剛力彩芽と学ぶSDGsのゴール11「住み続けられるまちづくり」とは
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持続可能な開発目標「SDGs(エスディージーズ)」を学べるニッポン放送の特別番組『SDGs MAGAZINE』の第9回が12月4日に放送された。今回のテーマはSDGsのゴール11に掲げられている「住み続けられるまちづくりを」。女優、剛力彩芽さんが、「ミスターSDGs」ことSDGs研究の第一人者、慶応義塾大学大学院政策メディア研究科の蟹江憲史教授とともに、具体的な事例を交えて深掘りした。
ニッポン放送の特別番組「SDGs MAGAZINE」。今回は毎年12月24日から25日にかけて放送され、1975年からの長い歴史を持つチャリティー番組『ラジオ・チャリティ・ミュージックソン』を踏まえ、SDGsが掲げる11番目のゴール「住み続けられるまちづくりを」にスポットが当てられた。
『ラジオ・チャリティ・ミュージックソン』では、目の不自由な人が安心して街を歩けるようにと「音の出る信号機」を集まった浄財(募金)により、全国各地3245基を設置してきた。実に首都圏の2割の「音の出る信号機」はミュージックソンの浄財でつくられたものだという。これも、まさにSDGs、中でもゴール11につながる取り組み。これら剛力さんの説明を受け、まず蟹江教授は改めてゴール11「住み続けられるまちづくりを」の基本を解説した。
「みんなが住む街に、いつまでも住み続けられるようにするということなんですけど、大都会だと人が集まり密集し過ぎて生活しにくくなったり、逆に地方だと人がいなくなってしまって中には消滅都市といわれたりするところもある。どちらも持続可能ではありませんよね。それらを、うまくバランスを保って住み続けられるようにするということです。一つのところに集中し過ぎるといろいろな負荷がかかりますし、閑散とし過ぎると荒れ地になってしまったり、税金の収入がなくなってサービスを受けられなくなったりとか。やはり、うまくバランスを取ってならしていくことが大事なんです」
このゴールについて、日本は「適度に改善している」と達成率が一定を評価を受けており、「2030年までに目標達成するために必要なペースは下回っているが、必要なペースの50%は超えている」状況とされているという。
「日本は東京への一極集中が進んでいるので、何とかしないといけない。その影響でペースを上げているのだと思います」と説明する蟹江教授が、そのために必要となる地方創生を目指す上で目立つ日本の動きとして挙げたのが「SDGs未来都市」というスキーム。内閣府地方創生推進室が、SDGsの達成に取り組んでいる都市を選定する制度のことで「90都市が手を挙げています。村から県のレベルまで、北海道から沖縄まで、いろいろあるんです」。特に先導的な「自治体SDGsモデル事業」に選定されると、最大4000万円の補助金も交付される。
続けて、剛力さんは 「ゴール11の未達成によって起きる問題点」について質問。すると、蟹江教授は 「日本でいうと地方が消滅都市になってしまうこと。税収がなくなれば、医療や福祉のサービスを受けられないとか、バスがなくなってしまうとか、いろいろ大変な問題が起こる。都会では人がいっぱいになって満員電車がさらに満員になる。(ゴール11は)やらないでいると集中と閑散。極端な形になってしまうということです」と具体例を交えて解説。「一方で、コロナ禍でだいぶ人の考えが変わってきたので、都会に会社がありながら地方で仕事をすることができるようになってきている。これは、変わっていくチャンスかなと思います」という蟹江教授に、剛力さんも「ある意味、新しい方向に進んでいく可能性がありますね」とうなずいた。
このゴール11には具体的なターゲットとして「11.1~7」「11.a~c」が定められているが、「11.b」には以下の文言がある
「2020年までに、包含、資源効率、気候変動の緩和と適応、災害に対する強靱さ(レジリエン ス)を目指す総合的政策及び計画を導入・実施した都市及び人間居住地の件数を大幅に増加させ、仙台防災枠組2015-2030に沿って、あらゆるレベルでの総合的な災害リスク管理の策定と実施を行う」
