• トップ
  • 記事一覧
  • 新内眞衣と学ぶSDGs 目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」アシックスの“最もサステナブルなスニーカー”とは
RADIO

新内眞衣と学ぶSDGs 目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」アシックスの“最もサステナブルなスニーカー”とは


この記事に該当する目標
9 産業と技術革新の基盤をつくろう
新内眞衣と学ぶSDGs 目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」アシックスの“最もサステナブルなスニーカー”とは

ニッポン放送で毎週日曜日午後2時10分からオンエア中のSDGsを楽しく学べるラジオ番組『SDGs  MAGAZINE』。10月30日の放送は目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」がテーマとなった。今回のゲストは、SDGsに積極的に取り組む企業である日本のスポーツ用品メーカー「アシックス」の荒井孝雄さん。パーソナリティの新内眞衣さんが、サステナブルなスニーカー「GEL-LYTE III CM(ゲルライト・スリー・シーエム) 1.95」の開発秘話や、同社のSDGsに対する思いに迫った。

サステナビリティ部 “前身発足”は2004年

イノベーションの推進によって、SDGsにつながる取り組みが生まれる。そんな目標9の理念を体現するのがスポーツ用品メーカーのアシックスだ。今回の放送では、アシックスが開発した革新的なスニーカーに着目。開発に携わったサステナビリティ統括部サステナビリティ部環境・コミュニティチームの荒井孝雄さんに、そのスニーカーが生まれた舞台裏を聞いた。
「高校時代、体操着と体育館履きがアシックスだったんです。物持ちの良さではファンの方の間で定評があるのですが、もちろん体育館履きも3年間同じものを使用していましたし、大事に洗ってお手入れしていました」と、アシックスにまつわる“思い出”を明かした新内さん。ゲストの荒井さんを招き入れ、まずはプロフィールを紹介した。

荒井孝雄さん
株式会社アシックス
サステナビリティ統括部 サステナビリティ部 環境・コミュニティチーム
=========================
滋賀県出身
大阪大学外国語学部にてアラビア語を専攻
2012年に株式会社アシックスに入社し、競技用シューズの開発部に配属。サッカー、ラグビー、クリケットなどのシューズ開発を担当。その後、レスリングや安全靴などの開発を担う
2017年:ボランティア休職制度を利用し、JICA海外協力隊に参加。ドミニカ共和国の農村コミュニティで女性グループとの小規模ビジネス立ち上げに取り組む
2019年:アシックスに復職。現在のサステナビリティ部環境・コミュニティチームに配属され、主に製品・材料で環境負荷を小さくする業務に携わる
=========================

新内 「サステナビリティ部というのは、いつ頃できたのですか」

荒井 「もともと2004年に総務部の中に、まずCSR推進室という形で立ち上がりました」

新内 「CSRというのは・・・」

荒井 「コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティの略で、『企業の社会的責任』と訳されることが多いですね。まずは単体の部ではなく総務部の中にできたのですが、それが独立したのが2010年。そのあと、名前が変わり、最終的にサステナビリティ部になったのは2021年です」

アシックスが開発したサステナブルなスニーカーとは

そんな荒井さんが開発に携わったのが、2023年に発売される『GEL-LYTE III CM 1.95』というスニーカー。これが、とことんサステナビリティを追求し“画期的な新コンセプトと地球への優しさを兼ね備えたスニーカー”なのだという。

新内 「こちらに現物があるのですが、改めてどんなスニーカーなのでしょう」

荒井 「一言で言うとシューズのライフサイクル、つくるところから使われた後まで、排出されるCO2が最も少ないスニーカーということになります。ポイントはCO2を大きく削減するのと同時にアシックスの求める品質も保っている、サステナビリティと品質を両立している画期的な商品だというところです」

新内 「品質という、そこのプライドがもちろんあっての商品なんですね」

荒井 「そうですね。シューズのCO2排出量と言われて、どういう時に排出されているか、何となくでもイメージはありますか」

新内 「布をつくるところにもまずCO2が発生するのかなと思います。ソールの部分を形成するところでも。あとは実際に含まれているのか分からないですけど、工場から出荷されるところでもCO2が排出されているし、お客さんの手元に届いてから廃棄をするときにもCO2がつくられるのかなと思います」

荒井 「完璧です」

新内 「本当ですか、やった!」

CO2排出量は75%減

荒井 「靴に使われる材料の調達から製造工程、靴ができた後は販売される国までの輸送の工程、実際に使用される工程、廃棄される工程。その4工程全てでCO2が発生するので、その各段階でどれだけCO2が出るかを積み上げて、それが1.95キログラムと、スニーカーとして最も少ない数値を実現しています」

新内 「だから『1.95』という数字がスニーカーの名前に入っているんですね。1足当たりのCO2排出量が1.95キログラムとのことですが、これは普通のスニーカーと比べてどれくらいすごいことなのですか」

