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新内眞衣とSDGsを学ぶニッポン放送「SDGs MAGAZINE」男性学の視点で見るジェンダー平等を実現しよう#前編

新内眞衣とSDGsを学ぶニッポン放送「SDGs MAGAZINE」男性学の視点で見るジェンダー平等を実現しよう#前編

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  • ジェンダー平等を実現しよう

ニッポン放送で毎週日曜日午後2時10分からオンエア中のラジオ番組『SDGs  MAGAZINE』。パーソナリティを務める新内眞衣さんとともにSDGsを学ぶ同番組では、11月27日の放送回で大妻女子大学社会学専攻・田中俊之准教授をゲストに招き、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」を「男性学」の視点で掘り下げた。男性目線で捉えるジェンダー問題とは-。そもそも「男性学」とは-。これまでとは異なる切り口で目標5の本質に迫った。

前回、前々回の放送で目標5「ジェンダー平等を実現しよう」の根本の考え方をキャスター・ジャーナリストの長野智子さんから学んだ新内さん。

新内眞衣とSDGsを学ぶニッポン放送「SDGs MAGAZINE」目標5「ジェンダー平等を実現しよう」を長野智子さんが解説 #前編
新内眞衣とSDGsを学ぶニッポン放送「SDGs MAGAZINE」目標5「ジェンダー平等を実現しよう」を長野智子さんが解説 #後編

今回の放送では、同じく目標5をテーマにしながら“女性目線”ではなく“男性目線”で深掘りするべく、「男性学」研究の第一人者である大妻女子大学の田中俊之准教授をスタジオに招いた。

【田中俊之氏・プロフィール】
大妻女子大学 社会学専攻 准教授
1975年生まれ。2008年博士号(社会学)取得。武蔵大学・学習院大学・東京女子大学等非常勤講師、武蔵大学社会学部助教を経て、2017年より現職。男性学の第一人者として、新聞、雑誌、ラジオ、ネットメディア等で活躍。著書には『男子が10代のうちに考えておきたいこと』、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』など。

新内 「『男性学』研究の第一人者、田中俊之さんです。よろしくお願いします」

田中 「よろしくお願いします」

新内 「まず、先生が研究されている『男性学』というのは、どのような学問なのでしょうか」

田中 「初めて聞く方も多いのではないかなと思いますが、まず『女性学』というものがあります。『女性学』とは、1970年代に和光大学の井上輝子先生がアメリカで『ウィメンズ・スタディーズ(女性研究)』を学んできて、それを『女性学』と翻訳して始まったもので、もう50年くらいの歴史があります。『女性学』というのは、女性が女性だからこそ抱えてしまう悩みや葛藤、これを対象にした学問。やはり女性だと結婚、妊娠、出産が就業継続の壁になるというのが典型的な問題としてある。もちろん、この『女性学』を女性と一緒にやろうという男性もいたのですが、80年代半ばくらいから、男性なら男性だからこそ抱える悩みや葛藤を対象とした学問をやってはどうだろうと生まれたのが『男性学』ということになります」

新内 「具体的に、男性の問題というと、どのようなものがあるのでしょうか」

田中 「日本だと一番は“働き過ぎ”というのが典型的な問題ですね。あとは自殺者が男性の方が多い」

新内 「前回、長野智子さんがいらっしゃったときに、国会議員の皆さんの就業時間がすごく長いという話しをされていましたが、これは全体の問題なのでしょうか」

田中 「そうですね。日本だと、これも同じく80年代半ばくらいから過労死や過労自殺が社会問題化したのですが、中高年男性の働き過ぎって、いまだにあまり改まっていないんですね」

新内 「そうした『男性学』の観点から見て、または田中先生から見て、SDGsそのものや目標5『ジェンダー平等を実現しよう』をどのように捉えているのでしょう」

田中 「SDGsの中にジェンダー平等の達成が入ったので、広く知られるようになったのは良かったなと思います。例えば、高校生でも総合学習の時間にSDGsを学んでいて、その中でジェンダー平等に興味を持つ子も多い。あとは、働き過ぎという問題が典型だとすると、企業の方に関心を持ってもらわないといけないところがあったわけですが、企業の研修でもSDGsに入ったことで扱われる機会が増えてきている。ポジティブな影響は結構あるかなと思います」

