学ぶ同番組の4月9日放送では、廃棄物からアートを生み出す美術家、長坂真護さんをゲストに招き、スラム街をサステナブルタウンへと変貌させるべく続ける、その活動に迫った。

電子廃棄物をアートにする。その売り上げを使ってスラム撲滅にチャレンジする。そんな生半可ではできない、壮大な取り組みを続ける人物がいる。目標1「貧困をなくそう」や、目標12「つくる責任、つかう責任」のみならず、SDGsの根幹にもつながる活動を展開する美術家、長坂真護さんをゲストに招き、見えてきたのは我々が普段目にしている現実の向こう側にある衝撃の事実だった。

新内 「本日は、よろしくお願い致します」

長坂
 「よろしくお願いします」

新内 「真護(まご)さんって、珍しいお名前ですね」

長坂 「一応、本名です。“真実を護る”という意味でつけたらしいですね、母親が」

新内 「今のお仕事にすごく合っていますね」

長坂 「そうですね。そのままになりましたって胸を張って言おうかなと思います(笑)」

【長坂真護(ながさか・まご)氏プロフィール】

1984年、福井市生まれ。MAGO CREATION代表取締役美術家。
2017年6月、ガーナのスラム街・アグボグブロシーを訪れ、先進国が捨てた電子機器を燃やすことで生計を立てる人々と出会う。以降、廃棄物で作品を制作し、その売り上げから生まれた資金で、これまで1000個以上のガスマスクをガーナに届け、スラム街初の私立学校を設立。19年8月にはスラム街初の文化施設を設立。この軌跡がドキュメンタリー映画「Still A Black Star」(現在、公開準備中)として制作され、アメリカの映画祭で「観客賞部門 最優秀環境映画賞」を受賞した。経済・文化・環境(社会貢献)の3軸が好循環する新しい資本主義の仕組み「サステナブル・キャピタリズム」を提唱し、抜本的な問題解決に向け、現地にリサイクル工場建設を進めるほか、環境を汚染しない農業やEVなどの事業を展開。スラム街をサステナブルタウンへ変貌させるため、日々精力的に活動を続けている。

電子廃棄物が集まる街「アグボグブロシー」で見た現実

新内 「まずは、具体的にどのような活動をされているのか伺いたいのですが・・・。長坂さん自身は美術家ということで、廃棄物を使って作品を制作して売るというのが初手の部分だと思うんですけど、どんな廃棄物でどのようなアートをつくられているのでしょうか」

長坂 「先進国から出たゴミが、なぜかガーナのスラム街、アグボグブロシーという街に集まっているんです。年間に電子廃棄物って大体、世界で6000万トン出ると言われているのですが、その街に1%にあたる60万トンが届くんです。『何だ、100分の1か』と思うかもしれませんけど、そもそも世界中に国って196カ国くらいあって、市町村や街なら何万、何十万とあるのに、たった一つの街に1%が集まるんです」

新内 「相当な密度ですね」

長坂 「相当な量です。でも、不思議と日本を含む先進国のゴミしかない。それが地球の裏側に着く。プラスチックって土に還らないので、美術品に適しているんです。僕らはお掃除して、これらを使って現地の実情とか資本主義の真実とか、そういったものを作品にエッセンスとして取り入れて、発表する。これが売れると、ゴミも減るし、売り上げで事業に投資できるという側面もあります」

新内 「1年間でどれくらいの作品数をつくられるんですか」

長坂 「去年は1000点です」

新内 「1000点!」

長坂 「そのうち900点が売れましたね」

新内 「どういったジャンルのアートを制作されているのでしょう」

長坂 「ジャンルは幅広いです。NFTのアートもやりましたし、油絵もやりますし、デジタルアート、水墨画とか日本画もやります」

新内 「多岐にわたるんですね」

長坂 「何でもやりますね。立体作品もやります」

新内 「長坂さんが訪れ、その活動のきっかけになったというガーナのスラム街、アグボグブロシーとはどのようなところなのでしょうか」

長坂 「日本では当たり前の新品のものがなく、全部中古の街ですね。たとえば企業広告の看板を屋根に使って生活していたりとか」

新内 「ゴミから使えるものをどんどんリサイクルしているということですか」

長坂 「“ママチャリ”も走っていますね。そこには日本語で名前や港区何とか・・・とかの住所も書かれています」

新内 「電子機器だけじゃなく、いろいろなものが捨てられているということですか」

長坂 「そうです。そして、電気がないので、リサイクルしたいものには火をつけるんです。プラスチックは石油でできているので燃えるじゃないですか。燃やすと中の金属が残る。これは売れますよね。簡単なリサイクル方法です。ただ、大気汚染や水質汚染につながる」

