新内眞衣とSDGsを学ぶニッポン放送「SDGs MAGAZINE」目標5「ジェンダー平等を実現しよう」を長野智子さんが解説 #後編
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新内眞衣さんがパーソナリティを務めるSDGsを楽しく、分かりやすく学べるニッポン放送のラジオ番組『SDGs MAGAZINE』。11月20日放送では前週に続いて、キャスター・ジャーナリストの長野智子さんをゲストに迎え、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」について学んだ。
誰もが平等に教育や就業などの機会を得て、個々の能力を発揮できる社会の実現を掲げた目標5。前回は長野智子さんに「ジェンダー平等を実現しよう」の本質部分を聞いたが、今回は日本が抱えるジェンダー平等の問題について掘り下げた。
新内 「日本が抱えるジェンダー平等の問題を示すものとして、最近よくジェンダー・ギャップ指数というものを聞くようになったのですが、これはどういったものなのでしょうか」
長野 「経済とか政治、あるいは学術の分野など、さまざまな立場のリーダーが一堂に集まって連携し、世界中の情勢の改善に取り組む国際機関として世界経済フォーラム(WEF)というものがあります。この独立・非営利団体が毎年公開しているものの一つが『ジェンダー・ギャップ指数』なんです。経済、教育、健康、政治。この4つの分野のデータから作成されて、各国を順位付けしていて、これがニュースなどで議論されています」
この世界経済フォーラムが今年7月に公表した「グローバル・ジェンダー・ギャップ・リポート」の2022年版では、日本の総合スコアは0.650(0が完全不平等、1が完全平等)、順位は146か国中116位だった。156か国中120位だった前回と比べて、スコア、順位ともにほぼ横ばいで、先進国の中で最低レベル、アジア諸国の中で韓国や中国、ASEAN諸国より低い結果となった。
新内 「主要7カ国のG7で最下位だったんですね。特に経済分野、政治分野では順位が低く121位、139位。経済分野では収入の男女格差や管理職ポジションについている男女差などのスコアの低さが目立っています」
長野 「この結果を見て新内さん、どのように思いますか」
新内 「私の周りの友達には専門職の子が多くて、美容師の友達とかは副店長とかになっていたりとか、そういうのを聞くと意外と女性も社会進出しているのかなという印象を受けるんです」
長野 「そうですよね。数字だけ見ると、すごく低いなと思うし、何となく生活実感としては女性も活躍しているイメージがある。ただ、決定的なのは政治の世界に女性の国会議員がいない、数が少ないということと、会社の意思決定機関に女性が少ないということです。ある程度までは出世していくのだけど、そこから上にいきづらいというところで、これだけ低くなってしまうんですね」
新内 「一方で、ひそかに教育部門は1位(スコア1.00)なんですね。これはどういうことなんでしょうか」
長野 「そうですね。教育と健康部門(スコア0.973)で日本はすごく良いんですよ。義務教育で皆さん学校に行けるし、国民皆保険で全ての国民が医療にアクセスできる。こういった部分では、日本はものすごく恵まれています」
新内 「でも、全体のスコアだと146カ国中116位になってしまう。そのくらい他の部門で差があるんですね」
長野 「やはり政治と経済で足を引っ張っているというのが現状ですね」
新内 「こうした現状を変えていくのに必要なことは、どのようなことなんでしょう」
長野 「経済と政治で別々のアプローチになると思うのですが、実際問題として、先ほど新内さんも周りの女の子がすごく出世しているというお話をされていたように、少しずつ変わってきているのも事実です。特に外国と取引をする会社なんかは、ここを変えていかないと投資をしてもらえない。本当に、そうしていかないと低評価になってしまうので、変えざるを得なくなってきています。SDGsもそうだし、ジェンダー・ギャップも埋めていかないと、と。そして、ものすごく変えているところの一つの例として、大手商社の丸紅があります」
丸紅は、2021年1月に「新卒採用の女性総合職比率を現状の20~30%から、3年以内に40~50%程度にする」と発表。ニュースなどでも大きな話題となった。特に商社というと、海外への転勤やハードワークを強いられる「男社会」のイメージが強く、実際に当時の丸紅の総合職の女性比率は約10%だったという。
