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剛力彩芽と学ぶ目標13・前編 国立環境研究所・江守正多副領域長、温暖化は「ギリギリ」の状況


この記事に該当する目標
13 気候変動に具体的な対策を
剛力彩芽と学ぶ目標13・前編 国立環境研究所・江守正多副領域長、温暖化は「ギリギリ」の状況

持続可能な開発目標「SDGs(エスディージーズ)」を学べるニッポン放送の特別番組『SDGs MAGAZINE』。2021年4月3日に放送された第13回はSDGsのゴール13「気候変動に具体的な対策を」がテーマとなった。国立環境研究所・地球システム領域副領域長の江守正多氏をゲストに迎え、女優の剛力彩芽さんが気候変動の現状や世界の現状、問題点などを聞いた。

◇◇◇

SDGsの17の目標を「ウエディングケーキ」の形で説明した「SDGsウエディングケーキモデル」というものがある。地球規模の持続可能性に関する分野で国際的に知られるスウェーデン出身の環境学者、ヨハン・ロックストローム氏が作成した概念で、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」を頂点に、3つの階層(「経済圏」「社会圏」「生物圏」)で構成。詳細は本サイトに掲載されている記事(https://sdgsmagazine.jp/2021/04/02/1343/)を見ると分かりやすいが、その「ケーキ」の土台に目標13「気候変動に具体的な対策を」などからなる「生物圏」が位置付けられている。人間やその他の動物・植物が地球上で暮らしていくために必要不可欠な「自然環境」に関する目標である気候変動への対策は、いわば全てのSDGsの目標の下支えとなるものといえる。

4月22日に地球のことを考えて行動する日「アースデー」を前にした新年度最初の放送は、「まずは土台から」という思いも込めて、この目標13にある「気候変動」がテーマとなった。ゲストに招かれたのが、国立環境研究所・地球システム領域副領域長で、4月から東京大学大学院広域科学専攻客員教授を務める江守正多氏。1970年生まれ、神奈川県出身の専門家に、気候変動の問題の基本から日本や世界の現状まで解説してもらった。

江守氏の専門は、コンピュータシミュレーションによる地球温暖化の予測。テレビ番組『世界一受けたい授業』などにも出演し、国立環境研究所のYouTubeでは地球温暖化の現状の講義なども配信(https://www.youtube.com/results?search_query=%E6%B1%9F%E5%AE%88%E6%AD%A3%E5%A4%9A)している。

剛力 「『国立環境研究所』とは、どのようなことをされている機関なのですか」

江守 「環境問題のことは何でも一通り研究しているようなところです。50年ほど前に環境庁が出来たとき、国立公害研究所として元々はつくられたものです。当時は、大気汚染とか水質汚染とか、そういう公害がすごく深刻で、その研究所としてつくられ、そのうちに地球環境問題に広がっていったというところです」

剛力 「2015年に国連サミットでSDGsが策定されるより、かなり前から環境問題に携わってきたということですね。江守先生が環境問題に興味を持ったきっかけは」

江守 「今から振り返ると、高校生の時にチェルノブイリの原発事故が起こり、テレビで日本の原発は安全かなどという議論をやっているのを見て、段々と興味を持ってきたように思います。社会問題としての環境問題に興味を持ってきました」

そんな江守氏に剛力さんが尋ねたのが「気候変動」に関する世界の現状だ。「『SDGsウエディングケーキモデル』にもあるように、SDGsを見る上で前提として知らなければいけないのが目標13『気候変動に具体的な対策を』です。ここで掲げられている気候変動について、まず具体的に世界はどのような状況になっているのか教えていただけますか」と切り出すと、江守氏は「気候変動は、地球温暖化と大体同じ意味で私は使っています」と前提を説明。SDGsが国連サミットで策定されたのと同年、2015年にパリで開かれた温室効果ガス削減に関する国際的取り決めを話し合う「国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)」で合意した「パリ協定」に掲げられた長期目標が、重要な意味を持っているのだという。

江守 「人間活動を主な原因として、世界で気温が上がっています。それは、温室効果ガスというものを人間活動によって大気にいっぱい出しているからです。一番大きいのはCO2(二酸化炭素)。人間が化石燃料、つまり石炭、石油、天然ガスを燃やすことによってエネルギーをつくるときに、どんどん大気にCO2が増えていって、それが地球を暖めているわけです。世界の平均気温は産業革命以前より1.2度くらい上がっていると考えられています。一方、パリ協定で世界の長期目標として掲げられたのは『世界の平均気温上昇を産業革命前と比べて2度より十分低く保ち、できれば1.5度に抑える努力をする』というものです。つまり1.5度で止めたいのだけれど、既に現時点で1.2度まで来ているということなんです」