新内 「相当良くないですよね、煙とか」

先進国から冷蔵庫や電子レンジなどの家電、電子基板、キーボード、ゲーム機器、スマートフォンなど毎年25万トンの電子機器廃棄物が持ち込まれ、東京ドーム32個分のエリアが覆いつくされているアグボグブロシーは「電子機器の墓場」などとも呼ばれる。再生可能な金属を取り出すためにプラスチックを燃やすことで空は黒煙に覆われ、大量のガスを吸って30代で亡くなる人も多いという。一方、その仕事の対価は1日12時間働いてたった500円。大量生産・大量消費社会は、彼らの犠牲の上に成り立っているという現実を長坂さんは目の当たりにした。

長坂 「使わないプラスチックとか燃えカスは土に捨てちゃうんです。もともと、ここはラグーンっていう湿地帯で、湖みたいな場所なんですけど、たった15年で湖が全部消失して、先進国のゴミでウオーターベッドみたいな埋立地になってしまったんです」

新内 「大量生産・大量消費の社会が生み出した現実を現地で見て、何を感じましたか」

長坂 「彼らを犠牲にしてまで僕らが富を形成したり、成長したりしていくことが本当に必要なのかということですね。資本主義の正体を見ちゃったな、という感じが強かったです」

廃棄物アート誕生の背景

新内 「そもそも、どういったきっかけでアグボグブロシーに行かれたんですか」

長坂 「ふと見た雑誌、経済誌にフィリピンのスモーキーマウンテン(マニラ北方にあるゴミ山、スラム街)のゴミ問題のことが書かれていて、これを調べていくと『アグボグブロシー』がヒットしたんです。(当時は)世界15カ国を旅しながら、10年やっても鳴かず飛ばずの売れない絵描きをやっていました。それでも旅ができていたのは絵が売れていたからではなく、世界中で買い付けをしていたから。その競取りで生活をしていました。誇らしい仕事ではなかったけど、誰にも迷惑をかけずに生きていると思っていたんです。ただ、僕らが買い付けをしたもので、人が死ぬ村がある。嘘だろと思って、ここに行くしかないと思って行ったのがきっかけです」

新内 「その廃棄物からアートをつくろうと思ったきっかけは」

長坂 「初めてガーナに行って彼らの生活を見た時、責任を感じて、何かできないかと思ったんです。そうしたら帰る時に、彼らに『お前の着けているこれはなんだ』と聞かれて、『ガスマスクというんだよ』と教えたら、『それが欲しい』『死にたくない』と言われたんです。でも、僕自身がめっちゃ貧乏で、生活困窮していて、家賃も払えない状況だった。お金がないのに、100人分をどうやって用意したらいいんだろうと考え、思いついたのが足元に落ちているいろんな形をしたプラスチックの破片を集めて、それをアートにして売ることでした。先進国にダイレクトに問題を提示できるし、売り上げでガスマスクを買えば問題を解決できるんじゃないかと。それがきっかけで僕の廃棄物アートは誕生しました」

17年に初めてアグボグブロシーを訪れ、そこから絵を書き溜めたという長坂さん。18年3月に東京・銀座で初めて開催した個展で1枚の作品が1500万円で売れ、以降もそうした売り上げを現地の人々に還元する活動を続けている。
長坂 「(1500万円で売れた時は)びっくりしました」

