経済アナリスト・森永卓郎さんに学ぶ目標8「働きがいも 経済成長も」~後編 カギを握るのは「仕事は遊び」という発想の転換
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ニッポン放送で毎週日曜日午後2時10分からオンエア中のラジオ番組『SDGs MAGAZINE』。パーソナリティを務める新内眞衣さんとともにSDGsを学ぶ同番組の5月7日放送では、前週に続いて経済アナリストの森永卓郎さんをゲストに招き、目標8「働きがいも 経済成長も」について、その実現に必要なことなどを独自の視点で解説してもらった。
話題の“リスキリング”について
新内 「前回は経済アナリスト、モリタクさんこと森永卓郎さんに目標8『働きがいも 経済成長も』についてうかがったのですが、今回もすごく楽しみにしています。よろしくお願いします」
森永 「よろしくお願いします」
まず「最近はお仕事のことを学び直す“リスキリング”なんていう言葉も話題になっていますが」と切り出した新内さん。「リスキリング」(=「Re-skilling」)とは、時代の流れを見据えて業務上で必要となる新しい知識やスキルを学ぶこと。技術革新や働き方の変化、人材不足などのビジネス環境に対応するために重要なものとして注目度が高まっている。
森永 「これ(リスキリング)は理論上正しいんですけども、実際に再教育を受けてガラッと能力が変わるということがあり得るかというと、一般的には非常に難しい。例えば、普通のアルバイトをしている人が、ちょっとITの勉強をしてシステムエンジニアになれますか? 人工知能の開発者になれますか? それは、なかなか難しいですよね。やはり人間の興味だとか適性というのは、そう簡単に変わらないのではないかなという気はします」
新内 「本当に、そう思います。働くって森永さん的には何だと思いますか」
森永 「私がずっと言っているのは“仕事は遊びだ”ということ。遊びを仕事にするのは有能な人しかできない。でも、仕事を遊びにするのは割といろんな人ができる。今やっている仕事で“ふざける”ことなら、できるはずです。もちろん、いろいろトラブルは起こります。ニッポン放送の番組で日本道路交通情報センターとか警視庁に繋ぐじゃないですか。昔、番組でそのお姉さんに『どんな服を着ていますか』『目は二重ですか』『髪型はどんな感じですか』とか、いちいち絡んで想像図というのを書いていたんです。そうしたら『プライバシーを侵害するんじゃない』と言われて、今では私、道路交通情報センターの女性との会話が禁止されています」
新内 「当時のリスナーさんからは“妖怪質問じじい”といわれていたとか」
森永 「そうそうそう」
「働きがい」へ、一歩を踏み出す勇気
笑いも交えてリスキリングや仕事との向き合い方について軽妙に解説する森永さんに、新内さんは次なる質問をぶつけた。
新内 「仕事とか働くということに関してはたくさん教えていただいたんですけど、モリタクさんが今感じている経済についての問題点とかは、あったりしますか」
森永 「『資本論』を書いたカール・マルクスという人は、資本主義が行き過ぎると何が起こるかというと仕事がつまらなくなる、これが一番の資本主義の弊害だと資本論の最後の方に書いているんだそうです。私は3回、『資本論』を読もうとして3回とも3分の1で挫折したのですが、斎藤幸平さんという東大の先生が最後まで読んでそうだと言っているからそうなんです(笑)。それは、不幸なことですよね。いくらお金をもらえても、つまらない仕事、やりたくない仕事を死ぬまで続ける人生は送るべきじゃないと私は思うんです。でも、放っておくとそうなっちゃう」
新内 「つまり、働きがいと経済成長は両立していかなきゃいけない問題であるということですよね」
森永 「ここのところ、日本経済って大して成長していないんですけども、一部の勝ち組と言われる何億、何十億、何百億と稼ぐ人が出てくる一方で、庶民はどんどん給料も下がるし、仕事もつまらなくなるという状況に追い込まれている。これを何とかしようぜと私は思うし、そう言ってきたんですね」
新内 「働きがいのある仕事に就ける世の中になるって大事ですよね」
森永 「だから、(好きなことを)やっちゃえばいいんです」
新内 「その勇気がない、一歩が踏み出せない人ってすごく多いと思うんですよ」
森永 「仕事は一つだという思い込みがあるからなんです。いくつもやっちゃえばいいんです。私は10個くらい仕事をしているんですけど、金になっていなくても別に平気なんですよ。他で飯を食えるから。寝る時間は無くなるんですけどね」
新内 「その一歩を踏み出すモリタクさんには一歩を踏み出す才能があると思うんです」
森永 「そうなんですかね。何で踏み出さないのか、私は不思議で不思議でしようがないですけど」
新内 「私の周りでいうと、家族がいて収入の面で一歩を踏み出せないとか、もう年だからとか、そういう思いを持っている人が多い気はしますね」
森永 「でも、私は65歳ですが今新しい歌と踊りにチャレンジしようと思っています」
新内 「えーっ! 格好良い」
森永 「でも、ニッポン放送に出入りしているレコード会社の誰に言ってもCDを出すのは嫌だって言うんですよ」
新内 「でも、本当に行動あるのみってことなんですよね」
森永 「そう。命までは取られない。とりあえず、やって駄目だったら『どうも失礼しました!』って言って、すぐ次に行く。切り替えて次へ次へいくと意外とうまくいく場合があるんです。意外と何とかなる」
新内 「私も、そのモリタク・メンタルを鍛えていこうと思います」
昔からある“囲い込み”
