新内眞衣と学ぶニッポン放送「SDGs MAGAZINE」 「住み続けられるまちづくりを」#後編『ラジオ・チャリティ・ミュージックソン』の意義
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ニッポン放送で毎週日曜日午後2時10分からオンエア中のラジオ番組『SDGs MAGAZINE』。新内さんが様々な見え方の体験し、中野教授がゲスト出演やアドバイザーとして長年関わるニッポン放送のチャリティイベント『ラジオ・チャリティ・ミュージックソン』の持つ意味や意義に迫った。
『ラジオ・チャリティ・ミュージックソン』とは、目の不自由な人たちが安心して街を歩けることを目指し、「音の出る信号機」や目の不自由な方の社会参加につながる「立体コピー」や「声の図書」などの視覚障害児 教育機器といったアイテムを一つでも増やすための基金を募るニッポン放送のキャンペーン活動。昨年の放送前までにミュージックソンの基金を元に設置された「音の出る信号機」は全国で3350基(昨年から今年にかけても105基)を数え、首都圏の実に20%近くはこの募金を元に生まれている。48回目の放送となる今年はSixTONESがパーソナリティを務め、12月24日正午から24時間にわたって放送される。
新内 「ニッポン放送のチャリティイベント『ラジオ・チャリティ・ミュージックソン』に中野先生は、さまざまな形で毎年関わっていらっしゃるとのことで、中野先生から見たミュージックソンについて、お伺いしたいと思います。まず、これまで、どういった形でミュージックソンに関わっていらっしゃったのでしょうか」
中野 「ミュージックソンにはモーニング娘。の中澤裕子さんが出演された2000年から関わらせていただいています」
中野教授は、番組放送を前にパーソナリティに、さまざまなレクチャーを行い、「障害」についての理解を深めてもらう取り組みなどを行っている。新内さんが「どういったことをレクチャーされるのでしょうか」と問い掛けると、中野教授は「ポイントは3つあります」と切り出した。
中野 「1つは障害とは何かということについて本質を理解してほしいということ。2つ目は視覚障害といってもすごく多様なんだという、多様性を理解していただくこと。3つ目が声掛けの仕方等の具体的な支援の方法やさまざまな支援機器・技術を理解していただくこと。この3つのポイントでレクチャーをさせていただいています」
新内 「まず1つ目のポイントですが」
中野 「見えない、見えにくいことが障害なのではなく、見えない、見えにくい人たちのバリアがつくり出されていることが障害なんだということをしっかり理解していただくということです」
新内 「先週、お話しいただいたことですね」
中野 「はい、その通りです」
新内 「2つ目は、いろいろな方がいらっしゃるということ」
中野 「そうです。全く見えないという人もいれば、弱視とかロービジョンと言われるようなある程度見える人たちもいます。生まれた時から視覚障害の人もいれば、途中で視覚障害になる人もいる。同じ視覚障害という言葉で表現されていても、内容には随分と違いがあるので、その多様性をしっかり知っていただくというのが2番目のポイントにしていることです」
この多様性を新内さんに理解してもらおうと、中野教授は3つの特別な眼鏡を用意。順番に新内さんにかけてもらった。
中野 「いろいろな見え方があるのですが、代表的な3つの見え方を体験できる眼鏡でつくってきました。まず、視力の低いもの。どうでしょう」
新内 「ああ、姿かたちは見えますけどピントが合わない、ぼやけている感じですね」
中野 「2番目は見える範囲が狭くなる眼鏡をかけてみましょう。視野狭窄というのですが、見える部分が少なくて、ある部分しか見えないというものです。その見え方だと多分、原稿を見ていただくと原稿は読めるんですが、遠くを見て部屋全体を把握しようとすると・・・」
新内 「難しいですね」
中野 「そうなんです。そして、最後に用意したのがまぶしさの出る見え方の眼鏡です。光がまぶしくて、細かいものがよく見えないので、原稿は全然見えないのではないかなと思います」
新内 「原稿は見えないですし、少し遠めになると誰がいるか分からない状態ですね」
すると、ここで中野教授は「失礼します・・・」とジャケットを脱いでショッキングピンクの派手なシャツ姿になった。
中野 「今日はちょっと派手な格好をしていますが・・・どうですか」
新内 「すごく見やすいです! こんなに違うんですね」
中野 「そうなんです。この服は、この見え方の方には非常に好評で、遠くにいても存在が分かる」
新内 「そうですね」