長野 「商社が数値目標を出すというのは私、画期的だなと思ったの。丸紅の社長は柿木真澄さんという男性の方なのですが、以前インタビューをしたんです。『何で、こういう決定をしたのですか』って。その時に彼が言ったのが、今商社がやっているビジネスは10年後にはなくなるということでした」
新内 「えっ! そうなんですか」
長野 「それくらい時代は変わっている。もっともっとビジネスチャンスを広げるために多様性を会社に持たないと、どの分野にもリーチできなくなってくる。同質性の、同じような発想の、同じ価値観の男性だけでやっていても駄目だというわけです。柿木さんがそれを本当に痛感したのが、数年前にフェムテック(女性Femaleと技術Technologyを組み合わせた造語。女性が抱える「生理・月経」「妊活」「妊娠期・産後」「プレ更年期・更年期」といった健康の課題をテクノロジーで解決するツール・製品)の市場が広がった時。女性の社員にアイデアをもらって、こういうのがあるんだと思っていたら、瞬く間に5兆円市場に膨れ上がった。それを丸紅の幹部社員として見ていた時に、これだと思った、男性だけだったらフェムテック市場に乗り出すことはしなかった、と」
丸紅は、カラダメディカ、エムティーアイの両社と2021年7月に業務提携し、働く女性の健康課題改善をサポートする法人向けフェムテックサービスの開発・提供を行うなど、その分野に進出。同サービスは、経済産業省による令和3年度「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」に採択されるなど注目され、今年6月には、その3社で新会社「LIFEM(ライフェム)」を設立した。
長野 「これって政治も一緒だと思うんです。衆議院の9割は男性議員だという話しを前回の放送でしましたが、これだけ多様化した価値観の中で、多くの国民のニーズに応える政策が同質的な9割の男性でできますかということになると、なかなか難しいと私は思います。国会も、いろいろな人がもっと参加できるようにしたらいいのではないかなと思うんですよね」
新内 「そうですね。ただ、そうした数値目標というのは、“数字合わせ”になってしまったりはしないんですか」
長野 「いい質問ですね! 女性に下駄を履かせるのかとか、いろいろな批判が確かにあります。 柿木さんにも『反対はなかったのですか』という質問をしました。すると『今まで男性が下駄を履いてきましたよね。私がやるのは女性に下駄を履かせるのではなくて、環境をフェアに整えることです』とおっしゃっていました」
新内 「すてき」
長野 「確かに商社では意図的に男性社員を多く採用してきたというのがある。女性社員は子育てをすると辞めてしまうとか転勤を嫌がるとか、やはり男性の方が長くいると。ただ、それも柿木さんによると、時代の流れの中で男性・夫が仕事を辞めて女性の転勤についていくというケースが増えてきたのだそうです。すごく若い人たちの生き方が自由になっているのを見て、もうこれは変え時だと思ったそうですよ。こういう話をすると、女性の中でも『そんなに女性の国会議員を増やすのは嫌だな』と言う方がいっぱいいます。ただ、私は個人のやりたい生き方で生きられるのが理想的な社会で、問題なのは女性という属性のためにやりたいことへのハードルをすごく上げられてしまっている人がたくさんいるということ。そこをフェアにしようということです。結婚して子供を産んで専業主婦を全うしたいという人はそれで良いし、キャリアを伸ばしたい人はそれを自由にできる。能力をフェアに評価してもらえるような、そういう時代じゃないかなって思います」
新内 「なるほど、そして何より議会のジェンダー問題もありますよね」
長野 「ここですね。たぶん一番の難関」
新内 「難関なんですね・・・。衆議院465人を対象に無記名で行われた議会のジェンダー配慮への評価に対するアンケートの調査結果が6月に発表され『現在、女性国会議員は十分と考えるか』という質問に対して、82.7%の議員が『不十分』『どちらかといえば不十分』と答えているようなんですけれども、女性議員を増やすことが男性議員との“椅子取りゲーム”とだけ捉えられて本質的な議論にならなかったりということもあるのでしょうか」
長野 「実際、男性議員との“椅子取りゲーム”なんですよね、国会議員は。これが熾烈なんです。定数があるから、女性の候補を入れれば議席を失う男性議員もいるかもしれないし、やっぱり皆さん女性活躍とか政策では出てくるのだけど、何で女性の国会議員を増やしたら社会にとって、国民にとっていいのかという議論が全くされていない」
新内 「それこそ数字だけを見てしまっている感じがあるということですか」
