社会的孤立・孤独を予防する。SDGsの観点から考える、RISTEXの持続可能な仕組みづくり
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新型コロナウイルス感染症の流行から早1年以上。コロナ禍が長引くにつれ、社会的孤立や孤独がニュースでも取り上げられるようになりました。外出を控え、他人との接触を極力避けなければならない未曽有の状況は、これまで孤立とは無縁と思われてきた人々にまでその影響を及ぼしています。
国立研究開発法人 科学技術振興機構(以下、JST)の一つの部門である、社会技術研究開発センター(以下、RISTEX)では、社会的孤立や孤独の“予防”という観点からの研究開発支援プログラム(以下、社会的孤立枠)を進めています。
今回は、このプログラムがSDGsの目標の1つである「すべての人に健康と福祉を」のうち、「全ての国々、特に開発途上国の国家・世界規模な健康危険因子の早期警告、危険因子緩和及び危険因子管理のための能力を強化する」という課題の解決にもつながる可能性があるのではと考え、RISTEXの東出さん、井上さん、木谷さんの3名に、コロナ禍における社会的孤立・孤独の実情や、SDGsの観点から見た研究開発の内容について詳しくお話を伺いました。
コロナ禍で浮き彫りになった社会的孤立・孤独
―はじめに、RISTEXの主な活動内容について教えてください。
東出さん:RISTEXは、社会問題(環境問題、少子高齢化、病気や貧困など)を解決するための研究開発への支援(ファンディング)を実施しています。RISTEXでは現在6種類ほどの研究開発領域やプログラムを展開しています。私たちは、各研究開発領域やプログラムの推進、調整などのサポートに加え、専門家の先生との調整や広報的な活動も行っています。
JSTでは、主にテクノロジーや最先端のサイエンス、自然科学の推進、大学の事業化をメインとした事業を行っています。対して私たちRISTEXでは、この先日本が直面していくであろう社会的孤立・孤独などの大きな社会課題に、自然科学だけでなく人文・社会科学の側面からも研究開発を進め、社会の多様な人たちと共に研究開発成果を社会に実装していくことを支援しています。
―今回立ち上げられたプログラムは、SDGsの観点から社会課題を解決するプログラムだと伺いました。発足のきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
木谷さん:RISTEXが取り上げる社会課題は、社会問題の俯瞰調査や専門家の方々へのヒアリングをもとに決めています。今回取り上げた「社会的孤立・孤独」も数年前から検討しており、SDGsの重要な観点の一つであることから、2019年度に開始した「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(SOLVE for SDGs)」の下で特別枠として設定しました。コロナ禍となったことで、その課題がさらに浮き彫りになってきました。
―以前から社会課題となっていた社会的孤立・孤独が、コロナ禍でより顕著になってきているということですね。実情を詳しく教えてください。
井上さん:新型コロナウイルス感染症流行による外出制限などによって、一人で住んでいる高齢者や、仕事を失った方の社会的孤立・孤独は顕著になってきています。令和2年6月に行った社会課題に関する世間の意識調査では、高齢化にはじまり、少子化、過疎化、未婚化、晩婚化、所得格差、貧困といった課題を肌で感じているということがわかりました。これらはどれも社会的孤立・孤独のきっかけとなりうる課題です。
また、コロナ禍ではこれまでそのような問題とは無関係だと思われていた人々にもその影響が出始めています。例えば、地方から上京した大学生は、リモート授業になったことで友達を作れない孤独感や、アルバイトに就けないことでの貧困の問題が出てきています。さらに、ひとり親世帯の孤立や、就職に不利な状況下にいる若者たちの自殺率の上昇も見られるのが現状です。
“不可視性”が大きな課題
―「SOLVE for SDGs」における社会的孤立枠とは、具体的にどのようなプログラムなのでしょうか。
東出さん:このプログラムでは、社会的孤立や孤独のメカニズムを解明し、社会的孤立・孤独を生まない新たな社会像を描出します。また、その状況が生まれやすいリスクを可視化するための評価手法を作り、実際の組織や地域で概念実証を行います。
私たちが社会的孤立・孤独の社会課題を解決するために大切だと考えているのは “予防”です。すでに起きている問題を解決することも大切ですが、社会的孤立・孤独を生まないための持続可能な世の中を作るためには、その当事者にならない仕組みづくりが重要なのです。
木谷さん:この社会課題の解決が難しい理由のひとつに、 見えにくいこと=“不可視性”があります。個人間の関わりが希薄化してきている昨今、コロナ禍の状況も相まって、身近な人がその状況に陥っていることに気づきにくくなっています。
さらに、その渦中に陥っている本人が孤立・孤独に気が付いていない場合もあります。そのためにも孤立状態を可視化するための評価手法を作り、それに基づいて望まない孤立を予防していければと思います。だからこそ私たちは、人文・社会科学の知見も使ってこの社会課題を噛み砕き、「社会的孤立・孤独とは何か」という、より根本的な部分を掘り下げていくことも重視しています。
社会課題の“予防”が持続可能な仕組みを作る
―これから先、社会的孤立枠というプログラムを推進していくにあたり、担当者個人としては、どのような未来を実現していきたいと思っているのでしょうか?
東出さん:これから概念実証を行う施設やコミュニティでは、“予防”というプログラムのゴールに向けて、私たちの支援が終わった後も持続的にプロジェクトの成果を実装していけるような仕組みづくりを目指しています。
井上さん:意識しなくても近所の方と顔見知りになれたり、自然と交流が生まれるような設計の孤立しにくい街づくりだったり、一人でいても孤独を感じにくく、誰かといても生活しやすいコミュニティづくりなど、環境の在り方も大事だと感じます。寛容な社会、いろんな生き方があっていいという考え方が普及した社会に少しでも近づけばいいなと思います。
木谷さん:社会的孤立・孤独を人々が理解し、考え方が変われば、コミュニティの在り方などの環境も変わってくるはずです。社会的孤立・孤独を自己責任論で片付けてはいけないと思います。
この社会的孤立枠におけるプロジェクト支援を通して、社会的孤立・孤独とは無縁だと思っていた人たちにも訴えかけ、周りが気づいて手を差し伸べたり、当事者がSOSを出せたりするような、孤独を感じにくい社会になっていけばいいですね。
注)本記事にはRISTEX担当者の個人的見解が含まれています。
SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(社会的孤立・孤独の予防と多様な社会的ネットワークの構築)についてはこちらを参照ください。