新内
 「それはアートとしての素晴らしさもちろんですけど、取り組みを見て『いいな』と思われたということなんですか」

長坂 「絵を買ってくれたのは有名なアートコレクターで、『アートがいいからだよ』と言われました。『アートが生きているからだよ』と」

新内 「すごいですね」

長坂 「『1500万円でも高いと思わない』と」

新内 「アグボグブロシーに実際に行っても、見て終わってしまう人が多いと思うんです。そこに本気で向き合おうと思ったのはなぜですか」

長坂 「行けば、誰もが何かを思うと思います。資本主義への罪悪感や、こういう風景や現実があって、日々を感謝して生きようね、とか。ただ、直接的な加害者じゃないから、自分が買うものを少しセーブしたいとか、そういう気持ちも日に日に薄れてだんだん忘れていってしまう。でも、何か僕は死ぬ時に思い残したことがなかったかなと考えると思ったんですよね。スラム撲滅って人類未到達の目標ですが、その時にスラムを無くしたか無くしていないか、うまくいったかいっていないかは置いておいて、あそこで声を上げられなかった自分がいたら納得できないと思った。だから、チャレンジする道を選びました」

2030年までに目指す1万人の雇用創出

そして長坂氏が目標として掲げるのが、SDGsの目標年でもある30年までに現地で1万人の雇用を創出すること。リサイクル工場の建設などで3万人が住む街の人口の3分の1を支えようという壮大な挑戦だ。

長坂 「3分の1をフォローできれば、そこに家族がいるから大体全域をカバーできるという考え方です。今HPには24人と書かれているんですけど、達成率にすると0.24%。もう無謀なチャレンジです。でも、初めて行った時、もし自分の心の中で省みただけで生きていれば達成率は0%ですから。やっぱり、やるしかない。やっていることが0%でないことはもう証明されている。これを1%に、10%にした時に、全世界でムーブメントが起こって、『長坂真護の活動はすげえよ』となってアートが100億円で売れたら実現できますから」

新内 「より加速していきますよね」

長坂 「加速できる」

新内 「しかも、それこそリサイクル工場とかをつくれば、もっともっと雇用が増える可能性も秘めている」

長坂 「そうです」

新内 「SDGsの根幹は大量生産・大量消費社会が生み出した肥大した豊かさ、それを追い求めてきた経済の在り方を見つめ直すことだと思うんですけど、今の日本に思うことはありますか」

長坂 「何か消費に対するリテラシーとかが、ぶち壊れちゃっている。過剰なのか過剰じゃないのかとか、そういう感覚が麻痺しちゃっているように思います。僕もそうだったんですよ。アメリカへ留学に行った時、アメリカ人とルームシェアしていたのですが、日本だと台拭きを使う場面で全部ペーパーナプキンなんですよね。床を拭くのも皿を拭くのも全部ペーパー。拭いたらパパッと捨てていて、もったいないなと思って、『うわぁ』って引いていたんです。でも、1年後には自分も同じことをしていましたから。麻痺してくるんです」

新内 「私も消費に対するリテラシーがあるかと言われたら、まだ納得いっていない部分はあります。基本的に質の良いものを少しという考えではいるんです。キャリーケースとかも丈夫なものを買ったりとか」

長坂 「ああ、僕もそうするようにしてる、最近。リペアできるもの」

新内 「靴とかも全部修理に出すタイプなんですけど、消費に対するリテラシーを問われて、確かに今ドキッとしました」

長坂 「問題なのは、潜在意識にない部分なんですよ。江戸時代の人が僕らを見たら全部NGだと思うんです。感覚が麻痺して気づいていないところが、たくさんある。それが問題なんです」

新内 「家で断捨離を何回しても、自分にとって必要のないものって絶対に出てくる。それがもったいないなという思いがあったからこそ、自分でちゃんと選択して買わないといけないと思っています」

長坂 「洗濯機、持っていますか? それも多分アウトなんです。洗濯板を使った方がエネルギーを使わないでしょ。そういう感じ。乾燥機、あります?」

新内 「あります」

長坂 「ダメですよ。もう電気使わないから、天日干しでいいじゃんという話になる」

新内 「確かに。一方で、エネルギーの問題が出てくる中、時代にあったエネルギーの消費の仕方とか人間の在り方がないといけないと思うんです」

ガーナのスラム街の現実に始まり、2人のやり取りは、さらに奥深い話題、問題へと入り込んでいった。「本当に長坂さんの言うこと全てが私たちが考えるよりも先を行っているので、すごく勉強になるし、消費に対するリテラシーというのに自分も気付かされることがあります。自分で考えて行動を変えていかないといけない部分だなと思いました」と新内さん。次回放送では、引き続き長坂さんをゲストに、アフリカやフィリピンのゴミ廃棄物事情や雇用の問題など、さらに詳しく話を聞いた。

(後編に続く)