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【イベントレポート】声を上げられない子供達のトラウマに気がつくために、教師は何ができるのか?


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10 人や国の不平等をなくそう 16 平和と公正をすべての人に
【イベントレポート】声を上げられない子供達のトラウマに気がつくために、教師は何ができるのか?

1月31日に科学技術振興機構 社会技術研究開発センター(RISTEX)はオンラインイベント「子どもの“傷つき”にどう気づく?〜二次被害を生まないために私たちができること」を開催しました。司会は作家の石井光太氏、ゲストには武庫川女子大学・大岡由佳准教授、理化学研究所・仲真紀子理事がいらっしゃいました。

左から作家・石井光太氏、武庫川女子大学・大岡由佳准教授、理化学研究所・仲真紀子理事

子どもの傷つき、トラウマにはどのようなものがあるのか

本イベントは子どもの傷つきがテーマです。子どもが抱えるトラウマにはどのようなものがあるのでしょうか?

子どもの場合はさまざまな出来事がトラウマになりえます。たとえば虐待、DVの目撃、学校でのいじめなどです。そしてトラウマが要因となり、自分を表現できなくなる、学校に行けなくなるといった形で雪だるま式に影響は拡大し、大人になっても影響を及ぼすとのこと。

そのような子どものトラウマ、傷つきにいち早く気がつくことで、この影響の連鎖を止められるかもしれない。それをできるのが教育の現場ではないか、というのが今回のテーマです。教育現場で子どもの人生に影響を与えうるトラウマ、傷つきに大人はどのように気づき、接していけば良いのでしょうか?


石井光太氏:日本のノンフィクション作家、小説家。『絶対貧困』『ぼくたちはなぜ、学校に行くのか。』など著作多数。RISTEXではアドバイザーとして研究開発プロジェクトをサポートしている。

大岡由佳准教授:2010年より武庫川女子大学に着任。これまで『犯罪被害を受けた子どものための支援ガイド』の監訳などを行う。RISTEXでは「トラウマへの気づきを高める“人‐地域‐社会”によるケアシステムの構築」をテーマに取り組みを行う。

仲真紀子理事:理化学研究所 理事/立命館大学 OIC総合研究所 招聘研究教授/北海道大学名誉教授。2008年から司法面接支援室を設置し、司法面接の研究、プログラム開発を行ってきた。RISTEXでは「多専門連携による司法面接の実施を促進する研修プログラムの開発と実装」をテーマに取り組みを行う。

学校の先生がトラウマを抱える子どもと接していく方法

参加者への事前アンケートによると、気になる子どもに話しかけても「何もありません」「大丈夫です」と答えられてしまうことも多いそうです。そのような時には時間をおいてあらためて声をかけるという選択を取る方もいらっしゃいました。

これに関して大岡由佳准教授は「クールダウンしてから話すのは大切」だと指摘しています。なぜならトラウマのある子どもには「3つのF」という反応が見られるからです。3つのFとは「たたかう(Fight)」「逃げる(Flight)」「こおる(Freeze)」のこと。この「3つのF」が働いている時に子どもは自分の状況を話すことができないことが多いそうです。だからこそ先生方の待つ姿勢が重要になります。

ただし先生は授業を教えるだけでなく、放課後の部活など多くの業務に追われています。激務の中で子どもの違和感に気がついても、なかなか一人ひとり丁寧に対応できないのも現状です。

忙しい教員はどのように接していけば良いのか?これに対して仲真紀子理事は話しやすい関係性を築くことが重要だと語ります。1日だけでなく、毎日のように「今日は寒いね」など些細なことでも会話を続けていくことが信頼につながるとのことです。

学校だけでなく地域と連携して何ができるのか?

続いて教師個人単位ではなく、学校、そして地域全体でどのような体制を作っていけるのかがテーマになりました。学校で違和感のある子どもに声をかけられる体制があるとアンケートで答えた教員は250名におよび、日々情報交換をして子どもの異変を発見しようという体制が見えてきます。

ただし学校だけでは対応できない問題や、児童相談所などの外部組織と連携することでより最適な対応をとることもできます。仲真紀子理事によると、子どもの虐待に関する通告が学校からあれば、児童相談所の職員は子どもと接触するなどし、学校、警察とも連携をとれるそうです。

児童相談所だけでなく、地域全体のコミュニティなども重要です。大岡由佳准教授はTICC(トラウマインフォームドケアコミュニティ)という仕組みを作っています。トラウマについて理解する人が増えていくと、いろいろな人の背景を想像でき、それにより共感の輪が広がっていくとのことです。

また仲真紀子理事は「司法面接」と呼ばれる、被害にあったとされる子どもから心理的負担をかけずに事実を聴取する方法の活用を進めてきました。トラウマの原因というのは虐待など大きなものから、他の人から見ると一見些細なものまでさまざま。こうすれば聞き出せるというパターンがあるというよりも、どのような子供に対しても、大人は聞き役になり、ゆっくりと、間をとって、自分の言葉で話てもらうことが大事だということです。

最後に学校の先生に向けて一言として、大岡由佳准教授も仲真紀子理事も、先生が犠牲になるのではなく、先生をサポートしていく学校、地域でのサポートが大事だとまとめました。また、質疑応答の中では、子ども同士のピアサポートの可能性に言及し、多様な形で子どもたちが希望を持てる社会づくりが大切だと強調しました。

今回のセミナーに関係して、教師や子どもに関係する方向けに、資料や動画なども公式サイトで公開されています。合わせてご活用ください。

子どもの”傷つき”にどう気づき、対応するか?イベント開催・動画公開より