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昨年比75%の値上がり。卵不足から考える持続可能でストレスフリーな養鶏とは


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12 つくる責任つかう責任
昨年比75%の値上がり。卵不足から考える持続可能でストレスフリーな養鶏とは

日本人の食に欠かせない食品、「卵」。毎日食べるという人も多いのではないでしょうか。日本の卵は、新鮮だからこそ世界でも珍しい生食での利用や、オムライス、卵焼き、ゆで卵など、様々なバリエーションで日本人の食卓に並んでいます。もしも、卵が毎日の食事から消えてしまったら、と考えたことはありますか?実は今、「卵不足」という問題が全国で叫ばれており、回復するのにはある程度の時間がかかると言われています。今回はそんな「卵」に関わる問題について考えていきましょう。

どうして「卵」の価格が高騰しているの?

東京では3月、「JA全農たまご」のMサイズ1キロあたりの平均価格が343円となりました。去年の3月と比較すると148円、約75%の値上がりです。最も安かった2018年の12月は189円だったので、154円も高くなっています。この価格高騰の原因の一つが、鳥インフルエンザの流行だと言われています。2月の農林水産省の記者会見では、鳥インフルエンザの発生は、25道県で合計76件、殺処分羽数は1,478万羽。飼養羽数の約1割を殺処分したと発表されました。特に多いところでは、茨城県の採卵場で100万羽を超える殺処分の事例が4例出たそうです。このような状況の中、当面は卵の値上がり傾向が続く見込みで、供給が回復するまでには半年から1年ほどかかると予測されています。
飲食店では卵メニューの休止、ブラジル産卵の輸入などといったことが起こっています。例えば、ファミリーレストランの「ガスト」が4月からオムライスの販売を休止、そして「コメダ珈琲店」は人気メニューのエッグサンドなど一部の商品が提供できない可能性を発表しました。また、ハンバーグレストランの「びっくりドンキー」は、1都7県の60店舗で、モーニングメニューの目玉焼きとトーストなどのセットや卵かけご飯など、卵を使用した一部のメニューを休止し、セットのゆで卵をポテトサラダに変更するなどして対応しています。さらに、牛丼の「吉野家」は親子丼の代わりに焼き鳥丼を販売。卵不足により私たちの日常に大きな影響が生まれていることが分かりますね。

これまで日本の卵が安かった理由とは

卵は、数十年あまり値上がりせずに、一定の価格を保ち続けていることから、「物価の優等生」と言われてきました。改めて考えると、これまで日本の卵は異常なほどに安く販売されていたということです。これはなぜでしょうか。一言で表すと、「生産の効率化が行われた」からです。具体的には、
「鶏種の改良やケージ飼いなどによる生産性向上」、「原料や配合割合を変更したことによる飼料効率の向上」、「鶏卵場がシステム化されたことによる大量生産」といった動きが要因だといえます。しかし、市場価格が安くなると生産者への負担は増加していきます。
このような中で、卵の過剰生産で低価格で販売せざるを得なくなってしまった生産者に対し、養鶏事業者団体と国から赤字補てんをする「鶏卵価格差補塡事業」や、生産性を減らすために卵を産む鶏を処分した場合には、補助金が交付される 「成鶏更新・空舎延長事業」という制度ができました。このような動きからも分かるように養鶏場を始めとする卵の生産者の持続可能性を考えると、卵価格の異常な低価格は、彼らの首を絞めてしまうことに繋がっているのです。また、価格の都合で鶏を簡単に処理してしまうというのは、鶏の命が軽く考えられているという見方もあります。こうした現状で、日本の採卵鶏の飼育方法はどのようになっているのでしょうか。

採卵鶏のケージ飼いが禁止に?「アニマルウェルフェア」を考える

効率を追い求めた日本での採卵鶏の飼育は、1羽の鶏の体よりも小さいケージで身動きが取りにくい「バタリーケージ」を大量に設置するという飼い方が主流です。卵の生食を当たり前とする日本では、鶏と菌やウイルスとを分けて飼育できるケージ飼いの方が、衛生環境が非常に良いということで普及しています。しかし、「アニマルウェルフェア」の観点ではケージ飼いは鶏にとって苦痛を伴い、自由を奪うもので、良くないとされているのです。アニマルウェルフェアを実現する飼い方としては、「放牧」や「平飼い」などがあり、世界ではすでにそのような方法がメインで、鶏のケージ飼いが禁止されている国もあります。2000年代後半から、EUをはじめ、スイス、米国の6州、ブータン、インドなどで禁止されてきていますが、日本ではそのような規制がないのが現状です。農林水産省は、家畜を快適な環境下で飼養することにより、家畜のストレスや疾病を減らすことが重要であり、結果として、生産性の向上や安全な畜産物の生産にもつながるとし、アニマルウェルフェアの考え方を踏まえた飼育方法の普及を図っています。これから、徐々に日本でも家畜の飼育方法は変化し、遠くない未来にはケージ飼いが社会的概念として通用しなくなる時代が来るかもしれません。

卵の価格高騰で注目が集まる「代替卵」

「物価の優等生」と言われる卵は、今後も続く餌の高騰、光熱費、資材費、人件費などの値上がりの影響で、これまでの価格に戻すことはなかなか厳しいのでは、というようなことも囁かれています。最近では卵以外にも世界的な食糧危機を理由に、代替肉や昆虫食など食料の「代替品」が多く市場に出回り始めていますが、このような状況を受けて、ついに「代替卵」なる商品も販売されるようになりました。

代替卵「Ever Egg」でオムライスを作ってみました。

プラントベースフードブランド「2foods」を手掛けるTWOとカゴメが共同開発をしたプラントベースエッグ「Ever Egg(エバーエッグ)」。
100パターン以上の原材料の組み合わせの中で、卵のやわらかい食感や本来の優しい風味を再現するため、人参や白いんげん豆を使用。2foodsとカゴメの新たな独自技術「野菜半熟化製法」で作り上げています。
編集部でも実際に試食してみましたが、食感や風味の再現度はかなり高く美味しくいただくことができました!卵アレルギーの方や、深刻な卵不足の際には代替食品として大きな役目を果たしてくれる商品となっていくのではないでしょうか。

深刻な供給不足に陥っている「卵」。「美味しくて」「安心して食べられる」「安い」卵が減っている今、改めてそのあり方について考えてみてはいかがでしょうか。また、安いからと言って低価格な卵を求める私たち消費者の意識を変えて、アニマルウェルフェアや生産者のサステナビリティも大切にできるようにしたいですね。