長野 「そうそう。今ブームだし、SDGsとかいわれているし、ジェンダー・ギャップとか言われているし、増やさなければいけないのかな的な空気が流れていて、それを自覚している党員の方がいっぱいいらっしゃるから、こういうアンケート結果になっていると思うんです。でも、本当に女性を増やしたら日本にとっていいのかという議論が全く進まないので、最終的にはいつまでたっても“椅子取りゲーム”で止まってしまっているということですね」
新内 「参議院だと女性議員の比率は25%以上ということを前回の放送で教えていただきましたが、その差が生まれる理由は何なんですか」
長野 「それは選挙制度です。中選挙区とか比例とかで、参議院は女性候補を増やしていきやすいんです。ただ、衆議院で採用している小選挙区の制度とは、とっても相性が悪いんです。でも、やろうと思えばできる。これはもうトップ、リーダー次第です。もし、リーダーが本気になれば、衆議院であっても例えば比例で女性候補をたくさん入れたところに政党助成金を増やしましょうとか、インセンティブを与えるみたいな状況でできないことはない」
新内 「そういうことを議論する場が少ないとおっしゃられていたじゃないですか。でも、こうしたことを私たちが知るにはメディアも大事だと思うんです」
長野 「ぶっちゃけて言ってしまうと、メディアの人、この問題にあまり興味がないですよね。具体的に言えば、私が超党派の女性の国会議員とクォータ制(議員や会社役員に一定数の女性を確保したい際などに、あらかじめ割り当てを行う取り組み)を実現するためにどうしたらいいんだろうという勉強会を月に1回やっているんですけど、やっぱり取材にいらっしゃる方は女性の記者さんばかり。なかなか男性の記者の方にはいらっしゃっていただけない。日本ってジェンダーの問題がジェンダーに押し込められてしまい、女性のそういう話は女性の中でしているものになってしまって、そこに男性が入りづらくなってくるというか、関心がないというか、目を向けてくれなくなってしまうんですよね」
ただ、長野さんは「実際問題、これって女性だけの問題じゃない」とジェンダー平等にとどまらない課題であることを強調する。
長野 「例えば、この間SNSで24時間働けますかみたいなマッチョな働き方は時代遅れだし、デジタルも進まないというような話しをした時に、新聞記者の方で障害を持つお子さんを育てていらっしゃるお父さんが『僕は24時間仕事に割けないことに後ろめたさを感じていました』と言うんです。男性でそういう環境にいらっしゃる方、周りの男性みたいにたくさんの時間を仕事に割けない方もいっぱいいるわけです。そういう方々は、逆に後ろめたさを感じて生きていると。これってどうなのと私は思っていて、そういう当事者になる男性はすごくこうした動きに前向きに取り組まれるんですね。恐らく、この話はいろいろな環境で生きている人たちが、どうやったらもっと生きやすくなるんだろう、より多くの人が生きやすい社会にするにはどうすれば良いんだろうということだと私は思っています」
新内 「なるほど。すごくもどかしいですね」
長野 「でも、後退はしていなくて、少しずつ少しずつ進んでいます。ただ、周りの国がすごく進むから、いつまでたってもそのスピードに追い付けないで相対的に低くなってしまう。必ずしも日本は後退しているわけではなくて、それでも少しは前に進んでいるんです」
新内 「みんながより良く生活できる環境を整えることに目を向けること、伝えていくことはやはり大事だなと思いました」
長野 「そう思っていただけて、良かったです」
そして、番組の最後に新内さんは、SDGsの目標年である2030年の「未来に向けた提言」を長野さんに求めた。
長野 「やっぱり、投票に行くこと。私たちにできること、変えることとなると、投票でしか変えられない。今日のお話を聞いて、ちょっと関心を持ったら、そういうことに関心を持っている候補者の方に票を入れてみるとか。しばらく国の選挙は予定されていないのですけど、来年には統一地方選挙というのもあります。例えば、そこでちょっとこの問題を軸にどんな候補がどういうことを言っているんだろうと見て、いいなと思ったら入れてみるとか。それは多分、(現状を変えるために)できることだと思います」
長野さんと目標5「ジェンダー平等を実現しよう」にまつわる本質、日本が抱える課題などを2週にわたって掘り下げてきた新内さんは「長野さんと放送の後にも少しお話しをさせていただいたのですが、『凝り固まらずに柔軟に考えることが大事だよ』と言ってくださったりとか、本当に素敵な方でした」と感銘を受けた様子。「みんながより良い暮らしをするために言っていかなきゃいけないということが大前提にあるので、私も意識を変えて、ジェンダーの問題についてもいろいろ調べていこうと思います」と未来を見据え言葉に力を込めた。