中野 「このショッキングピンクの色だと、かなり離れていても見える。通常視覚に障害がある方だと移動するときに手引きというのをするのですが、これを着ていると『手引きしなくても前を歩いてくれればそれで分かる』と言っていただけたりすることがあるんですね。このように、視覚障害といっても、いろいろな見え方があるんです」
新内 「全然見え方が違うので、それだけいろいろな方がいらっしゃるということを実感することができました」
中野 「それから、先天的な障害か途中からの障害かというのも、すごく違いがあります。例えば『手を挙げてください』と言われたら、中途の視覚障害の人は今まで手を挙げるということを経験したことがあるので、見えなくてもきっとこうだろうと予想がつくわけですね。でも、先天の人の場合には手を挙げるといっても、どう挙げればいいのかということが十分に把握できていないことがあります。挙げ方をちゃんと言葉で示したりとか、実際に体を触ってもらいながら確認してもらったりということをやらないと伝えることができない場合があるんですね」
新内 「本当に、そうですね」
中野 「だから一口で視覚障害とくくることは難しくて、それぞれの人の見え方とか、それぞれの人の分かりやすさというのがあるので、そこをちゃんと把握しておくことが重要なんです」
新内 「3つ目のポイントとして、声を掛けることについてレクチャーするとのことでしたが、これはどのようなことでしょうか」
中野 「一番大切なことは誰に誰が語りかけているかを伝えることです。『すいません』と言われても、誰が誰に言われているのか分からないので『杖を持っている方、すみません』とか、もしくは肩をちょっと触って『お手伝いしましょうか』と言ってもらえれば、『ああ、私に声を掛けたんだな』と分かりますよね。あとは、名前が分かっていれば名前を呼んでもらえればより分かりやすいですよね。そういう声の掛け方がまず大切です。その次に、『どうすれば良いですか』と聞くことが大切です。いろいろなテクニックがあって、いきなりその基本ルールを勉強したからといって示すのではなく、まずどうしてほしいのかを相手に聞くということが大切です。そうした時に、さらに技術を知っていれば、その技術に基づいて、『こういう時は肘を貸せばいいんだと勉強をしたことがあるな』などと心の中で思いながら、肘を適切に貸して上げることができればいいわけです。それを相手に聞かないで、いきなりやるのはいけないことです。ちゃんと聞く、というのが大切ですということをお伝えしています」
新内 「基本のルールとして、どんなことがあるのか簡単に教えていただいても良いですか」
中野 「まず肘をつかんでもらうか、もしくは身長によっては肩に手を当てていただくというやり方で、相手よりも半歩前を歩く誘導の仕方が基本的なやり方になります。ただ、人によっては違うやり方を好まれる方もおられるので、そこは聞いてもらえればいいと思います。歩いていく時には普通の速度で歩いていきながら、歩く速度についても『これくらいでいいですか』と確認したり、段差があるところではちゃんと止まって段差があることを伝えたりだとか、階段があるところでは『上りの階段です』『3段です』というような説明をしてから上っていくというふうな、そういう基本ルールがあるんですね」
新内 「それを聞いて、思い出しました。出演した舞台(2022年7、8月に上演された「ON AIR~この音をキミに~」)で視覚障害者の役の子がいて、少しレクチャーを受けたことは受けたのですが、『階段です』とだけ言っていた気がします。『上り階段です』『下り階段です』とは言っていなかった。自分の勉強不足だなと今、聞いてびっくりしました」
中野 「なるほど、そこは重要ですよね。上りか下りかで足の出し方は随分変わりますからね」
新内 「お芝居中に声が乗る場面ではなかったのですが、動作とか小さい声で『階段です』と誘導していました。『階段です』としか言えていない自分にハッとしました」
中野 「いい気付きですね。素晴らしい」
新内 「目の不自由な子は鈴(りん)ちゃんと名前だったのですが、その鈴ちゃん役の子と一緒に帰っている時に、注意してみると白杖を持っている方って結構いらっしゃって、2人で声を掛けようかすごく迷うことがあったんです。だけど、やっぱり勇気が持てなくて、実際に行動に移す一歩が踏み出せない。そういう時へのアドバイスは何かありますか」