剛力 「この仙台防災枠組・・・というのは何ですか?」
蟹江 「2015年にできた国際的な防災の枠組なんですけど、この2015年は、いろいろな枠組ができた“当たり年”なんです。この『仙台防災枠組』は、東日本大震災があって、その後に防災の世界的な会議(第3回国連防災世界会議)を仙台でやったんです。それが3月。6月には国際的な開発、経済発展とかをどう支援するかという金融の会議があって、9月にSDGsがあって、12月にはパリ協定で温暖化対策が決まりました。いろいろあった2015年の“トップバッター”がこちらですね」
剛力 「具体的には?」
蟹江 「防災のリスクにどうやって対応すればいいかとか。日本は東日本大震災で地震や津波などいろいろあったので、そういうものに社会が強くならなくてはいけない。災害は来ないのが一番いいが、来てしまう。来てしまった時に、そこからどうやって早く立ち直るかが大切なんですね。自身とか津波とか、今のコロナもそう。そこからいかに早く立ち直っていくか。それは『レジリエンス』という言葉でいわれるのですが、それを考えたのが仙台防災枠組です」
この「仙台防災枠組2015-2030」には、4つの優先行動と7つのターゲットが定められている。
【4つの優先行動】
1.災害リスクの理解
2.災害リスク管理のための災害リスクガバナンスの強化
3.レジリエンスのための災害リスク軽減への投資
4.効果的な対応のための災害準備の強化と回復・復旧・復興に向けた「より良い復興」
【7つのターゲット】
1.2030年までに地球規模での災害死者数を実質的に減らす。2005年から2015年までと比べ、2020年から2030年には10万人当たりの死者の減少を目指す。
2.2030年までに地球規模での災害による被害を受ける人々の数を減らす。2005年から2015年までと比べて、2020年から2030年には10万人当たりの被害者数の減少を目指す。3.2030年までに地球規模でのGDP(国内総生産)に関連し、災害を直接の原因とする経済的損失を減らす。
4.2030年までに、保健や教育施設など重要なインフラへ損害や基本的サービスの破壊を、レジリエンス(回復力・強靭性)の開発を通じて、実質的に減らす。
5.2020年までに国レベルおよび地方自治体レベルにおいて、災害リスク軽減戦略を策定する国を実質的に増やす。
6.2030年までに本枠組の実施に向けた国レベルの活動を補完するために、発展途上国への十分で持続可能な支援を通じた国際協力を実質的に強化する。
7.2030年までに人々による多様な災害への早期警戒システムと災害リスク情報および評価の入手やアクセスを実質的に増やす。
蟹江 「今のコロナでいうと分かりやすいのですが、元の社会に戻すのではなく、どうせならより良くしていきましょうということです。テレワークを導入すると地方に人が住みやすくなるし、仕事と遊びの組み合わせもしやすくなる。よりよく戻していきましょうということですね。レジリエンスは日本語に訳すと強靭とかになりますが、強いだけではなく、うまく反発力を高める。何かがあった時に、そこから戻る力をしっかりするということですね」
剛力 「東日本大震災の後、2015年につくられたものが、今のコロナ禍にもつながっているということですね」
蟹江 「仙台という日本の地名が世界的な言葉になっているんです。日本は災害大国といわれますが、日本だけじゃなく世界のどこでも災害が起こり得るようになっている中で、一つの国際的な指針となっているのが仙台防災枠組ということですね」
剛力 「日本にいるからこそ知っておきたいものですね」
蟹江 「そうですね。日本が世界に誇る枠組の一つなので」
剛力 「ちなみにターゲットの中にあるabcって何ですか」
蟹江 「よく気づきましたね。11の場合はターゲットが1から7まであるんですけど、これは全世界で普遍的に大事なところ。aからcは特に発展途上国でどうやってSDGsを実施していくかに焦点を当てた目標なんです。だかといって、途上国だけに当てはまるものではないんですけど、途上国はいろいろなサポートが必要なんです。そのサポートがaからcに書かれている。簡単に言ってしまえば、どうやって実施すればいいのか強調して書かれているのが“abcシリーズと”いうことです」
