【書籍連載】『2030年を生き抜く会社のSDGs』から読み解く、SDGsの原点とこれから(第1回)
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近年、頻繁に目にするようになった「SDGs(持続可能な開発目標)」。貧困や気候変動など世界が抱える問題解決を目標とするSDGs思考は、決して国や政府だけでなく、中小企業など一般的な企業にも欠かせない要素となりつつあります。そこで今回の記事では、“SDGs以前”から積極的に社会的な活動を推進してきた株式会社サニーサイドアップグループおよび同社代表取締役を務める次原悦子氏の著書『2030年を生き抜く会社のSDGs』(青春出版社)から、SDGsの原点やこれからについて4回にわたる連載形式でひも解いていきます。
国や政府でなく、民間企業にこそ課せられた課題
SDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)は2015年9月、国連サミットで採択された17の国際目標(ゴール)です。国際目標というからには、国ごとの政治体制や法律の枠組みを超え、加盟国すべてが目標達成のための尽力が課せられている、と考えて差し支えありません。
SDGsの目標の重要なポイントは、「多様性と包摂性のある社会の実現」です。
「多様性」とは、昨今では「ダイバーシティ(diversity)」という言葉にも置き換えられますが、辞書的な意味は「幅広く性質の異なる群(同じ性質を持つ集団)が存在すること」。もちろん、ただ「存在する」だけではダメで、彼らに等しく権利が保障されていなければなりません。どんな人でも胸を張ってこの社会に存在していいですよ、という状態です。「包摂性」とは、「インクルージョン(inclusion)」という言葉で、こちらも昨今よく語られるようになりました。「包」という漢字が含まれていることからも分かるように、包み込むという意味。「包摂性がある」とは、どんな人も排除されない状態を指します。
つまり「多様性と包摂性のある社会」とは、人種や民族や性別、思想や宗教、文化や習慣がどうであれ、住んでいる国や地域がどこであれ、人間としてまっとうに生きられて、不当に差別されたり虐げられたりすることのない、あらゆる機会が平等に与えられた社会のことなのです。
しかし、ちょっと待ってください。
よりよい社会を実現することに異論のある人はいないと思いますが、なぜそれが「開発」という、きわめて実業的な観点からのアプローチである必要があるのでしょうか。「よりよい社会の実現」は、チャリティや人権運動、あるいは政治家の領分、という気がしないでもありません。
もちろんチャリティや人権運動、政治も大事です。しかし、個人の善意や熱意で成り立っているチャリティや人権活動には、その効力に限界がありますし(第2章でご説明します)、国家や社会が、「政治と経済」を両輪として運営されている以上、経済行為が含まれる実業的なアプローチなくして、政治は動きません。
実業すなわち経済的活動を担っているのは民間企業であり、そこで働く私たち一人ひとり。つまりSDGsとは、特定の環境保護団体や人権団体、あるいは志ある国会議員や政府の偉い人たちだけが取り組めばいい、という性質のものではないのです。(中略)
目標達成のためには「5つの主要原則」がある
内閣に設置された「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」によれば、〈17の目標〉を実施するための原則として、以下の「5つの主要原則」を挙げています(首相官邸ウェブページ「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針」〈令和元年改定版〉より)。
1つ目は、【普遍性】です。
先進国を含めて国連加盟のすべての国が行動する。例外はありません。参加しなくてもいい国はなく、国内実施と国際協力を両面で推し進めなければなりません。
2つ目は、【包摂性】です。
先ほどもご説明しましたが、これは人間の安全保障の理念を反映しています。つまり「誰一人、取り残さない」ということです。
3つ目は、【参画型】であるということ。
すべてのステークホルダー(利害関係を有する者という意味。消費者、従業員、株主、債権者、仕入先、得意先、地域社会、行政機関など)に役割が課せられます。「関我(われかん)せず」は許されません。
4つ目は、【統合性】。
社会・経済・環境について、どれかだけでなく、3つとも統合的に取り組むということです。これは次項でくわしく説明しましょう。
そして5つ目は、【透明性と説明責任】。
取り組み状況や進捗を定期的に評価、みんなに共有し、フォローアップすることで「着手しっぱなし」にしない。達成度を常に見すえながら、足りてなければ次策を打っていくことが求められます。
人類が生きのびるためには「持続可能な開発」が必要
「SDGsの大枠の目指すところはわかった。だけどそもそも、〝持続可能な開発〟という言い回しにピンと来ない」という方もいらっしゃると思います。
国連では「持続可能な開発」を、将来の世代のニーズに応える能力を損ねることなく、現在の世代のニーズを満たす開発のことと定義しました。
これだけではわかりにくいので、例を挙げましょう。
たとえば電力です。現在、地球に住む人たちの生活レベルを維持するためには膨大な電力が必要ですよね。そのために原子力発電の必要性を唱える人もいますが、ひとたび重大な事故が起これば尋常でない被害となり、負の遺産としてその処理に私たちの子どもや孫が〝拭尻(しりぬぐ)い〟を引き受けなければなりません。
一方、従来型の火力発電に頼る方法もありますが、枯渇が心配されている化石燃料(石油、石炭、天然ガス)を大量に使用するため、将来の世代が困ってしまうかもしれません。
「今が良ければいい」という理屈だけで、経済開発をしてはいけない。
それが「持続可能な開発」の真意です。
①社会的包摂…社会的弱者を置き去りにすることなく、一人ひとりの人権を尊重する
②経済開発 …経済活動によって富や価値を生み出す
③環境保護…環境を守る
つまり、さきほど挙げた「5つの主要原則」のうち、【統合性】の考え方が、とても大切になってくるのです。「でもこれ、相当難易度が高いんじゃないの?」と思われた方、正解です。
たとえば、企業が限界まで利益を追求(「②経済開発」)すれば、発展途上国に建てた工場の工員賃金を極限まで削ろうとするでしょう。つまり「①社会的包摂」の達成が難しくなります。
また、「③環境保護」のために有毒物質を出さないための設備投資をすれば、利益率は下げざるを得ませんから、「②経済開発」をとことん追求できません。
つまり、さきほどの①②③は、「あちらを立てれば、こちらが立たず」といったような、トレードオフの関係に陥りがちなのです。
しかし、それでも私たちには、この3つを同時に追い求め、同時に、成り立たせる義務があります。
この視点で見ると、2030年までに目標が達成できなかった場合、私たちの世界は一体どうなってしまうでしょうか?もし、目標が達成できなかったら…?
①社会面:貧困と教育機会の不平等は拡大、差別が社会不安を生み、すべてが紛争(内戦)や戦争の元凶となるでしょう。
②経済面:経済危機に陥れば、社会福祉の財源が不足し、失業率が高まり、貧困はさらに拡大するでしょう。
③環境面:地球温暖化が進み、水不足やエネルギー問題が深刻化。自然災害が増加して、穏やかな暮らしは望めなくなります。
端的に言って、世界がもう立ち行かなくなります。その立ち行かなくなった世界で生きるはめになるのは、誰あろう私たちの子どもや孫たち、つまり将来の世代です。
将来の世代の人生を苦痛に満ちたものにする権利など、私たちにはありません。無理難題だと思いますか? そんなことはありません。私たち人類の技術力やアイデアを総動員すれば、必ずや達成できるはずだと私は信じています。
出典・引用元/『2030年を生き抜く会社のSDGs』(青春出版社)