OPINION

「カナダ・モントリオールで気づいたSDGsとの向き合い方」


この記事に該当する目標
11 住み続けられるまちづくりを 12 つくる責任つかう責任
「カナダ・モントリオールで気づいたSDGsとの向き合い方」

初めまして。国産ニット帽子ブランド「アミツムリ」デザイナーの寺本恭子です。2004年にパリのプルミエールクラスで、デビューしました。エレガントなデザイン性と品質の高さが、国内外で評価されましたが、その後、アパレル素材の背景にある悲しいストーリーを知り、「良いモノづくり」の定義を見直しました。真のラグジュアリーとは何か?を 現在も追及中です。

第一回目は「SDGsって本当に考える必要があるの?」「SDGsって何から考えればいいの?」と思っている方々に向けて、「カナダ・モントリオールで気づいたSDGsとの向き合い方」をテーマにお話していきます。

現在、主人と13歳の息子と、カナダ・ケベック州のモントリオールで生活しています。2014年に、家族で東京から移住しました。。。とお話しするたびに、聞かれる質問の数々。
「また、どうして海外移住したんですか?お仕事の関係ですか?」
「いえ、人生の冒険です!」
「なんで、モントリオールなんですか?所縁があるんですか?」
「いえ、たまたま家族で移住できそうなところが、ここだけだったんです」
「英語が得意だったんですか?」
「いえ、全然!」

こんなやり取りをするたびに、日本の方にもモントリオールの方にも驚かれるというか、呆れられるわけですが、7年経った今、私たちはとても「幸せ」です。
以前に比べて「幸せ」と思える理由は、年収が上がったとか、高価な持ち物が増えたとか、息子がエリート校に入学したとか、全くそんなコトではありません。 「幸せ」を測る物差しが、もっと言えば、「幸せ」の定義そのものが、変わってしまったからなのです。

都会でありながら自然が多く、世界中から集まる移民たちが、その文化の違いを楽しみ、共存する社会。その中で私は、自分と環境の境界線は存在しないことに気づくことが幸せに繋がるという、新しい考え方を学びました。

一人一人が幸せに生きるために、このままではいけない!と、今、誰もが気付き始めていることでしょう。 「持続可能なより良い社会」と聞くと、「そんなのキレイゴト、物理的に無理でしょ」と思ってしまいがち。でも、難しい単語や数値に飲み込まれる前に、まずは、「ところで、より良い社会って、どんな社会?」「幸せって、なんだっけ?」と、自分の頭でよ〜〜く考えてみることが大切だし、それが、SDGsと向き合うスタートだと思うのです。

私たちは、地球の上に生きる、一生命体です。自然や社会環境のバランスを崩さないよう、配慮する必要があります。
一方で、私たちは、人生を楽しみ、謳歌する権利があるとも思っています。この二つは、矛盾するのでしょうか?
これは、私が日本にいた時に、何年間もずっと考え続けていた問題です。

でも、モントリオールに来て、今は確実に「それは、矛盾しない。環境に配慮して生きることは人生を楽しむことにも繋がる」と思えるようになりました。

モントリオールに来たばかりの時、シンプルなのに、お洒落でかっこいいモントリオールの女性たちに圧倒されました。
皆が、健康的で堂々として見えました。
本人が素敵なら、ジーンズとTシャツに、ちょっとした個性的なアクセサリーをつけるだけでも、スタイリッシュなルックスが出来上がってしまうのです。いくらお金をかけて、高級な服やアクセサリーで飾り立てても敵わないオーラを感じました。

自然の移り変わりを柔軟に日々の生活に取り入れている人々の姿も素敵でした。 春になり、気温も上がると、「ここはリゾート?」と思ってしまうほど、それぞれに光と風を謳歌するファッションに身を包み、歩道のテラス席は、サングラスをかけてお喋りを楽しむ人々で溢れます。その様子が、単純に、美しいのです。見るだけで、こちらも嬉しくなってしまいます。

環境に配慮している、お洒落なお店やレストランが、街にたくさんあることにも驚きました。 オーガニックショップがいくつもあり、一般のスーパーでも、オーガニックの選択肢が豊富です。お洒落でゴージャスなマダムが、レジで、自分のエコバックに、オーガニックの野菜やエコフレンドリーな生活用品をぽんぽん詰めていく姿、美味しそうなプラント・ベースのハンバーガーを笑顔で頬張る、美しい女性たち・・・環境に配慮した消費をすることは、実はお洒落でカッコよくて楽しいことなんだ!と、ワクワクしました。

「幸せ」な生活とは、少し肩の力を抜き、自然を肌で感じ、自分と環境を一体化させ、健全なコミュニケーションをとり、心をととのえて生きることなのかもしれません。 特別な何かにならなくても、成功に向けて競争しなくても、私たちは少しだけ意識とライフスタイルを変えるだけで、すぐに「幸せ」になれる可能性があるのではないか・・・モントリオールで生活していくうちに、そう考えるようになりました。

まずは、「より良い社会」「幸せ」の定義を考え直すこと。そして、それに向かって楽しく生きていけば、自然と、環境に配慮して生きることに、繋がっていくのではないでしょうか?

これは、私の個人的な考えです。皆さんは、いかがでしょうか?
ぜひ皆さんも、一旦、頭の中に詰まった既成概念や情報を脇に置き、「より良い社会」「幸せ」の定義そのものを ご自分の頭で考えてみていただけると嬉しいです。

次回は、私がモントリオールの一番の特徴であると感じている「多様性」についてお話したいと思います。「多様性」は生活における選択肢の多さや、お互いの違いを理解する文化の形成にも繋がります。日本人である私の視点から、日本とモントリオールの違いなどお話していきます。お楽しみに。


【この記事を書いた人】
ニット帽子ブランド「アミツムリ」デザイナー
寺本恭子

東京生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、東京田中千代服飾専門学校デザイン専攻科へ。卒業後は、オートクチュール・ウエディングドレスデザイナー・松居エリ氏に師事した後、祖父が経営する老舗ニット帽子メーカー吉川帽子株式会社を受け継ぐ。2004年にニット帽子ブランド「ami-tsumuli(アミツムリ)」を立ち上げ、同年にパリの展示会でデビュー。2014年からカナダ・モントリオールへ居を移し、サステナブルな視点を生かしながら創作を続けている。
Instagram@kyoko_tf