「働きがい」のある仕事に就きやすい世の中にするにはどうすればいいのか。新内さんは「最近は新卒争奪戦のようになっていて、企業が内々定者を抱え込むために就活を終えるよう強要する“オワハラ”みたいのがあったりするらしいですね」と、就職活動の現状について大学で学生たちを指導している森永さんにたずねた。
森永 「私が就職したのは1980年でしたが、同じようなことがもう起きていました。私の場合は、超大手の証券会社の人が日本橋の料亭に人生初めて連れて行ってくれたんです。着物を着た女性が料理を出してくれるような、いわゆる政治家がよく行くところです。もう感動しちゃって、こんな世界があるんだと思って、電話したんですよ。『もう一回、あそこに行かせてくれませんか』って。そしたら『友達を連れてきたらいいよ』と言われたので、大学から3人連れてもう一回行ったんです。どんちゃん騒ぎして、証券会社の人が『じゃあ、これから女性がいるバーに行きましょう』と。私は、そこで殺気を感じて逃げたんです。私の同級生3人は連れて行かれて、3人とも入社しました」
新内 「そんなこと、ありますか」
森永 「でも、そのうちの一人はガンガン出世して役員に上り詰めましたからね。何が幸いするか分からないですね」
新内 「応募した人、就職をしたい学生さんたちと企業が欲しい人材が合致しないと就活って難しくないですか」
森永 「でも、私は会社に入ったら、仕事は自分でつくり出せばいいんだと思うんですよ。僕も専売公社に入って最初の仕事は資金係。当時売り上げが3兆円くらいあったんですけど、その資金を運用する部署にいたんです。それで当時、電算室っていうコンピュータを扱っている部署の女性社員と仲良くなって、私の仕事を全部分析してプログラムに書いてよと言って全部コンピュータにやらせるようにしたら、すごく暇になったんですよ。その暇を活かして、いろいろといたずらをすることにしたんです。当時は資金運用部資金という郵便貯金などを原資にしたお金があって、そこからお金を借りていたんです、7000億円くらいを金利7%で。でも、国庫余剰金は金利がゼロだった。何で金利ゼロの方から借りないんですかと言ったら、今国庫に余裕がないから借りられないんだよと言われたんです。なので『分かりました、係長。つくればいいんですよね、余裕を』と言って、資金運用部から6000億か7000億円を借りてきて、それを国の一般会計の口座にぶっこんだんです。当時、専売公社も一般会計と同じ口座だったので。私と係長だけが余裕ができたことを知っている。そこで、タイミングを合わせて国庫余裕金使用申請書を出したら通っちゃったの。無利子の金をバーンと使って、3か月後にそれが発覚して、大蔵省に呼び出されてコテンパンに怒られた。違法行為はしていないので、二度としませんという始末書だけで済んだから全然罪悪感はないんですよ。そんな感じて、ずっと好きなことをしていました」
新内 「働く、イコール遊びというか」
森永 「遊び、遊び」
新内 「どこで働くかというより、どう働くかが重要ということですかね」
森永 「そう。何か一回やってみると、そこに新しい道が開けるか、トラブルになるかどっちか」
新内 「トラブルのリスクもあるけれど、行動していく方が良いということですね」
森永 「トラブった時はすぐに謝る。私、今でも毎日2回ずつは謝っていますから」
新内 「モリタクさんでも謝っているのだから、少しの失敗は気にすんなってことですね」
森永 「そうそう。命までは取られない。私なんか逮捕もされていないですから、今のところ(笑)」
新内 「余談なのですが、こうした難しい経済の話題を分かりやすく伝えるために工夫していることはありますか」
森永 「普通に話すことだと思います。難しいことを言う経済評論家とか、世の中にいっぱいいるじゃないですか。あいつらは、わざと難しく言って頭良さそうに見せているだけなんです。すごくプライドが高い。まずは下から入って、僕なんかバカですからねというところから入れば全然平気なんですよ」
新内 「今回も、すごく楽しくお話をさせていただいて、働くってもっとポップに考えても良いのかなと思いました」
森永 「言われた通りにやるんじゃなくて、こうしたらもっと楽しいんじゃないのというのを常に繰り返していけば、つまらないと思った仕事もどんどん楽しくなっていくんですよ」
そして、新内さんは最後に恒例の質問、「今私達にできること=未来への提言」を森永さんに投げかけた。
森永 「私はずっと言い続けていることがあります。それは『みんな、アーティストになろうぜ』といこと。資本の下僕になるんじゃなく、一人一人がクリエイティビティを発揮しながらアートをつくる。仕事もアートにする。そうすれば、みんな幸せに生きられる。1億総アーティスト宣言というのを言い続けているんです。やってみようよ、みんな生まれてきたからにはアーティストだよ、と。なかなか受け入れられないんですけどね」
新内 「忙しい毎日に割と流される瞬間とか、たくさんあるじゃないですか。その時に自分はアーティストだという心を持って働ければ、気持ちが軽くなる気がします。駄目だった時に落ち込まないで、とりあえずやってみるというのが良いと思います」
2週にわたった森永さんのゲスト回を、新内さんは「本当に、いろいろなことをフランクに話していただける方でした」と振り返った。特に印象に残ったのが「仕事は遊び」という言葉。「本当にそうだな、と。遊びを仕事にできる人は一握りだけど、仕事を遊びに置き換えられる人は割といるから、そういう心持ちで能動的に生きるって、すごく大切なことなんだなと思いました。私自身にも刺さる部分があったので、もっとちゃんといろいろやりたいことをまとめていかないといけないなと思いました」と、未来の仕事に向けても新たな学びを得た様子だった。