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新内眞衣とSDGsを学ぶニッポン放送「SDGs MAGAZINE」誰もが安心して「住み続けられるまちづくり」とは #前編


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11 住み続けられるまちづくりを
新内眞衣とSDGsを学ぶニッポン放送「SDGs MAGAZINE」誰もが安心して「住み続けられるまちづくり」とは #前編

ニッポン放送で毎週日曜日午後2時10分からオンエア中のラジオ番組『SDGs  MAGAZINE』。パーソナリティを務める新内眞衣さんとともにSDGsを学ぶ同番組では、12月11日の放送回で慶應義塾大学の中野泰志教授をゲストに招き、目標11「住み続けられるまちづくりを」について「障害」の視点で掘り下げた。

今回の放送ではゴール11「住み続けられるまちづくりを」にスポットが当てられた。ニッポン放送では毎年12月24日から25日にかけてチャリティ番組『ラジオ・チャリティ・ミュージックソン』が放送されており、その目的が「目の不自由な人に音の出る信号機を」。実際に首都圏の音の出る信号機の2割は、この番組による浄財、募金で設置されている。
「ミュージックソン」とは「音楽=ミュージック」と「マラソン」を合わせた造語で、音楽とともに送る24時間の生放送を表現したもの。寄付金では「音の出る信号機」以外にも、日本点字図書館へ「声の図書」、関東甲信越の盲学校へ「立体コピー機」を贈るなどの取り組みも実現している。

そして、スタジオに招かれたのが、この『ラジオ・チャリティ・ミュージックソン』にゲスト出演やアドバイザーとして長年にわたって携わっている慶應義塾大学の中野泰志教授。新内さんがバリアフリーやユニバーサルデザインの研究する専門家に、“障害のないまちづくり”について話を聞いた。

新内 「お会いするのは初めてなのですが、ネクタイが視力検査の・・・」

中野 「視力検査のCの字の形です。『ランドルト環』というのですが、そのデザインのネクタイに、メガネのタイピン、シャツはショッキングピンクで来させてもらいました」

新内 「そうなんですよ。すごくびっくりしました」

中野 「実はこれには意味がありまして、視覚に障害がある人たちの中である程度見えるロービジョンとか弱視と言われる人たちがいるのですが、そういう人にとってショッキングピンクのシャツはすごく見やすいんです」

新内 「そうなんですね。では、今日はよろしくお願い致します」

中野 「よろしくお願い致します」

新内 「先生は具体的にどういったことを研究されているのでしょうか」

中野 「障害のある人や高齢の人たちが日常生活や社会生活を送る上で障壁となるようなバリアの原因を解明してバリアフリーにするための方法を研究したり、最初からバリアをつくらないような社会のつくり方、それをユニバーサルデザインというのですが、そういったユニバーサルデザインについて実践を通して研究したりしています」

新内 「こうした研究を始めたきっかけは」

中野 「私は心理学が専門なのですけども、心理学というのは人や動物の行動の本質を明らかにする学問なんですね。人の行動の本質を分かっていれば、障害のある人たちにさまざまな支援ができるんじゃないかと考えて、先ほどご紹介いただいた国立特別支援教育研究所というところに勤務したんです。そこで障害のある子供たちは、いろいろ努力をしてくれるわけですよ。例えば、見えにくいとか、聞こえにくいので、それを補うためにさまざまな勉強や道具の使い方を覚えてくれる。ただ、努力しているのが子供たちだけで良いのかなとすごく疑問に思うようになったんです。そこで、少し環境を変えられないかというふうに思って、環境を変えるためには環境の中にいろいろなバリアがあるので、それをなくしていこうとか、そもそも最初からバリアなんかつくらない社会であってほしいよね、ということで研究をするようになりました」

新内 「研究を始めた頃と今を比較すると、どういう状況になのでしょうか」

中野 「今は随分進んできたと思います。昔は障害の原因というのは、その人の体の機能、いろいろなことを判断する心の機能というのが障害だと考えられてきたのですが、それに対して最近はバリア、社会的障壁が問題じゃないかと考えてくれるようになり、そういう考え方が広がったおかげで、環境を変えていこうという取り組みが増えてきたように思います」

新内 「バリアフリーというとさまざまなものがあると思うのですが、最近だとどういったものや制度がつくられているのでしょうか」

中野 「いい質問ですね。バリアの中に実は4種類あります。1つ目は車いすの人にとってバリアになる階段や段差のような物理的なバリア。2つ目は点字だとか字幕等が用意されていないという文化情報面のバリア。3番目は入試や資格試験等の受験を拒否されるという制度上のバリア。最後は障害があるということで避けられたり、差別されたり、偏見を持たれたりするという意識上のバリア。こうした4つのバリアがあるといわれています。このバリアをなくしていくことがバリアフリーなのですが、最近の取り組みとしては物理的バリアフリーとして音の出る信号機やホームドアの設置が進んでいますし、文化情報面のバリアとしてはテレビや映画等に副音声や字幕等を付けるシステムが開発されています。制度上のバリアをなくすためには展示やタブレットで試験が受けられるような合理的配慮というものが提供されたり、意識上のバリアをなくすために文部化科学省では『心のバリアフリーノート』という教材をつくって、意識上のバリアをなくしていこうという取り組みが行われたりしています」