剛力 「目標を超えるのは時間の問題・・・」

江守 「そうです。早ければ2030年、あと10年弱で1.5度に達してしまうと言われています。それを世界の目標にしている。結構、ギリギリな感じですよね」

剛力 「正直、気候変動というワードはグレタさん(グレタ・トゥーンベリさん=主に地球温暖化の弊害を訴えるスウェーデンの環境活動家)らが発信し始めてから意識したように思います。地球温暖化という言葉は知っていたのですが、生活とリンクするまでに時間がかかった。でも、他人事じゃないんですよね」

江守 「日本では十数年前に地球温暖化というのを一回、すごくみんなが意識するようになりました。2007.8年くらいに、かなり意識が高まったのですが、その時は節電とか、車にあまり乗らないとか、水を出しっぱなしにしないとか、何%か排出を減らすのが目標という程度の認識だったように思います。しかし、今パリ協定で1.5度とか2度で温暖化を止めなくちゃいけないと目標が定められた。そのためには世界のCO2の排出量を実質ゼロにしなくてはいけないんです。世界はパリ協定で盛り上がっているのですが、日本の人々が本当にピンとくるまでには時間がかかっている印象です」

では、地球温暖化の現状はどうなっているのか。剛力さんは「年々温暖化は速まっている気がしますよね」と印象を語る。

江守 「自然の変動というのがあって、人間活動と関わりなく気温は勝手に変動します。それによって温暖化が止まっているように見えたり、すごく進んでいるように見えたりします。ただ、ここしばらくは、かなり進んできたなという感じがするかと思います。特に、記録的に暑い年があったり、記録的な台風とか、大雨とか、そういう被害が日本でも目立つようになったりしてきましたことで実感することも多いと思います」

剛力 「温暖化を止められないと、そうした異常気象が起こる」

江守 「温暖化が進むと、もちろん異常気象がどんどん増えていくということもあるのですが、ある温度を超えると大規模な異変みたいなものが出てくることが心配されています。グリーンランド(80%が氷や雪で覆われている北極海と北大西洋の間に位置する世界最大の島)の氷がとけ始めているのですが、ある温度を超えるととけるのが止まらなくなるといわれています。全部とけるまで止まらなくなる“スイッチ”が入る温度がある、と。あるいはアマゾンの熱帯雨林が枯れるのを止められなくなる“スイッチ”を、そろそろわれわれが押してしまうのではないかとも言われているのです。しかも、一個最初のスイッチを押してしまったら、それらが連鎖していくことも懸念されています。例えば、アマゾンの熱帯雨林が枯れていったらCO2がそこから増えて、さらに温暖化が進み、それが次のスイッチを入れてしまうというように、連鎖して4度くらい温暖化するのではないかという説が出てきているんです」

剛力 「どうしたら、それを防げるのでしょう」

江守 「1.5度までいかなければ、そのスイッチを押さずに済むんじゃないかということですよね」

剛力 「日本だと、温暖化によって何が起こるのですが」

江守 「分かりやすいのは猛暑です。しばらく前に私が監修してつくった2050年の天気予報というのがYouTubeに上がっているのですが、これでいくと2050年には熱中症などの暑さが原因で亡くなる人が年間6500人になるという科学的な予測が出ています。あとは大雨が増えますし、スーパー台風といわれる非常に強い台風が接近したり、上陸したりする恐れが出てくる。さらに、世界の目を向けるともっと深刻な被害を受ける人たちが出てきます。乾燥地域で干ばつが増えると、貧しい農民は食糧危機、水危機で収入がなくなり、難民になり、紛争の被害に遭ったりしてしまいます。小さい島国に住んでいる人たちは、海面が上昇すると住む場所がなくなり、やはり難民になってしまいます。しかも、彼らはCO2をほとんど出していないのに結果を負わされる。非常に不公平です。前の世代がつくった温暖化した地球で、次の世代が長く生きていかなくてはいけなくなる。それも、大きな問題です」

剛力 「子供たちが全部結果を負う。地球は一つでつながっているということを考えないと、自覚しないといけないということですよね」

SDGsの17の目標が、それぞれ単体ではなく、深いつながりのもとに成り立っているように、気候変動の問題も世界のあらゆる問題とつながり、影響を及ぼす。

江守 「僕は、SDGsにそれほど詳しくはないのですが、気候変動を考える上でも、他の目標はすごく大事になります。例えば、太陽光発電のソーラーパネルを木を切って設置する例が増えていて、それは生態系破壊じゃないかと問題になっています。やり方が上手くないと、他の目標とケンカしてしまう。バイオマスでエネルギーをつくろうとする際に食料が足りなくなったり、対策の資金がかかることでエネルギーが高くなり貧しい人にしわ寄せが行ったりとか、そういうことがないように気候変動対策も設計していかなくてはいけません。そうして気候変動を止めることができれば、飢餓や貧困、生態系の問題や水不足、人々の健康に対してもプラスになります。そうした関係性の中で、気候変動も考えていかなくてはいけないと思います」

ここで剛力さんが投げかけたのが、日本の気候変動に対する感覚について。江守氏は「割と無関心な人が多いかなと思っています」とし、話は日本の現状や課題に及んだ。
(後編に続く)