新内 「問題提起に一役買っているということなんですね。ただ、1985年に男女雇用機会均等法が成立して、そこから現在にかけて雇用率があまり変わっていない印象もあります」

田中 「そうですね、これは今日の話の一つ核心になると思うんですけど、男女の賃金の格差があまり改まっていないというところは、すごく大きな問題としてあります。それをどう変えていくかというところが非常に大きいですね。この問題は、いろいろなところに関わってきます。例えば、男性の育児参加といいますけど、男性が経済的な大黒柱であるというところはあまり変わっていないので、この問題に男性がどう自覚を持つかというところがあります。しかし、現状では社会構造的に自覚を持ちにくい、やはり仕事中心にならざるを得ないというところがある気はしますね」

新内 「それを解決していく手立てはあるんですか」

田中 「まず賃金格差は今日明日で解決できる問題ではないので、長期的に考えていかなければいけない問題です。一方で、短期的にもできることはあります。例えば、僕には6歳と3歳の子供がいるんですけど、毎日家に5時半に帰るようにしています。子供をお風呂に入れて、ご飯を食べて、歯磨きするところまで一緒にやっているんですけど、そうすると子育ての時間が長くなるので、収入がちょっと減るんです。短期的に収入が減ってでも子育てにコミットする男性がいかに増えるか、みたいなことも重要なのかなと思います」

新内 「難しい問題ではあると思います」

田中 「そうですね」

男性ゆえに抱える問題について考え、社会の諸問題を男性視点で探求する「男性学」。「女性学」の手法や批判を取り入れながら、社会的につくられた“男らしさ”を迫られる存在として男性を描きなおそうという問題関心が、その根底にある。

新内 「そうした視点から、目標5で特に重視すべきターゲットはありますか」

田中 「日本は『政治』と『経済』の分野女性の進出が弱いところがあるので、そこをどうするとかということですね。もう一個は男性側について言えば、男性が家庭とか地域とかに、どう活躍の場をつくれるかというところかなと思います」

さまざまな分野のリーダーが一堂に集まって連携し、世界中の情勢の改善に取り組む国際機関「世界経済フォーラム(WEF)」が公表している「Global Gender Gap Report」(世界男女格差報告書)では、経済、教育、健康、政治の4分野をデータから各国を順位付けしており、今年7月の最新版で日本の総合スコアは146か国中116位、G7で最下位の0.650(0が完全不平等、1が完全平等)だった。特に経済分野、政治分野で121位、139位と低迷している。

田中 「政治と経済というところで女性の進出が非常に遅れているということで、この順位になっています。先ほど国会の話が出ましたけど、国会議員という言葉に性別はないけど、おじさんのイメージがあるじゃないですか。定年退職者という言葉がありますけど、これもおじさんのイメージですよね。言葉が自動的に性別を伴ってしまっている現状がある。これなんかが、やはり日本の現状を象徴しているんじゃないですかね」

新内 「こうした背景にジェンダーバイアスというのがあると聞きましたが・・・」

「ジェンダー」は一般的に「社会的文化的性差」と訳され、「バイアス」は「偏見」。つまり「ジェンダーバイアス」とは、人や社会が無意識のうちに性差や男女の役割について固定的な思い込みや偏見を持つことを指す。男性は仕事、女性は家庭という、いわゆる「男らしさ」「女らしさ」という“刷り込み”が、この「ジェンダーバイアス」を生んでいる。