新内 「『心のバリアフリーノート『』というのは、どういったものなのでしょうか」

中野 「これは、障害とは何かというのを考えるための教材です。障害って実は社会的につくられたバリアがあることが障害なのですが、つい私たちは見えないとか、聞こえにくいということが障害であるというふうに考えてしまいがちなんです。そこで文部科学省では『心のバリアフリーノート』という教材を通して、障害って本来社会の中につくられたものが障害なんだよということを理解してもらう教材になっています」

新内 「では、ユニバーサルデザインというのは最近だと、どういったものに用いられているのでしょう」

中野 「ユニバーサルデザインは、最初からバリアをつくらないようにするという考え方ですね。最近のスマホとかタブレットはアクセシビリティ機能がついていて、あの機能を使うと画面に表示されているものを音声で表すことができたり、点字で表示することができるようになったり、補聴器に音を飛ばすことができるようになったり、いろいろな機能が最初からつくられているんですね。スマホやタブレットって、別に障害のない人たちだけじゃなく、いろいろな人が使うんだということを最初から考えて設計してくれたので、そういう意味ではユニバーサルデザインの好事例になるのかなと思います」

新内 「スマホの点字表示というのは・・・」

中野 「点字ディスプレーという装置がありまして、そこに無線で飛ばすことができるんです」

新内 「なるほど! そして、今日は中野先生にいろいろと持ってきていただいたのですが・・・」

中野 「例えばですね、点字の話が出たので・・・点字の教科書を持ってきました。もともとの教科書と点字の教科書を比べると」

新内 「厚さが全然違う」

中野 「違いますよね。点字の教科書は厚いですけど、工夫がされていて、図形なんかも触って分かるようにつくってあります。そういう意味ではとても工夫されたものなんですね。点字だけでは駄目な子たちもいますので、拡大した方が見やすいという子のためには拡大の教科書というのもあります。それぞれのニーズに合わせて、こういういろいろな教科書を選択できるようになっているんです。最近もっと面白いのは、タブレットやスマホで教科書を読むことができるようになっていることですね。デジタル教科書というのですが、タブレットやスマホに教科書をそのまま入れて音声化したりとか、拡大したりとか、その人に分かりやすい形に変えて読むことができるようになっています。そういう意味では、これまでの教科書、点字にするとか拡大するとかはバリアフリーの発想だったのですが、デジタル教科書は最初から障害がある人のことを考えて、ユニバーサルデザインの思想でつくられているといえますね」

SDGsの各項目にも、障害に関わるものが多く記されており、新内さんは「先生から見たSDGsの良いところ、足りないところ、願うところなど、たくさんあると思うのですが、いかがでしょう」と質問。すると、中野教授は「いいところは、ほとんど全ての目標の中に障害のある人たちのことをちゃんと盛り込んでくださっているというところです」と説明。一方で、まだまだ受け取り側の意識が足りない部分も指摘した。

中野 「例えば日本でSDGsというと『ああ、環境問題ね』とか『ジェンダーの話ね』となってしまいます。本来はジェンダーを含めて多様な人が生きているということを、ちゃんと私たちは意識する必要があって、SDGsを語っていく時にSDGsの言葉でいうと“誰一人取り残さない”という思想ですね。それを、もっともっと大切にしてほしいなと思います」

さらに、新内さんは「先生の研究で特にメインとなってくるのがゴール11『住み続けられるまちづくりを』ですが、ゴール11の中でも特に気になる項目はありますか」と、今回のテーマに迫った。

【SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」】
11.1 2030年までに、全ての人々の、適切、安全かつ安価な住宅及び基本的サービスへのアクセスを確保し、スラムを改善する。
11.2 2030年までに、脆弱な立場にある人々、女性、子供、障害者及び高齢者のニーズに特に配慮し、公共交通機関の拡大などを通じた交通の安全性改善により、全ての人々に、安全かつ安価で容易に利用できる、持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する。
11.3 2030年までに、包摂的かつ持続可能な都市化を促進し、全ての国々の参加型、包摂的かつ持続可能な人間居住計画・管理の能力を強化する。
11.4 世界の文化遺産及び自然遺産の保護・保全の努力を強化する。
11.5 2030年までに、貧困層及び脆弱な立場にある人々の保護に焦点をあてながら、水関連災害などの災害による死者や被災者数を大幅に削減し、世界の国内総生産比で直接的経済損失を大幅に減らす。
11.6 2030年までに、大気の質及び一般並びにその他の廃棄物の管理に特別な注意を払うことによるものを含め、都市の一人当たりの環境上の悪影響を軽減する。
11.7 2030年までに、女性、子供、高齢者及び障害者を含め、人々に安全で包摂的かつ利用が容易な緑地や公共スペースへの普遍的アクセスを提供する。
11.a 各国・地域規模の開発計画の強化を通じて、経済、社会、環境面における都市部、都市周辺部及び農村部間の良好なつながりを支援する。
11.b 2020年までに、包含、資源効率、気候変動の緩和と適応、災害に対する強靱さ(レジリエンス)を目指す総合的政策及び計画を導入・実施した都市及び人間居住地の件数を大幅に増加させ、仙台防災枠組2015-2030に沿って、あらゆるレベルでの総合的な災害リスク管理の策定と実施を行う。
11.c 財政的及び技術的な支援などを通じて、後発開発途上国における現地の資材を用いた、持続可能かつ強靱(レジリエント)な建造物の整備を支援する。


