モントリオールに住む私が見た多様性を支える教育
この記事に該当する目標
こんにちは。国産ニット帽子ブランド「アミツムリ」デザイナーの寺本恭子です。前回のテーマは、モントリオールの多様性についてでしたが、その多様性を支えているものは、一体何でしょうか?私はここで子育てをする中、その一つはモントリオールの教育にあるのではないかと考えます。
前回記事はこちらからお読みいただけます。
カナダ・モントリオールで学んだ多様性を楽しむための3つのコツ
第3回目の今回は、「モントリオールに住む私が見た多様性を支える教育」についてお話します。
日本からモントリオールの小学校へ転校ー そこで気が付いた多様性を支える教育。
現在13歳の息子は、6歳の夏に日本からモントリオールに来ました。日本の公立小学校に一年生の一学期だけ通っていたので、私も桜咲く中、保護者として日本の入学式を体験しました。その式の中で、文部科学省とその公立小学校の目標を校長先生が紹介されたとき、「健やかな成長」「思いやり」「協調性」などの、素晴らしいキーワードが並ぶものの、その中に「個性を育む」「違いを認め合う」といった文言がとりわけ述べられなかったのが、とても印象的でした。
その後予定通り日本を離れ、夏休みを経た九月に、息子はモントリオールで再び公立小学校に入学します。モントリオールの英語の授業で、最初に息子が持って帰ってきた音読の宿題が、これまた忘れられません。全然違う二人の子供の絵が描いてあり、そこに、「私は〜がすき、あなたは〜がすき、みんなそれぞれ違うね」といった内容の詩が書いてあったのです。あまりの日本の教育方針との違いに驚きました。もちろん、どちらが正しいかではなく、それぞれの社会を反映してのことだと思います。
その他に、モントリオールの道徳の授業では、三大宗教を子供目線で学びます。いろいろなおもちゃが、それぞれどの宗教と関係があるか線で結ぶ筆記テストがあったり、カトリックの国なのに旧正月をみんなでお祝いしたりもします。
担任の先生の素敵な教え。モントリオールの小学校で日本文化をプレゼン。
息子は、三年生のとき、ビザの関係で私立の小学校に転校しました。当時、息子はクラスで唯一の東アジア人でした。順調にお友達もでき、楽しそうにしていたのですが…ある日、実は日本人であることを理由に、嫌な思いをしていると、私たちに告白します。親として、とてもショックでした。
どうやら、席が近い二人の女の子が、執拗に「日本人は悪いって、お父さんが言ってた」「あなたが、日本語話してるの聞いたけど、変なの!」などなどと、毎日馬鹿にされる様なのです。普段だったら自分で何とかする息子が、「ママから先生に言って欲しい」と言ってきました。自分の力では解決できないと、子供心に思ったのでしょう。息子のリクエストにより、その女の子たちの名前は伏せて、先生に状況を報告しました。
担任の先生は、ベテランのイタリア人の女性。朝、私のメールを見るや否や、すぐに席替えをし、その日のうちに息子はストレスから解放された様で、私たちもホッとして、お礼のメールをしました。でも、そこで終わらないのが、この先生の凄いところです。席替えは一時しのぎであって、根本的な解決になっていないとのこと。根本的な原因は、クラスの子供達が、日本文化を理解していないことにあると仰るのです。
そして更に、「これは生徒みんなにとっていい機会なので、ぜひ今度授業の中で、息子さんに日本文化の紹介をしてもらいましょう。1時間取りますから、ぜひご両親もいらしてください…」と、あっという間にプレゼンの予定を立ててしまったのです。思わぬ展開に慌てながらも、家族みんなで準備に励みました。それは、息子にとっても、日本文化を再確認する良い機会となりました。そしてプレゼン当日、伝統的な食べ物・行事から、新幹線や富士山、最後はハローキティまで、クラスみんなの前で息子は日本文化を紹介しました。
「富士山に登ると何が見えるんですか?」「何でお金に穴が空いているんですか?」などなどの、子供らしい質問もたくさん。生徒たちが、日本文化に興味を持ってくれているのが私にも伝わって来ました。そして、「ひらがなとカタカナと漢字、こんなに沢山の文字が読めるの?」と聞かれて、恥ずかしそうにイエスと答えた息子の横顔に、今までにない誇りが芽生えたのが、分かりました。
実はそれまで、日本人であることを強調するのに抵抗を感じてた息子ですが、この日を境に、その恥ずかしさが消えた様で、それと同時に、日本人であることを理由に嫌な思いをすることも一切なくなりました。不思議なものです。
お互いの文化を知ることで尊重し合う、モントリオールのあたたかい教育。
どこの文化もそれぞれに素晴らしく、興味深いものです。もしも、ちゃんとその文化を知ることができたら、きっとリスペクトしたくなるはず。馬鹿にしてしまうのは、単に知らないからなのです。その前提として、自分自身の文化を知り、誇りを持って紹介できることが大切になってきます。経験豊富な担任の先生は、これらのことを良くご存知だったのでしょう。
こうした学校教育の中で、モントリオールの子どもたちは、様々な文化を知り、尊重し合うことの大切さや、差別がどんなに良くないことかを学び、大人になっていきます。
モントリオールの多様性の中で成長している息子や他の子供達を見ながら、改めて教育の大切さと影響力の大きさを実感しています。
次回は、「モノづくりの中で気づいた自分で知り・感じ・考える大切さ」についてお話したいと思います。どうぞ、お楽しみに。
【この記事を書いた人】
ニット帽子ブランド「アミツムリ」デザイナー
寺本恭子
東京生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、東京田中千代服飾専門学校デザイン専攻科へ。卒業後は、オートクチュール・ウエディングドレスデザイナー・松居エリ氏に師事した後、祖父が経営する老舗ニット帽子メーカー吉川帽子株式会社を受け継ぐ。2004年にニット帽子ブランド「ami-tsumuli(アミツムリ)」を立ち上げ、同年にパリの展示会でデビュー。2014年からカナダ・モントリオールへ居を移し、サステナブルな視点を生かしながら創作を続けている。
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