海に浮かぶ病院?災害時に船舶を活用した新たな救急手段のアプローチ
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地震、津波、豪雨水害、台風被害、火災被害など、日本ではさまざまな自然災害がこれまで多く発生してきました。被災現場で求められてきたのは陸路を使った物資と医療の供給スピードです。しかし、今後大災害が発生することにより、道路が寸断されるような事態になった時に物資や医療の供給は全て滞ってしまいます。
SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」では、誰もが安心して暮らせる街づくりを目標としています。具体的にはターゲット11-bに「2020年までに、だれも取り残さず、資源を効率的に使い、気候変動への対策や災害への備えをすすめる総合的な政策や計画をつくり、実施する都市やまちの数を大きく増やす。「仙台防災枠組2015-2030」にしたがって、あらゆるレベルで災害のリスクの管理について定め、実施する。」と定められています。
オリンピックを目前に控えた今、災害大国であり海洋国でもある日本が災害対応のレベルを高めるために必要な社会インフラとして、四方を海に囲まれた日本列島の性質を存分に利用できる船舶を活用した医療提供の話が進んでいます。
そもそも病院船ってなに?
病院船とはその名の通り船に医療設備が付いた”動く病院”です。
海外では中国にロシア、アメリカ、ベトナムなど多くの国が病院船を所有しています。
2018年6月16日に東京港大井水産物埠頭に初めて訪れた世界最大の病院船「マーシー」は米海軍に所属しています。
マーシーはアメリカの法律に基づく病院設置基準を満たし、認可された「航行浮遊式の医療施設」(病院の機能を第一優先に担う船)です。
日本では現行の法律でマーシーのような船(住所を持たないもの)は病院とは認められておらず、船で病院と同様な医療行為を行うことはできません。
そのため、まずは、この法律を改めないと日本での病院の存在は不可能になります。
病院船普及へ向けた取り組み
「公益社団法人モバイル・ホスピタル・インターナショナル」(以下MHI)は、2011年の東日本大震災後の設立以来、現在までの約10年間日本に病院船を普及するために、医療業界、ビジネス業界、政界を巻き込みながら活動を続けている団体です。
そして今年、MHIは東京オリンピック・パラリンピックの競技会場14箇所が集中するベイエリアにおける大型イベント時の緊急事態に備え、陸上搬送に限らず海からもアプローチできる救急艇による多様な搬送手段を用いることが、道路に偏らない救急搬送の一つになると提案してきました。
この提案により東京消防庁と「船舶を用いた患者搬送の協定」を締結し、東京オリンピック・パラリンピック期間中(2021年7月23日〜2021年9月5日)、交通渋滞等により陸上救急が困難になった際に、救急搬送が必要な患者を、ベイエリアの競技会場から昭和大学江東豊洲病院へ搬送します。
また、協力体制として救急艇社会実装協議会が設立され、日本医科大学、帝京大学、杏林大学、昭和大学等医学部と日本体育大学院、国士舘大学大学院などの医師や救命士がボランティアとして救急艇に日々乗り込み、海上搬送技術の向上に貢献していきます。
さらに、今回のMHIの活動の趣旨に賛同したファーストリテイリングより、救急艇医療スタッフのユニフォームとしてユニクロのウェア約100着を提供する発表会が先日開催されました。
提供されるウェアは大会開催期間中が猛暑であることを考慮して、海上での活動において機能性の高いUVカット機能、救助活動における汗の速乾性、着衣の心地よさ、さらにMHIのロゴが入った特別ユニフォームとなっています。
災害時に道路が使えない状態となり、これまでだと助けることができなかった命も、病院船の普及によって救うことができるかもしれません。
執筆:国士舘大学 文学部 大橋 一真
編集:SDGs MAGAZINE