中野 「まずは声を掛けてほしいのですが、声を掛けられなくても、それはそれでいいのではないかなと私は思います。次の機会に声を掛けようとか、困っていたら声を掛けようというふうに考えていただけたらと思うんですね。例えば、声を掛けられたときに『大丈夫です』と言われることも多々あるんです。慣れているところを歩いているときとかは、声を掛けられると逆に混乱してしまうこともある。スタスタと歩いている方の場合は、そのままでも多分大丈夫だと思うので、何か戸惑っているような場合とか、ホームから転落するんじゃないかとか、横断歩道を音の出る信号機じゃないのに渡ろうとしていて、もしかして信号が変わったことが分かっていないかもしれないなというような危険な場合には声をちゃんと掛けていただきたいですね。一度やっていただければ多分、『あ、こんな感じね』というのがお判りいただけると思います」
新内 「音の出る信号機の抱える問題というのはあるのでしょうか」
中野 「ありますね。音の出る信号機は、もっともっと増えてほしいです。冒頭でご紹介いただいたように、このニッポン放送の募金というのがすごく大きな役割を果たしているのですが、本来ならもっともっと増えていってほしいなと思います。この横断歩道の問題以外にも、ホームからの転落事故や踏切の問題があります。踏切も、踏切内に入ったかどうかというのがよく分からないんですね。そのために、ここのところ不幸な事故が起こったりしています。そういった命に関わるところの環境整備はもっともっとやってほしいなと思います。視覚障害の大変なことのもう一つは読み書きや、コミュニケーションですね。読み書きに関してはデジタルデバイスが出てきたおかげで、ずいぶん楽になってきました。ただ、まだまだ機器を使いこなすのが難しい方も多いので、そういった人たちに使い方を教える教室といったものが増えていくと良いなあと思います」
新内 「『ラジオ・チャリティ・ミュージックソン』の放送が近いということで、中野先生から見たミュージックソンのもたらす役割には、どういったものがあるとお思いでしょう」
中野 「ミュージックソンによって視覚障害というのがどういう障害なのかということを多くの人が理解してくれます。特に、見えない、見えにくいことが障害なのではなくて、見えない、見えにくい人にとっての“バリア”が世の中にたくさんあることが障害で、それをなくしていくための一つのやり方で、音の出る信号機をはじめとしたさまざまな募金活動をやっているんだということです。この募金を通して、視覚障害のある人のバリアのことを多くの人に知らせる役割がミュージックソンにはあって、それはとても大事なことだと思っています」
新内 「ミュージックソンを聞いているリスナーの皆さんに求めたいことはありますか」
中野 「このミュージックソンの中では、いろいろな技術や知識についても提供させていただいています。これも、とても大切なことですが、もっと大切なことは先ほどから言っている、障害とは何かということを適切に理解していただくことです。身の回りに、実は視覚に障害のある人ってそれなりにおられるんですよ。将来、自分も見えにくくなることは当然あり得ます。その時に、例え見えにくくなっても困らない社会というのをつくっていくんだという考え方で、このミュージックソンのさまざまな情報を聞いていただけるとありがたいし、それをリスナーじゃない方々にもぜひ広めてほしいなというふうに思います」
新内 「それが当たり前になったら素敵ですね」
中野 「そうですよね」
2週にわたってSDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」をテーマに障害やバリアフリー、ユニバーサルデザインについて学んだ新内さんは、最後に「今私たちにできること、未来への提言」を中野教授に聞いた。
中野 「誰一人取り残さないというSDGsのすごく大切な理念を、絶えず心の中に置いて、世の中をチェックしてほしいですね。この建物とか、この制度とか、この動画コンテンツというのが、誰かを取り残していないだろうか、ということを絶えず考えてほしいんです。ここが、すごく大切なことで、考えて何かに気付いた時に小さくても良いのでアクションを起こしてほしい。そのアクションというのは、本当に小さくていいんです。それを誰かと話すこと、そして調べてみること、調べてみて分からなければ誰かに聞いてみること。いろんなことをすることで考え方が広がっていくので、そういう意味で誰一人取り残さないということを絶えず考えることが、最も大切なことかなと思いますので、ぜひよろしくお願い致します」
階段の上り下りの誘導の仕方、一つをとっても気付きの多かった今回の放送。新内さんは「より深くこの『ラジオ・チャリティ・ミュージックソン』というチャリティキャンペーンの必要性を感じることができました。今まで私の中になかったものが、たくさん発見できました」と実感を込めた。