剛力 「なるほど。より意識してみていけそうです」
一通りSDGsのゴール11の文言、考え方について解説を終えたところで、次に話題となったのがゴール11実現に向けた具体的な事例だ。まず紹介されたのが『Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)』。神奈川県藤沢市にうまれた先進的な取り組みを進めるパートナー企業と藤沢市による官民一体の共同プロジェクトで、2014年末にグランドオープン。約19ヘクタール(東京ドーム4個分)の敷地に計画的に整備された約560戸の戸建て住宅が集まっており、新たな街づくりのあり方として注目されている。
剛力 「私、神奈川県出身なんですけど知らなかったですね」
蟹江 「ある企業の工場があったところを再生しているんです」
剛力 「2014年末にグランドオープン」
蟹江 「歴史があるんです」
「Fujisawa SST」では、全ての住宅に太陽電池や蓄電池、スマート分電盤が備えつけてあり、リビングのテレビで発電量やCO2削減量の確認、街や住民主導で行なう催しの情報を知ることができるなど、新しいサービス・技術を取り入れることでサスティナブル(持続的)に街を発展させていく仕組みとなっている。
蟹江 「未来の街みたいな感じですよね」
剛力 「楽しそう!」
蟹江 「太陽電池もついていて、余った電気をお隣さんに融通したり、電力会社に売ったりする仕組みもあるんです」
剛力 「見えるからこそ、今月使いすぎちゃったなという感覚にもなりそうですね」
蟹江 「そうなんですよ。実は我が家も“SDGsハウス”ということで3年くらいかけて設計士の人と相談しながらSDGsを目指す家にしたんです。今このくらい発電していますとかを見られると、改めてここにたくさんの電力を使っているんだなということが分かって、自分の行動が変わるのが実感できますね。見える化するというのは、とても大事なことです。私のところで働いている人で、まさに『Fujisawa SST』に住んでいる人がいるのですが、話を聞くと良いコミュニティーができているみたいで楽しそうですね」
剛力 「そういうのって、なかなか東京の方に来るとないですからね」
次に、もう一つの事例として紹介されたのが「ダイアログ・イン・サイレンス」。音や声を出さず、表情やボディランゲージで言語や文化の壁を超えた対話を90分間楽しむ、新しいエンターテインメントで、1998年にドイツで開催されて以降、これまで世界で100万人以上が体験している。日本でも2017年に初開催され約1万人が参加。この冬も12月1日から25日まで期間限定で開催(東京・竹芝「ダイアログ・ミュージアム『対話の森』)が決定しており、コロナ禍でのマスク生活で求められるコミュニケーションのヒントが体感できると注目されている。
蟹江 「うちの小学生の息子も、給食の時に『しゃべるな』と言われるみたいで、そうすると仲の良い友達とサインを出して、ボディランゲージで会話していると言っていました。そういうところは大人も忘れがちですよね」
剛力 「マスクをしていて、笑っているけど笑っていると伝わっているのかなと思う瞬間って結構あります」
蟹江 「目で笑う方法を考えますね」
「ダイアログ・イン・サイレンス」は、聴覚に障害のある人がアテンド役を務めるのも特徴。音を遮断するヘッドセットを装着し、静寂の中で、集中力、観察力、表現力を高め、ボディランゲージなど、音や声を出さずコミュニケーションを取っていく。冒頭の「音の出る信号機」が視覚に障害のある人のために「住み続けられるまちづくり」につながる取り組みなら、こちらは聴覚に障害を持つ人の立場になって考えるきっかけになるイベントともいえる。
「多様性ですよね。相手の立場にならないと、なかなか分からないじゃないですか。ブラックライブズマター(黒人男性が白人の警察官に首を圧迫されて死亡した事件を受け、全米に広がった抗議デモで人々が訴えたスローガン)も同じで、その人の立場になってみると分からないことが見えてくる。こういう取り組みは世の中が多様になるために大事だなと思いますね」と蟹江教授。SDGsのゴール11「住み続けられるまちづくり」は、まさに「多様性」を理解するところから始まるものでもあるといえそうだ。