ずっと我慢していくの?負の連鎖を生む毒親の特徴と子どもに与える影響
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今年3月、齊藤彩さんの著書『母という呪縛 娘という牢獄』が発売され、注目を集めました。これは、2018年、滋賀県で母親を殺害し遺体をバラバラにした32歳の女性が逮捕された事件について、取材を重ねた元通信社記者がその事件の背景に迫るノンフィクションです。この事件は当時多くのメディアでも取り上げられていたように、背景には異様な母娘関係があったことが分かっています。この事件が話題に上るなかで、一つのワードが大きく注目されました。それが「毒親」です。今回はこの毒親について考えていきます。
『母という呪縛 娘という牢獄』
まずこの本の内容を紹介します。母親は娘の幼少期から彼女が医師となることを切望しており、娘が医学部に合格するために厳しく教育してきましたが、不合格続き。しかし、9年間浪人した末、2014年に滋賀医科大学医学部看護学科への入学が決まりました。その後も母親は助産師課程に進むことを希望しましたが、助産師学校が不合格となり、そのことで罵倒された娘は殺害に至ったとされています。
このように子どもの人権を無視して親の希望を過剰に押し付けてしまう状況は、まさに「毒親」と言えるでしょう。
年々増えている「児童虐待相談対応件数」
また、厚生労働省が発表した「児童虐待相談対応件数の動向」によると、令和3年度には速報値として207,660件の対応が行われたことが分かっており、その数は年々増加しています。虐待をしてしまうようないわゆる「毒親」と、それに苦しむ子供の関係は、大きな社会問題となっていることが分かります。
毒親ってどんな親?
明確な定義はありませんが、「毒」と表現されるような悪影響を子どもに及ぼしたり、負担となる親のことを「毒親」と呼ぶことがあります。虐待、ネグレクト、過保護、モンスターペアレントなどが主な例です。この毒親は本人にはその自覚がなく、どのタイプにおいても精神的な未熟さが原因となることが共通しています。具体的に毒親にはどのようなものがあるのでしょうか。
毒親の種類
<子どもを支配する>
子どもの意思を尊重せず思い通りにしようとする「過干渉」。自分の感情で子どもをコントロールしようとします。例えば、一人暮らしをしている自立した子どもに対し、1日に何度も電話やメッセージをしてきたり、子どもの決断に全て口を出し、自分の思い通りにならないと感情的に責め立てるというのも特徴です。
<子どもに依存する>
親自身の自立心が低く、常に孤独への不安を抱えているため、子どもに対して過度に生きがいを感じたり、頼ってしまいます。これにより自分の心のケアや生活の世話を子どもに押し付ける傾向があり、被害者意識が強く、子どもが自分に従わないと泣いたり、脅し行為をするのです。また、子どもに嫉妬するような言動も強く見られます。
<子どもを虐待する>
子どもに精神的、肉体的な暴力をあたえる親です。体罰は当たり前という考えを持っていたり、親自身が子どもの頃に虐待を受けた経験があることが多くあります。また、母親が加害者の場合には、夫からの暴力(DV)を受けているということもあるようで、そのストレスから子どもに虐待をする場合もあります。
<子どもを放置する>
自分自身も毒親育ちのために、心の成長や安定が不十分となり、子どもに対して関心が薄く、放置する「ネグレクト」があります。虐待と同時に起こりがちなネグレクトですが、貧困、親の薬物やアルコールの乱用、精神障害などが要因です。十分な食事を与えない、子どもを無視する、適切な治療や医療行為を受けさせない、学校へ行かせないといったことが多く挙げられます。
虐待加害者の親、7割が過去に自分も”被害者”?毒親が子どもに与える悪影響
例を挙げたように「毒親」は子どもの人生に大きな悪影響を与えてしまいます。理化学研究所が2019年に発表したデータによると、子どもを虐待したとして有罪判決を受けた親25人のうち、72%に当たる18人が子どもの頃に自分たちも身体的虐待や精神的虐待、育児放棄などを受けていたことが分かりました。このデータが示すように、親の子どもに対する言動は子ども自身のパーソナリティの部分に大きな変化をもたらしてしまうと言われています。実際に、毒親のもとで育ってしまった子どもにみられる特徴や悪影響としては、
・自己肯定感が低い
・何かに依存しやすい(酒、ギャンブル、異性など)
・相手の顔色を常に伺ってしまう
・罪悪感を持ちながら生きている
などが挙げられます。
こうした影響が出てしまう人の多くは、社会の中で生きづらく、そのためメンタル疾患を患い、自立して生きていくことが難しくなってしまうのです。
毒親と離れたい子どもはどうすればいい?さまざまな相談先
それでは、毒親を持ってしまった子どもたちはどうやって助けを求めればいいのでしょうか。現在ではさまざまな形で子どもたちを助ける制度やサービスが設けられています。その一例を紹介します。
・行政に相談
よりそいホットライン
よりそいホットラインは誰でも利用できる悩み相談窓口です。身の回りの暮らしにまつわる悩み全般、DV、同性愛、災害で被災された方などをはじめ、外国語での相談窓口も設けています。
児童相談所虐待対応ダイヤル「189」
虐待かもと思った時などに、すぐに児童相談所に通告・相談ができる全国共通の電話番号です。189にかけると近くの児童相談所に繋がります。子どもたちや保護者のSOSの声をいちはやくキャッチするために設置されました。
・各種サービスに相談
チャイルドライン
18歳までの子どものための相談先です。子どもが生きやすい社会になることを目的として、匿名でどんな些細なことからでも電話やチャットで相談することができます。
おとなの親子関係相談所
これまで紹介してきたような毒親とのつらい関係性に悩む人たちの個別相談、毒親脱出サポート、メンタルトレーニングなどのサービスを提供しています。ホームページでは、手軽に受けられる毒親度診断やその場で閲覧できる毒親トラブル解決マニュアルも掲載しています。
・法的措置をとる
親との関係を法的に訴えたい場合には、裁判所に親族関係調整調停を依頼することもできます。まずは、弁護士に相談し、内容証明を送ることから。公的にも親子関係のトラブルを明確にし、解決に向けて話し合うことで、曖昧な結論を防ぐことができるでしょう。
人生において、「親」というものは簡単に切り離せない存在であることは事実ですが、親だからと言って我慢せずに、自分の人生に大きな悪影響を与える存在とは勇気を持って関わりを断つことが望ましいと言えます。何かしら生きづらさを抱えている場合には、一度、自分と親との関係について見つめなおしてみてはいかがでしょうか。