荒井 「アシックスの代表的なスニーカーの平均と比べると大体75%ほど少ないです」

新内 「それは、すごいですね。どうやって減らしたのでしょう」

荒井 「はじめに材料と製造工程のところからご説明すると、ミッドソールと中敷きにはサトウキビ由来、植物以来の素材を配合した『カーボン・ネガティブ・フォーム』という新しい材料を使っています。サトウキビが成長する時に吸収するCO2がソールをつくるときに排出するCO2より多いのでカーボン・ネガティブ、つまりCO2がマイナスになるということです。他にも、靴のニットの部分も100%リサイクルのポリエステルを使っています」

新内 「刺繍がされていますが、この糸とかは」

荒井 「糸もリサイクルのものを使っています」

新内 「すごいですね」

荒井 「靴ひももリサイクルで、ほとんどリサイクルの材料を使っています。次に製造工程ですが、再生可能エネルギーを調達しているところで靴をつくっていまして、材料をカットするところ、縫製をするところ、ソールをプレスするところ、靴を組み立てるところでCO2を減らしています」

新内 「工場に再生可能エネルギーを使っているということですか」

荒井 「そうですね。また、輸送の工程では船を使って運ぶのですが、その船にバイオ燃料を使ったプログラムを採用することで、輸送工程のCO2排出量削減を実現しています。最後に廃棄のフェーズ。物を作るときには、どうしてもロスが出てしまうのですが、そのロスを捨てるときに全部燃やしたり、埋め立てたりするのではなく、使えるものは別のリサイクル業者さんに渡すということを工場がやっています」

新内 「この靴をアシックスさんにお渡しすれば再生可能になるということですか」

荒井 「そこまでは今できていなくて、靴そのものは一般的に廃棄される方法でCO2を計算しています。リサイクルされているのは、この靴をつくるときに出たロス、廃棄の部分ですね」

新内 「なるほど。この靴を開発するのに、どれくらいの年月がかかったんでしょう」

荒井 「期間としては、コンセプトの段階から2年近くかかっています。すごく労力もかかっているプロジェクトなのですが、私が所属しているサステナビリティ部だけでなく、研究所だったり、シューズの開発デザイン、生産、マーケティングの部署だったり、本当にたくさんの部署の力を合わせて実現できたものだと思っています」

このCO2排出量の計算については、2010年に提携したマサチューセッツ工科大との共同研究が活かされているという。イノベーションの成果が、製品の4サイクル(材料、製造、輸送、使用・廃棄)でのCO2削減につながっており、まさに目標9のターゲット4「2030年までに、資源をよりむだなく使えるようにし、環境にやさしい技術や生産の方法をより多く取り入れて、インフラや産業を持続可能なものにする。すべての国が、それぞれの能力に応じて、これに取り組む」に当てはまるスニーカーとなっているわけだ。

アシックスのSDGsとの向き合い方

アシックスの取り組みを知った新内さんは「会社全体では、SDGsについてどう向き合っているのでしょうか」と尋ねた。すると、荒井さんは「それをお伝えする時には、アシックスの創業哲学からご説明しているのですが、アシックスの会社の名前の由来って聞いたことありますか」と切り出した。

新内 「えっ! 聞いたことがないです」

荒井 「実は『Anima Sana In Corpore Sano(アニマ サナ イン コルポ レサノ)』というラテン語のフレーズの頭文字になっているんです」

これは、古代ローマの風刺作家ユベナリスの言葉で、意味は「(もし神に祈るならば)健全な身体に健全な精神があれかしと祈る(べきだ)」というもの。この言葉を経営理念とし、スポーツを通じてそれを実現していこうという強い願いが込められている。

荒井 「サステナビリティの観点でいえば、そのためにスポーツができる状況、地球環境を将来世代に残していかないといけない。健やかな地球を実現することが、スポーツを通して健全な心身を実現するという創業哲学に直接つながっていくと考えています。なので、会社としてはサステナビリティを経営の中心に据えて、全社を上げて取り組んでいるという状況です」

新内 「このスニーカーが、その第一歩目というか、皆さんの共通認識を具現化する一歩目ということになるのですかね」

荒井 「そうですね。かなり大きな一歩目になります。2050年に向けて温室効果ガス実質ゼロという目標を掲げているのですが、それを実現していくための大きな一歩と考えています」

“最もSDGsなスニーカー”といえる、アシックスの「GEL-LYTE III CM 1.95」。その開発の経緯と意義に触れ「究極にサステナブルなスニーカーのお話で、本当の本を出した方が良いんじゃないかというくらい面白かったです」と新内さんは感銘を受けていた。さらに「良くも悪くも真面目とおっしゃられていましたが、それがそのまま出ている感じで、いろいろな企業の取り組みをもっともっと聞きたいなと思いました。このアシックスのスニーカー自体もそうですが、アシックスの会社ごと調べてみて、好きになっていただきたいなと思います」と、SDGsに積極的に取り組むアシックスという企業自体にも強い興味を抱いた様子だった。