通勤とテレワークどっちがSDGs?世界のApple・LINEが行っている取り組みとは
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先日NTTが発表した、在宅を基本とし出社は出張扱いにする、という新しい働き方は、メディアでも取り上げられ、SNSでも大きな話題となりました。また、IT大手のヤフーも社員に対して全国居住を可能とし、航空機出社も認める制度を導入しています。一方で、情報漏洩防止のためにパソコンの持ち出しが厳しい職場や役所、また、環境や社内体制が整っていない企業においてはコロナ禍でさえもテレワークとは程遠い状況で、日本企業のテレワーク推進状況は二極化しているようにみえます。今回はテレワークの必要性について、海外事例と比較しながらSDGs視点で考えます。
国土交通省が今年6月に発表した首都圏白書によると、新型コロナの影響により、首都圏で昨年テレワークを経験した人の割合が2年前の17.6%から38.9%に増加したことが分かりました。車通勤が減ったことによる二酸化炭素の削減量は、同じく首都圏において1日2,337トン、削減率9.7%と推計されています。また、テレワーク未経験者を含めた首都圏の就業者の5割以上が「今後自宅でテレワークを実施したい」と答えており、今後テレワークが進むことで更なる二酸化炭素の削減が期待されています。2019年における日本の二酸化炭素排出量のうち、運輸部門は全体の19%を占めており、その8割以上が自動車です。バスや鉄道も二酸化炭素は排出していますので、通勤の観点でみると、移動の機会を減らすことは温暖化防止に繋がり、SDGsの目標達成に貢献します。
参考:国土交通省 首都圏整備に関する年次報告要旨 国土交通省 運輸部門における二酸化炭素排出量
出社=出張の時代へ。3万人テレワークのNTT
NTTグループは、社員が日本全国リモートで働ける制度を7月より導入することを発表しました。対象となるのはリモートワークで業務可能な組織に限られていますが、約5割(約3万人)が対象になると想定されています。フルリモートではなく、リモートワークと出社を組み合わせたハイブリッドワークを前提としていますが、出社する場合は飛行機を利用しても交通費が支給されます。また、150㎞以上離れている場合は出張手当も支給されるというから驚きです。柔軟な働き方は優秀な人材の確保にも繋がります。いわゆるIT企業や歴史の浅い会社などでリモートワークが進んでいることはイメージできますが、NTTのような古くからある巨大企業が全社対象に制度化したことは、他の日本企業にとっても大きなインパクトがあり、働き方の定義も大きく変わっていくのではないでしょうか。
出社か退職か。テスラ(アメリカ)の新しい働き方
電気自動車大手のテスラのCEOであるイーロン・マスク氏は社員に対し、6月より原則出社の働き方に切り替え、週最低40時間出社できない者は退社させると通達しています。自身も工場で長時間過ごし製造ラインで働く人と共にしたことで今のテスラがあることを取り上げ、テレワークによって素晴らしい商品は生れないと言及しました。
自らの経験から現場で顔を合わせることの重要性を感じての発言だったと思われますが、場所と時間を縛ることは時代錯誤であるという意見も多く聞かれ、また、同氏が在宅勤務を怠け者扱いしたことなどからSNSでも物議を醸しました。
Apple(アメリカ)出社日数ルールを撤回、ハイブリットワークに切り替え。
一方で、大手IT企業のアップルは対面でのコミュニケーションの重要性から週の最低出社日数を設けると発表しましたが、機械学習のトップが働き方を理由に退職するなど人材の流出が相次ぎ、ルールを撤回。条件を緩和し、ハイブリットワークに切り替えることになりました。働き方が優秀な社員の確保にも繋がる一方で、対面による共同作業の重要性も再認識される中、社員が選択できるハイブリッドワークは時代と共に一般化するのではないでしょうか。
時差4時間までOK !海外リモートが可能なLINE Plus(韓国)
LINEのグローバル市場拡大を担当している会社、LINE Plusは、7月より韓国との時差が4時間以内であれば海外のどの地域からでも勤務ができる制度を導入しました。勤務可能地域は日本、台湾、タイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、ベトナム、モルディブ、グアム、ニュージーランド、サイパン、オーストラリアなど。既に社内で働くスタッフの国籍が約50カ国という多国籍な環境で、また、グローバル戦略や海外進出を司る会社だからこそ実現できる、国を超えた新しい働き方です。更に、リモート環境の整備や通勤時に使える独自のポイント制度も導入しています。リモートワークを始めるには何かと費用がかかるだけに、会社が負担してくれるのはありがたいことです。このポイントは出社時の航空券にも使えるということで、海外からのリモート勤務の促進に繋がりそうです。
SDGsをテレワークの導入のきっかけに
筆者は7年前に大手メーカー企業の社内IT部門で全社2万人を対象とした働き方改革を推進していました。メリットがある一方、当時は「業務を怠る社員が出るかもしれない」という部下を目視で監視・管理したい上層部の思いや、ネットワーク環境の整備コストなどで全社一斉にテレワークを実施するというハードルがとても高く、一部の部署でしか実現できませんでした。また、社員の中からは、自分の部屋がない、出社する方が捗る、という反対意見もありました。パンデミックによって半ば強制的にテレワークが広がったことは多くの企業にとって転機となったはずです。特にテレワークと出社のハイブリットは社員の柔軟な働き方を促進しますし、評価制度も個人の成果を重視したものに変わることで優秀な社員のモチベーション向上にも繋がります。
環境に配慮された経営が求められるようになった今、SDGsを取り込みたいと思っている企業にとって、二酸化炭素排出の抑制だけでなく、目標8「働きがいも経済成長も」にも貢献できるテレワークの導入は一つの指標になります。子どもが熱を出した時、電車が止まった時、台風の時など、部分的な導入から始めてもいいかもしれません。なかなか踏み切れない企業も、SDGsという視点からリモートワークの導入が広がっていくといいですね。
企画・ライター/黒川
編集/井口