中野 「ターゲット11の2ですね。これが、どこまで到達できるかということが私にとって、すごく強い関心の対象です」

新内 「現状、どれくらいできていると思いますか」

中野 「これは、まだまだだと思います。例えばホームの転落防止のためにホームドアというのがつけられていますが、日本全国の駅で見るとまだまだ一部にしかつけられていないんです。安全に、安心して障害のない人たちと同じように障害のある人たちが移動できるようになっているかというと、特に地方ではなかなか難しいかなと思います」

新内 「日本のゴール11の達成度は世界に比べたらどうなのでしょうか」

中野 「世界に比べると、物理的なバリアフリーという観点ではすごく進んでいます。多分、トップレベルですね。だって、これだけエレベーターやエスカレーターが揃っていますから。そういう物理的なバリアフリーという意味では日本は非常に進んでいると思います。ただ、問題なのは人的な支援ですね。例えば海外に行くと、白い杖を持っている人や車いすに乗っている人がいると、すぐに声が掛かります」

新内 「それ、花岡さんも言ってらっしゃいました」


中野 「そうでしょう」

新内さんが言う「花岡さん」とは、今年8月20日に東京・駒沢オリンピック公園で行われた公開収録にゲスト出演した日本パラ陸上競技連盟の常務理事の花岡伸和さんのこと(ニッポン放送『SDGs MAGAZINE』 新内眞衣と学ぶSDGs 初の公開収録で「SDGsとパラスポーツ」を花岡伸和さんと深掘り #前編)。車いすマラソンで2004年アテネパラリンピック6位、2012年ロンドンパラリンピック5位入賞と輝かしい実績を上げ、現在は選手として活動する傍ら、若手選手の指導やパラスポーツの発展に尽力している。

新内 「車いすマラソンの花岡さんと御一緒させていただいた時に、海外に遠征とかで行くと、すごく話し掛けてくださる機会が多いそうですけど、日本だとなかなか・・・というお話でした。中野先生も同じことをお思いですか」

中野 「そうですね。これは一般の人が声を掛けるというのもあるのですが、駅員の方とかももっともっと声を掛けてもいいのではないかと思います。今は無人駅とかも出てきて、難しい問題もあると思うのですが、ハードウェアとソフトウェア、両方をうまく組み合わせて、障害のある人たちを含めて全ての人を包摂するような社会をつくっていかなくちゃいけないのではないかなと思います:
新内 「そもそも、先生が考える障害とは何なのでしょうか」

中野 「障害というと、先ほども申し上げたように見えにくいとか、聞こえにくいとか、歩くのが難しいということが障害だと思われがちなのですが、そうではなくて、いわゆる障害のある人を考えずに社会がつくられてしまったことが障害だと考えています」

新内 「そうですよね。でも、過去を変えられないからこそ、未来を変えていくしかないということだと思います」

中野 「その通りだと思います。SDGsの取り組みってこれまで障害のある人たちの何が問題なのか十分に議論できなかったことを議論可能にしてくれたのだと私は思っています。SDGsの中で環境問題とともに、障害のある人たちのことをいつも同時に議論していただくことができるようになった。そして、障害ってそもそも見えなかったり、聞こえなかったりすることじゃないよね、社会のバリアが問題なんだよね、という話しをできる機会がすごく増えたと思うんですね。これはとても大切なことで、実際にどれだけホームドアが揃うかということも大事だし、音の出る信号機の数も大切だけれども、心のバリアフリーというのは同じように大切で、障害をどう捉えるかということが、SDGsの広がりとともに日本全体に広がっていくということがとても大切です。こういう番組で多くの人に聞いてもらうことは、すごく意味のある事ではないかなと思います」

「今日は中野先生にお話を伺ったのですが、特に障害とは何なのかを中野先生にお聞きして、自分の中で新しい発見がたくさんありました」と新内さん。今年もニッポン放送では12月24日正午から『ラジオ・チャリティ・ミュージックソン』を放送。48回目となる今回はSixTONESがパーソナリティを務める。「障害とは何か」について知ることで、またこのチャリティ番組の意味も深く考えるきっかけになりそうだ。

(後編に続く)