田中 「『ジェンダーバイアス』とは、ジェンダーに関する思い込みのことです。ジェンダーというと、さっき僕は子育てを頑張っていますみたいな話しをしましたが、今は『男も女も、仕事も家庭も』だよみたいなイメージって、ありますよね。これが良いことだとされますが、ここにも一つ、みんな結婚をするものだというバイアスがある。結婚したらみんな子供を持つものだというバイアスもある。さらに、同性愛者のことが入っていない。異性愛者が結婚をするというジェンダーに関する無意識の認識の偏りが、このイメージにはあるんです。これを『ジェンダーバイアス』というんですね。『男性学』でいうと“平日昼間問題”というのもあります」

新内 「平日昼間・・・?! どういうことでしょう」

田中 「聞いたことないですよね。これは、平日の昼間に学校卒業以降、定年退職前までの男性が街をうろうろしていると、それだけで怪しいと思われてしまうということです。まともな男は平日の昼間は働いているはずだというバイアスがあるんです」

新内 「なるほど! この『ジェンダーバイアス』がもたらす社会への影響というのはあるんですか」

田中 「これは、めちゃめちゃありますね。男の人が車を運転して、女の人が助手席に乗っているって自然な姿ですけど、逆だと違和感を持つ人がいるわけです。運転は男性の役割だというバイアスがあると、運転の上手な女性がバスの運転手さんだったり、タクシーの運転手さんだったりを務めていても、何か違和感を持たれてしまうことがある。あるいは、今うちの子供を預けている保育園にもいますが、男性の保育士さんだと着替えさせるときに心配だとか、そういうことを言う親御さんがいらっしゃる場合もあるんですね。人を2種類に分けるってすごく雑だと思いませんか。2種類に分けて、そこに向き不向きがあるというふうに考えてしまうと、さまざまな場面で弊害が出ますよね」

新内 「そうした中で、『男性学』の講義ではどのようなことを学生に教えるんですか」

田中 「僕は女子大で授業をやっていますが、男性が何で仕事中心の生き方になってしまうのかということですね。男性というのは40年間、定年退職まで働けるという特権があるけど、裏を返すと働かなきゃいけないという抑圧がある。だから、そういうことも考えてほしいなと思いますし、女性の問題と男性の問題はセットなんだよということを理解してほしいなと思っています」

新内 「男性だけのことを教えているのではなく、セットで教えているということなんですね。生徒さんたちのリアクションはいかがですか」

田中 「女子大なので、どうしても女性のことを扱うジェンダーの授業が多かったこともあり、何か斬新なものとして聞いてくれている気がします」

新内 「目標5を達成していくために『男性学』の目線からだと、どういったことをしていく必要があると思いますか」

田中 「この問題って、男性で関心がない方がまず多い。もう一つは関心があるけど、何か上から目線の人が多いんですね。女性が困っているんでしょとか、LGBTQのセクシャルマイノリティの人が困っているんでしょとか。男性が当事者の問題なんだと考えてもらえるといいのかなと思いますね」

新内 「その当事者意識を持つには、どういったことから始めていくのが良いのでしょうか」

田中 「決定的に重要なのは、性別が自分の生き方に影響を与えているという視点を持つことですね。例えば、『男性は何歳まで働きますか』と聞かれても分からないわけですよ。というのも、定年まで働くことを自明視しているから、何の質問かがよく理解できないわけです。ただ、それは男の人だからですよ、ということなんです。女の人だったら結婚、妊娠、出産のような壁、就業の継続が厳しいという局面があるわけです。つまり、仕事中心の生き方をしているということ一つとっても、あなたが男性だからですよということなんですね。この視点を持つことによって、ジェンダー平等の達成というのが自分事化するのかなと思います」

「男性学」の視点で目標5「ジェンダー平等を実現しよう」を見つめた今回の放送を受け、新内さんは「『男性学』というのは初めて触れた言葉だったので、すごく勉強になりました。男性が問題だと思っていないことについて問題提起してくれる方がいるというのは、男性にとってすごく心強いものだろうなと思います。定年まで働くことが当たり前。そうした意識を変えてくださる、問題を提起してくださることで、またとても勉強になりました」と新たに認識を広げ、学び取ったものがあった様子。次回の放送でも、引き続き田中准教授に「男性学」目線による目標5の現状などを解説してもらう。

(後編に続く)


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