近年、「美女と野獣」や「アラジン」、「シンデレラ」など、女の子の憧れであるディズニープリンセスたちが続々と実写化され、大ヒットしています。そんな中、プリンセス人気ランキング上位の「アリエル」（「リトル・マーメイド」）の実写化が決定しました。

待望の実写版映画の主演に抜擢されたのは黒人の新人俳優です。原作のアリエルのイメージとは異なる黒人女性を起用したキャスティングに、SNSなどでは賛否両論の声があがり話題になっています。原作アニメーションから赤毛で白人の人物が妥当だと直観的に感じる方が多いかもしれません。

その違和感の原因は、単に原作とイメージが異なるからだけなのでしょうか？
本記事をステレオタイプ（固定概念）や映画作りの変化というワードを頭に思い浮かべながら読んでみてください。

全世界待望の「リトル・マーメイド」が2023年初夏に公開

2023年10月に創立100周年を迎えるディズニーは9月10日（日本時間）、名作「リトル・マーメイド」の実写映画を2023年初夏に公開するとカリフォルニア州で行われたファンイベント、D23 Expoにて発表しました。
「リトル・マーメイド」は1991年に公開された不動の名作アニメーション。主題歌の「アンダー・ザ・シー」はアカデミー賞歌曲賞を受賞するなど、30年近く経った今でも大人から子どもまで世界中で愛されている作品です。
そんな名作の実写化は全世界が待ち望んでいました。

注目の主演アリエルを演じるのは、期待の新人女優ハリー・ベイリー。かの有名な歌姫ビヨンセもハリーの素質を見抜いており、彼女のアルバムやツアーにも参加しているほどの実力の持ち主です。

しかし、SNSではアリエルファンたちの映画に対する期待の声がある一方で、原作と異なる人物像のキャスティングに対して違和感を隠せない反応が多く見受けられます。

映画界で重要視されているメディアテストの存在

SDGsの17の目標を達成するために行動をしている業界は数多くあり、映画界もその一つです。

動画配信サービスのDisney+（ディズニープラス）では、「ピーター・パン」の他、一部の古い作品が視聴される前にステレオタイプな描写シーンが含まれていることを知らせる短い動画が流れるようになりました。実は、私たちが見ている「名作」といわる映画の多くに、女性のあるべき姿や特定の人種のステレオタイプを連想させる表現が多くみられます。

世界的に人々の平等性や多様性、差別への問題意識が高まっている中、メディアを通して世に出る内容について、差別を測定する様々なテストが登場し、多様性の改善に使用されています。

その先駆けともいえるのがベクデル・テストです。ベクデル・テストはジェンダーバイアス測定のために用いられるテストで1985年に登場しました。

・最低でも2人の女性が登場するか
・女性同士の会話が恋愛にまつわる話だけではないか
等のチェック項目があり、映画界ではこれらを用いてステレオタイプな描写に当てはまらないかを確認している傾向があります。人気作「スター・ウォーズ」はこのテストをクリアできていません。

このほか、レース（人種）ベクデル・テストやコーテストなど、人種差別を測定するテストも増えています。

ディズニーの名作が放送され続ける理由

前述の通りDisney+では、ステレオタイプ的思考を連想させてしまう可能性がある作品であっても放送を禁止することなく配信しています。
免責事項には、不適切な描写が含まれていること、それらが制作当時、また現代においても誤りであるとした上で「当該箇所を削除するのではなく、偏見が社会へ与える影響を認識し、そこから学び、議論を促すことで多様性あふれる社会の実現につなげていきたい」と記載しています。

私たちは気づいていないだけで、自分の中にも潜在的にステレオタイプが潜んでいることを、誤った表現をしている映画を通して、ハッと気づかされるかもしれません。

アリエルのモデルがもともと黒人だったら？

Tiktokでは、実写版「リトル・マーメイド」が黒人キャストによって演じられることを予告動画で知った黒人の子どもたちが、嬉しさのあまり涙を溢し喜ぶ動画が話題になりました。
有色人種のキャラクターはまだまだ少なく、特にプリンセスでは黒人のキャラクターが1人しかいないのが現実です。
自分と同じ肌の色をした憧れのアリエルは、黒人の子どもたちにとって希望のあかりとなったのかもしれません。

意識をしていなくても、歴史的背景や文化などで自分の固定概念は出来上がっています。
今回の「リトル・マーメイド」はそんなステレオタイプに気づくきっかけになるかもしれません。 世界中が期待している実写版「リトル・マーメイド」がどのように描かれるのか、映画の公開に注目です。

企画・ライター／マヤニコル
編集／内村