酒蔵開きの2月、日本酒が直面する環境問題とは?寒冷地への引っ越しで味が変わる?
この記事に該当する目標
2月は全国各地で「酒蔵開き」が多く開かれる時期です。酒蔵開きでは寒仕込みが終わる2月中旬ごろに新酒の出来上がりを祝って、各地の酒蔵がお客さんを招いて飲み比べといった様々なイベントを行います。
日本酒はここ10年海外輸出量が毎年過去最高記録を更新するなど、海外での人気も高まっていますが、実は温暖化や異常気象によって、日本酒造りに危機が起きていることをご存知でしょうか?今、各地の酒蔵では環境問題に適応するための日本酒作りが進んでいます。
今回の記事では、気候変動が日本酒造りに及ぼす影響と、日々解決しようとしている酒蔵の取り組みをご紹介します。
気候変動と日本酒造り
各地の酒蔵の取り組みをご紹介する前に、なぜ日本酒造りに環境問題が関係し、影響を及ぼしているのか考えてみましょう。その理由は繊細な日本酒造りの過程にあります。日本酒は主に、米・水・米麹・酵母菌や乳酸菌を発酵させて造ります。しかし日本酒造りに使用される米にはアルコールを作り出す上で欠かせないブドウ糖が含まれていません。そこで日本酒造りでは、アルコールを作り出すため、米のデンプンをブドウ糖に変える必要があります。日本酒に関しては、この工程が酒造り、つまり味に大きな影響を及ぼすと言われています。米に含まれているデンプンの質が日本酒の味に直結するのです。特にデンプンの質は暖かい地域で生育された米、寒い地域で生育した米では大きく変わると言われており、例えば同じ品種の九州産のお米と北海道のお米を、同じ条件で醸造しても、分子構造の違いから、味の濃さが変わってきます。
「酒米の王」と呼ばれる山田錦の取り組み
日本酒に使われるお米で有名な高級酒米ブランド「山田錦」。酒米の王様と呼ばれ、「獺祭」や「白鶴」のほか全国の多くの酒蔵で使用されている酒造好適米の代表品種ですが、地球温暖化による気温上昇に伴い、質の低下や収穫量の減少は年々顕著になっているそうです。
これまでは山田錦は兵庫県を中心に、岡山県、山口県などで生産されていましたが、寒さや風に弱いのが特徴で、気温上昇による栽培適地の北上といった影響を受け、穂が出たり成熟したりする時期が早くなり、夏場の日差しで品質が低下。収穫量が減る年が頻発しました。これまでにも「予3」と呼ばれる、山田錦の遺伝子を94%引き継ぐ品種が開発されたそうですが、品種改良したものがこれまでの山田錦として世に出回ってもよいものかと賛否両論がありました。
とはいえ、寒冷地の北海道で栽培することは不可能とされてきたのですが、北海道芦別市で、2016年から北海道産「山田錦」を生産しようという「道銀・酒米プロジェクト」がスタートしました。そして、2021年に「山田錦」を使った日本酒が北海道にある酒蔵6社で試験醸造され、昨年2022年に販売開始となりました。これまでは栽培が難しいと言われてきた山田錦が、北海道で栽培が可能になったことで、山田錦の収穫量減問題が少し解決されるかもしれません。
水力発電由来に切り替えた山梨銘醸「七賢」
白州のおいしい水を使っていて人気の高い、日本酒「七賢」を作っている山梨銘醸は、今年一月に、使用電力全てを水力発電由来に切り替えたと発表しました。これにより、二酸化炭素排出量を年間約510トン削減が見込めるそうです。日本だけではなく海外での人気も高い「七賢」。気候変動対策に力を入れることによって、ヨーロッパなどの環境意識の高い地域などでの販売増に結びつけていくことが可能になるのだとか。
現在、日本酒の酒蔵の数はだいたい1500くらいだと言われています。一社で510トンもの二酸化炭素排出量を削減できるということでこういった酒造がこれから増えていけば、環境保全へのさらに大きな貢献が期待できます。
これからも美味しく日本酒を楽しみたい
日本酒と環境問題、いかがでしたか?今は何気なく楽しめている日本酒ですが、異常気象や後継者問題によって実は様々な問題が起きており、もしかしたら将来日本酒がさらに貴重なものになるかもしれません。しかし、この問題を解決しようと、全国各地で日々研究や開発が行われています。
裏話を知ったうえで飲む日本酒は、少し違う味がするかもしれません。バックストーリーを知ったうえでの日本酒、今年も楽しみですね。