カナダ・モントリオールで学んだ多様性を楽しむための3つのコツ
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こんにちは。国産ニット帽子ブランド「アミツムリ」デザイナーの寺本恭子です。第一回目のコラムでは、「カナダ・モントリオールで気づいたSDGsとの向き合い方」をテーマにお話ししました。
前回記事はこちらからお読みいただけます。
「カナダ・モントリオールで気づいたSDGsとの向き合い方」
第2回目の今回は、「多様性ってよく聞くけど具体的にどういうこと?」「多様性を受け入れるにはどういたらいい?」と思っている方々に向けて、「カナダ・モントリオールで学んだ多様性を楽しむための3つのコツ」をテーマにお話ししていきます。
まずは、モントリオールってどこだっけ?と思われる方のために、簡単にご紹介します。モントリオールは、カナダの東部、ケベック州にある、人口約400万人の都市です。 雪が多いこと、映画祭やジャズフェスティバルが開催されることでも知られていますが、なんと言っても一番の特徴は、世界中からの移民が共に暮らしている、インターナショナル・シティであることでしょう。
実は日本から移住する時、きっとモントリオールに行ったら、「日本人VSカナダ人」とか、「私VS外国人」の様な構図の中に生きるのだろうと覚悟していました。早く馴染める様に、努力しなくては…と。
ところが暫くすると、「あなたが思っている以上に、みんな日本文化が好きなのよ」とか「あなたは本当にオープンマインドで、興味深い人だわ」と言われる様になり、私は私のままで、この街の住民として認められていることに気がつきます。日本から来たお客様ではなく、「日本文化を持った、モントリオールの住民」として扱われてる心地よさと、自分もこの多様な文化を彩っている、小さくて大きな存在の一つなのだという誇りを感じました。
「インターナショナル・シティ」って、こういうことか!と理解できた瞬間でした。
この7年間、本当に色んな方に出会いました。私の住んでるビルの管理人さんはニカラグア人、いつもメンテナンスでお世話になってる方はブルガリア人。ちょっとアバウトだけど、頼りになる優しい人たちです。
以前通った、移民のためのフランス語教室のクラスメイトは、フィリピン、バングラデシュ、韓国、エジプト、イラン、ベネズエラ、パレスチナ…世界中から、それぞれの理由で、モントリオールにやって来た人達でした。自分の国で起きていることをお互いシェアしあう様になり、「世界のニュース」が、「友達の国で起きたこと」に変わっていきました。
また、ルーマニアやウクライナなどの当時の共産主義国で育った別の友達は、そのネガティブな面だけでなく、ポジティブな面も自身の体験を通して教えてくれました。
何が正しく、何が間違っているのかは分かりません。とにかくこの世界では、色んな人が、色んな価値観を持って、それぞれ一生懸命に生きていること。そのバリエーションの幅が、私の想像を遥かに超えていたことだけは、確かでした。
世界中から移民が集まるということは、言い換えると、世界中の価値観が集まるということ。そのコントラストこそが、「多様性」です。もはや日本にいた時の「普通」や「常識」が、通用しなくなることは、想像に難くないでしょう。それでも私は、この多様性が大好きです。
肌の色だけでなく、育った社会、言語、宗教、食生活、受け継いだ伝統…そして個々の価値観の違いを互いに受け入れようとする文化の土壌は、LGBTQやベジタリアン・ヴィーガンなどの選択肢を受け入れる寛容さにも繋がっていると感じます。
モントリオールでは、世界中の食事を楽しむことができます。と、同時に、オーガニック、ヴィーガン、グルテンフリー、コーシャ、ハラル…など、様々な価値観の方に合わせた食材の選択肢もあります。 相手の価値観を完璧に理解することはできなくても、そのまま「あ、そうなのね」と、否定せずに受け入れることは、できるはず。この優しさが、多様性を楽しむ1つ目のコツです。
相手を受け入れると、自分も受け入れてもらえるものです。多様性の社会は、「言わなくても空気を読んでくれる」社会ではないので、自分の要望をしっかりはっきり伝えることが、多様性を楽しむための2つ目のコツです。伝えないと分からないし、逆に「こんなこと言ったら、図々しいと思われるかも」などの心配は、取り越し苦労になることが殆どです。
そして、多様性を楽しむために一番大切な3つ目のコツは、自分軸をしっかり持ち、自分の文化に誇りを持つことです。自分という基準点があってこそ、他の価値観との違いに気づき、その違いを楽しむことができます。そうでなければ、いつまでたっても「多様性」を外から眺めることしかできないでしょう。それどころか、様々な価値観の中で迷子になってしまうかもしれません。
多様性を受け入れる社会と聞くと、皆が同一化し、文化の個性が消滅してしまうイメージを持たれるかもしれません。一歩間違えれば、本当にそうなる可能性もあると思います。でも私は、モントリオールに来てから、本来は、その逆であると実感しています。
私の場合は、日本を離れてからますます日本文化に誇りを持ち、気軽にお着物を着るようになりました。日本語の絵本を読むボランティアもしています。そして、自分が心地よいと感じるオーガニックの食材やプラントベースな食生活を堂々と選択するようになりました。自分の選択がたとえその他大勢と違っていても、自分軸があれば迷いはないし、周りもそのまま受け入れてくれるので不思議です。
本来、人は一人一人違う価値観を持っています。民族の多様性のみならず、個人レベルの多様性を受け入れる必要性は、これから益々出てくることでしょう。
その時、多様性の波にのまれすぎないために、多様性を100倍楽しむために、まずは、自分の軸を確認し、自分自身の文化に誇りを持つことをお勧めします。
それが実は、多様性の中で楽しく生きるための一番の近道だと、私は思っています。
次回は、モントリオールの多様性を支えている「個性を尊重する教育」についてお話したいと思います。どうぞ、お楽しみに。
【この記事を書いた人】
ニット帽子ブランド「アミツムリ」デザイナー
寺本恭子
東京生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、東京田中千代服飾専門学校デザイン専攻科へ。卒業後は、オートクチュール・ウエディングドレスデザイナー・松居エリ氏に師事した後、祖父が経営する老舗ニット帽子メーカー吉川帽子株式会社を受け継ぐ。2004年にニット帽子ブランド「ami-tsumuli(アミツムリ)」を立ち上げ、同年にパリの展示会でデビュー。2014年からカナダ・モントリオールへ居を移し、サステナブルな視点を生かしながら創作を続けている。
Instagram@kyoko_tf