OPINION

初のエシカルコレクション~カタチにした私の想い~


この記事に該当する目標
12 つくる責任つかう責任
初のエシカルコレクション~カタチにした私の想い~

こんにちは。国産ニット帽子ブランド「アミツムリ」デザイナーの寺本恭子です。前回のコラムでは「私が体験した、エシカルなものづくりの難しさ」についてお伝えさせていただきました。

前回記事はこちらからお読みいただけます。
私が体験した、エシカルなものづくりの難しさ

私のエシカルの概念をカタチにしていこう決心し、エシカルライン「ami-tsumuli white label」を立ち上げたのが、2013年。一筋縄には行かず、困難の連続だったのは、前回お話しした通りです。

でもそんな中、理想と現実の妥協点を探りながら、私なりのチャレンジを繰り返してきました。今回から二回にわたり、私がどの様にエシカルなモノづくりをしてきたか、具体的にご紹介いたします。

エシカルな素材を探してテキサスのオーガニックコットン畑へ

アミツムリのエシカルラインは、「Wearing Roses」(バラを纏う)というコレクションから始まりました。「地球に優しい」などのコンセプトを前面に出さなかったのは、環境のために何かを我慢するより、あくまでも皆さんご自身がより豊かになることが大切であり、そのためのエシカルコンセプトだということをお伝えしたかったからです。

私は、できる限り生産現場に行って、そのエネルギーを自分で感じることを大切にしています。糸は、以前テキサスに畑の視察に行った際に出会ったオーガニックコットンを使用しました。幸いにもその頃には、工業用の編み機に対応できるオーガニックコットンの糸が、プレーンなものだけですが、20キロ単位で購入することができました。

無農薬栽培に向けて努力を重ねる姿に共感、低農薬栽培のバラを染料に

染料に使うバラは、新潟で低農薬栽培をされてるバラ園さんを見つけ、園内にお邪魔し、そこから仕入れさせて頂きました。有機栽培の意義に気づき、バラと日々会話をしながら、愛情を込めて無農薬栽培に向けて努力していらっしゃる姿に感動しました。
どうしても少量の殺虫剤を使用しないといけない虫が一種類だけいるそうです。日々、工夫を重ねているけれども、今はまだ「オーガニック栽培」とは言えないと仰っていました。私たち消費者は、「オーガニック」というラベルだけで選択してしまいがちですが、大切なことは、その背後のストーリーにあるのだと実感させられます。

染色は日本生まれのボタニカルダイ®️という草木染めをセレクト

染色は、ボタニカルダイ®️という特別な染色方法を取り入れました。染料の95%以上は植物を使用しながら、従来の草木染めとは違い、堅牢度も高く、比較的鮮やかな色を出すこともできます。
何と言っても、この技術を開発された方の哲学が、私はとても好きでした。当然ながら、通常の化学染料の染色よりも高くなります。それでも、一色10キロ以上染めれば、少しコストを抑えることができます。自分たちの利益のために少しでもコストを抑えるという発想は好きではありませんが、エシカルという付加価値がまだ一般的でない社会において、消費者の許容範囲を超える価格になってしまったら、結果的には、商品に興味を持ってもらうことすらできないでしょう。なんとかギリギリでも、価格を許容範囲内に納めることが必要でした。

完璧ではないことを受け入れることが次のステップに繋がる

通常の場合、原材料の購入はサンプルの時点では最低限にとどめ、量産注文が入った後に、必要な量だけを自由に買うことができます。サンプルの時点から、一色10キロもの糸を購入するのは、私には勇気がいることでしたが、新しい挑戦への必要なリスクだと受け止めました。バラの花弁を使ったピンクと薄ピンク、茎や葉を使ったベージュとオリーブグリーン、ログウッドという唯一黒の色素を持つ植物をプレンドさせた黒の5色を各10キロずつ染めることにしました。

コレクションの中で世界観を出すためには、少なくとも10型以上の作品が欲しいところです。通常でしたら、デザインによって色々な種類の糸を使い、そのコレクションの奥行きを出します。ところが今回は、バラで染めたオーガニックコットン糸のみ。どうやって奥行き感を出すかが悩みどころでした。レース編みで編み地に凹凸感を出したり、何色か捻り合わせてミックス感やボリューム感を出したり、細いラメ糸を一本編み込んだりして、編み地の表情を豊かにする様に、できる限り心がけました。
ちなみに、このラメ糸はポリエステルです。一本の細いポリエステル糸を使うことは、エシカルコレクションの中で許されるのか?と、誰にも咎められないにも関わらず、一人罪悪感を抱えて悩んだものです。完璧なエシカルだけを追い求めると、結局自分が苦しくなってしまいます。その時のベストは尽くすものの、完璧ではないことを受け入れることが、次へのステップに繋がるのだと、この経験から学びました。

デザイン力があって初めて、エシカルという付加価値が認知される

そんな風にして作った「Wearing Roses」は、今でも私のお気に入りコレクションですが、展示会でお披露目したとき、エシカルというコンセプトに対するバイヤーさんの理解や興味は、殆どありませんでした。いつも通り、デザインが気に入り、価格が許容範囲であれば購入してくださいますし、そうでなければ買い付けてくださらず、店頭に並ぶこともありません。
結局、エシカルというコンセプトを広めるためには、バイヤーさんや消費者が、理屈ではなく、まずは感覚的に「欲しい!」と思ってもらえるようなデザイン力が必要なのでしょう。その上で初めて、エシカルという付加価値が認知されていくのだと思いました。
それは、エシカルという付加価値が身近になってきた今でも、デザイナーとして肝に命じています。

次回は、防寒性が重視される秋冬コレクションにおいて、私がどの様なエシカルなモノづくりをしてきたか、ご紹介いたします。どうぞ、お楽しみに。


【この記事を書いた人】
ニット帽子ブランド「アミツムリ」デザイナー
寺本恭子

東京生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、東京田中千代服飾専門学校デザイン専攻科へ。卒業後は、オートクチュール・ウエディングドレスデザイナー・松居エリ氏に師事した後、祖父が経営する老舗ニット帽子メーカー吉川帽子株式会社を受け継ぐ。2004年にニット帽子ブランド「ami-tsumuli(アミツムリ)」を立ち上げ、同年にパリの展示会でデビュー。2014年からカナダ・モントリオールへ居を移し、サステナブルな視点を生かしながら創作を続けている。
Instagram@kyoko_tf