変わり続ける現代における、三菱重工が考える社会貢献の本質
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初対面の人と話す時に、「好きな食べ物」の話題を取り上げたことのある人は多いのではないでしょうか。食欲は人間の三大欲求の一つにも数えられています。私たちにとって「食べる」という行為はそれほどに当たり前の、身近で大切なものです。しかし、その食事を自分では行うことができないとしたら、ということは考えたことがあるでしょうか。
食事をする際に、私たちは多くのものを必要としています。ハンディキャップを抱えていて既製の食器を自分で持つことができないために、食べ物を口に運ぶことが困難で、食事の際に人の助けを必要とする人々がいます。自分のペースで食べることができない状態というのは、想像することすら難しいような苦しいことでしょう。そうした人々にとっての救世主が、形状記憶食器です。
形状記憶食器は、三菱重工が開発したポリウレタン系プラスチック素材「形状記憶ポリマー樹脂」を持ち手部分に使用しています。熱を加えることにより形状を変化させることができるので、既製の食器での食事が困難な状態でも、自分に合った形へと変化させることで自らの力で食事をすることを可能にします。
三菱重工では、労働組合が社員から募った「ともしび募金」の募金額に、会社が同額を上乗せして寄付するマッチングギフトという取り組みでこの形状記憶食器を購入し、福祉施設に寄贈しています。
※寄贈している形状記憶食器(株式会社青芳が販売する福祉食器ライン「ウィルシリーズ」)
マッチングギフトに見るSDGs
近年、社会問題全般への人々の関心が高まる中で、SDGsという言葉も日々どこかしらで聞かれるようになり、企業にもますますその達成へ向けた活動が求められるようになってきています。SDGsは2015年の国連持続可能な開発サミットで採択された世界共通の目標ですが、ここに掲げられているような行動が、そのときに突然求められるようになった訳ではありません。三菱重工でのマッチングギフトの取り組みについても、SDGsという言葉が誕生するよりも前の2003年から毎年行われており、自社開発の素材を使用した形状記憶食器の寄贈は、当時から三菱重工ならではの社会貢献の形として続けられてきました。それが現在では、結果的にSDGsにもつながっているのです。食器を通して使用者の健康増進やQOLの向上に寄与することは、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」への貢献となっていますし、社会的に弱い立場に置かれがちな障がい者の方々の支援は目標11「住み続けられるまちづくりを」に、社会におけるパートナーシップによる取り組みの推進は目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」に対応していると言えます。
ここで、例えばこの目標3の達成に貢献したいと考えた時に、自分で食事をすることが難しい人々の存在を思い浮かべられる人はそう多くはないかもしれません。大事なのは、これまで通りにSDGsという言葉の枠にとらわれ過ぎることなく、社会において様々な困難を抱えている人々を前に、その困難を少しでも改善しようと働きかけることなのではないでしょうか。
寄付が活きている現場での変化
マッチングギフトでは、毎年、実際に寄贈した施設の方々からの感謝状や御礼状も頂きます。寄贈された食器を使って「自分で食べる」ということによって、人間本来の欲求が満たされてストレスが軽減され前向きになれる、手先の運動により脳が活性化して思考力も上がり運動機能の改善にもつながるなど、精神的にも身体的にも好影響を与えることがわかりました。また、利用者の人々が食事の際に職員の助けを必要としなくなることで、施設職員の負担も減ります。このような実際の取り組みを通じて得られた知見は、社会貢献の価値を改めて感じさせてくれるものです。SDGsという言葉の広まりと共にその必要性が認識しやすくなった現在だからこそ、本質を見失うことなく、自分たちの強みを生かした社会貢献によってその達成を目指していく必要があるでしょう。
より高次のサステナビリティ活動へ
さて、そんなマッチングギフトの取り組みを始め、三菱重工の中で様々なステークホルダーとの関わりを意識しながらサステナビリティに関する活動を行っているのが、サステナビリティ推進室です。社会的なサステナビリティへの関心の高まりに応える形で、三菱重工グループのサステナビリティ経営体制の強化の一環として昨年10月に新設されました。三菱重工では、2007年より「地球との絆」「社会との絆」「次世代への架け橋」というCSR行動指針を掲げ、三菱重工グループ全体で活動しています。今後も、マッチングギフトのような社会との絆を深める活動はもちろん、3つのCSR行動指針に沿った三菱重工ならではの社会貢献活動にいっそう力を入れていきたいと考えています。
さらに、純粋な社会貢献活動だけでなく、特に世界的にも重要視されている課題である脱炭素の取り組みを中心に、事業を通じたサステナビリティ活動もより大きく展開していきます。
本質的な社会貢献のために
コロナ禍に入って2年以上が経過しましたが、このような状況になることを以前は誰も予想できていなかったように、今後世界で何が起こるかは誰にもわかりません。必要とされるものが加速度的に変化していく中で、社会貢献というのは非常に難しいものです。だからこそ、可能な限りすばやく柔軟に需要に応えるために、今持てるものを最大限に活用していくことと、入念な準備は非常に重要なものとなっていると言えるでしょう。三菱重工は、社会と大きく関わる企業として、その姿勢を一貫して示していくことが大事だと考えています。
そして今後も、マッチングギフトの取り組みのように社員と会社とが一体となって、サステナビリティ活動に取り組んでいきたいと思っています。