8割の人が子育てしにくいと思う日本!こどもファスト・トラックで改善されるのか?
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2023年4月18日、少子化対策の一環として、子連れの人が窓口で並ばないようにする「こどもファスト・トラック」と呼ばれる取り組みの普及を図る、政府の初会合が開かれました。ゴールデンウイークに合わせて、一部の国立博物館や国営公園などでは既に導入が始まっています。この「こどもファスト・トラック」とは、どのような取り組みなのでしょうか。子育てのしやすい社会とは、どのようなものなのでしょうか。
「こどもファスト・トラック」とは?なぜ取り組みを進めるの?
「こどもファスト・トラック」の実施を検討している施設は、空港の入国検査場、国立・公立博物館や美術館、国営公園、各自衛隊施設やイベント、各行政手続き窓口、郵便局、公共交通機関、民間劇場、プロスポーツイベントなど多岐にわたります。
4月に行われた政府の初会合では、具体的な事例の一つとして、新宿御苑における「こどもファスト・トラック」の設置が挙げられました。3月末から4月初旬にかけてのお花見シーズンの混雑時期に、こども(中学生以下)を伴った保護者(こどものみのグループ・個人を含む)を対象に実施され、長蛇の列に並ばずに済む「子連れにやさしい工夫」に、喜びの声も上がったようです。
このような、こどもに対する法律や取り組みが推進される背景として、少子化、児童虐待、ネグレクト、貧困などの社会問題があります。こども家庭庁の小倉大臣によると、
「これまで大人が中心で決めてきた国や社会のかたちを、子どもや若者の意見も取り入れていくことで、こどもが自分らしく、健やかに幸せな状態で大人になることができる。」
と話しています。国としてはこれらの問題を、家庭間のこととして放置するのではなく、今後は社会全体で子どもたちを支えていこうという理想を掲げているのです。
「こどもファスト・トラック」には賛成?反対?
こどもファスト・トラックが徐々に設置されている中、本当に少子化対策や子どもを育てやすい社会への取り組みとして位置づけていいのか、という議論もあります。
SNSでは、「”子連れに優しい社会”を定着させる為の取り組みなら良いと思う。」「小さい子を連れてのお出かけの大変さを理解し協力したい。」といった賛成の声がある一方で、
「静かに並んで待つ練習をするのも勉強のうち。なんでも優遇していたらロクな大人にならない。」「こどもファスト・トラックのどこが少子化対策かわからない。」など、こどもファスト・トラックに対するネガティブな意見や、こどもファスト・トラックが根本的な少子化対策の解決策になっているのか疑問視する声がいくつも上がりました。
日本は子育てのしやすい国になれるのか?
こどもファスト・トラックについての議論が盛り上がる中、日本国内での子育てに対する実際のイメージはどうなっているのでしょうか。「たまひよ妊娠・出産白書2023」によると、「日本は産み育てやすい社会だと思わない」と回答した人が、昨年から10%増加した76.8%、2021年の調査から過去最高数値になったそうです。その理由として、母親・父親ともに、「経済的・金銭的な負担が大きいから」という回答が、8〜9割を占めました。
諸外国との比較では、内閣府が2020年に行った「少子化社会に関する国際意識調査」では、「(自分の国は)子どもを生み育てやすい国だと思うか」という質問に対し、「とてもそう思う」、「どちらかといえばそう思う」と答えたのは、スウェーデン97.1%、フランス82.0%、ドイツが77.0%で、日本は38.3%。世界的にみても、日本で子育てをする環境が良くないことが明らかになりました。
「子育てしやすい国ランキング」第1位の子育て事情とは?
日本では子育てのしやすい社会を実現するための取り組みについて、まだまだ模索中ですが、世界ではどのような取り組みをしているのでしょうか。
子育てしやすい国ランキング(The 35 Best Countries to Raise a Family in 2020)で上位にランクインした国についてみていきましょう。
第1位は「アイスランド」。人口は、日本で最も人口の少ない鳥取県の半分以下の約35万人です。小さな島国ですが、子育てへの経済的負担が少ないことが満足感に繋がっています。まず、出産にかかわる通院費、入院費、そして18歳までの子どもの医療費がすべて無料です。さらに大学までの授業料も無料で、誰でも平等に高等教育が受けられるようになっています。未就学児などの保育料は有料ですが、物価に対してかなりリーズナブルな金額で、家計を圧迫することなく、安心して預けられるそうです。
第2位の「ノルウェー」では、父母合わせて最大59週の育児休暇を取得することができ、期間中は給与の80%〜100%が支給されます。1993年にノルウェーが導入し、北欧を中心に広がった「パパ・クオータ制度」は、59週のうち6週間は父親のみが取得でき、父親が取らなければ、権利が消滅してしまうという特徴があります。これにより、現在では男性の育児休暇取得率が約90%まで上がりました。父親が育児休暇を取得している場合、母親の職場にこどもを連れて行き、母乳を与えるサポートを行うことも認められているそうです。
日本では、2021年度の男性の育児休業取得率は14.0%。比較すると、まだまだ低い数字です。また、日本では、就学前児童の保育所利用率が47.7%なのに対し、ノルウェーでは、約9割が保育園へ入園しています。
第3位の「スウェーデン」では、97%の人が、「(自分の国は)子どもを生み育てやすい国だと思う」と答えました。ランキング上位国に共通するのは、”本当に必要とされている”手厚い支援です。国民全員が自然と出産や子育てに集中できる仕組みが、きちんと出来上がっているのです。
安心してこどもを生み育てる環境をつくるために
今回紹介した国以外にも、スーパーのレジに妊婦さんや子連れ優先レーンを設けたり、おもちゃや遊具を備えた子連れ優先の「ファミリー車両」を設ける等、子連れが優先される社会的配慮の高い国もあります。
しかしながら、日本は子育てのあらゆる問題に対して、根本的な解決ができていないのが現状です。だからこそ、社会全体でこどもを生み育てる環境を早急に準備していく必要があります。少子化が年々進行していく中、社会の改革はまだまだ必要ということを、わたしたちが訴え続けることが必要なのかもしれませんね。