希少疾患・難病医療の現状とこれからの課題感 専門家に聞く私たちがいまできること
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世界中に1万種類ぐらいあるとされる希少疾患のうち、まだ5%程度しか有効な治療法がないと言われています。治療が困難であることに加え、希少であるがゆえに病気への認知度も低く、周囲からも理解を得にくいのが現状です。
アストラゼネカグループの希少疾患部門アレクシオン・アストラゼネカ・レアディジーズは希少疾患のリーダーとして30年の実績をもっており、その日本法人であるアレクシオンファーマ合同会社は、一般の方に、希少疾患と共に生きる患者さんの疾患について知り、より理解を深めることができる機会をつくることを目的に、2022年12月24日(土)「希少疾患と社会、私たちが気づきあうためのヒント」を題した啓発イベントを開催。アレクシオンファーマ合同会社 笠茂公弘社長は、「誰しもが罹る可能性のある希少疾患・難病について考える時間にしましょう。私も新しいことを知るきっかけにしたいです」と開会の挨拶を行った。イベント中にはトークセッションも行われ、難病「先天性骨形成不全症」を患っていた米良美一さんと、ご自身の父親ががんに侵され、介護を経験したことで希少疾患を知ったフリーアナウンサーの小島奈津子さんが登壇。厚生労働省難病対策委員会委員長でもある関西電力病院特任院長の千葉 勉先生の解説を受けながら、希少疾患とはどういうものなのか、周囲の我々ができることについて語られました。今回のインタビューでは千葉先生にさらに希少疾患患者さんを取り巻く現状について、お話を伺いました。
2022年12月24日(土)「希少疾患と社会、私たちが気づきあうためのヒント」の様子
日本人気質にフィットした世界でも珍しい難病医療制度
ー希少疾患の難病医療について、日本はどんな状況なのでしょうか?
まず、難病医療制度というのは外国にはありません。この制度自体が日本独自のものであって、ある意味では日本は非常に進んでいます。特に難病患者さんに対して行われている医療費助成や啓発運動などのサポート体制を含めて、これだけ法の下に保証されているという国はありません。
制度のきっかけは、昭和40年代に日本のみで流行したスモンという病気です。当時、厚生省により組織された調査研究協議会にて原因究明を行った結果、薬剤が原因であることがわかりました。このことを通して、国が承認した「くすり」により病気が発生した場合は国が救済措置をとるべきであると示されたことと、難病だったとしても、集中的にかつ多角的に研究を行えば、その原因が解明されるかも知れないという可能性が示唆されました。制度は難病の研究を推し進めることも目的に始まっています。
ーしかし日本が難病などの研究が進んでいるというわけでもないですね
難病に対する研究については、日本が特に進んでるというわけではないですね。ただ、国としても啓発運動は行っています。この制度では登録していただく際に難病患者さんに「医療上の助成を受ける際には難病研究に協力していただく」というような文言が提示されています。そこから薬を作ろうとなったときには、その難病患者さんのグループに呼びかけて、薬の治験に参加を依頼することもこの制度によってできています。
私は厚生労働省難病対策委員会の委員長をしていますが、残念ながら裏では「この制度がなくなるかもしれないよ」というような声も時々耳にします。特にいまはコロナ禍になったことで関心がそちらにいっています。希少であるが故にちょっと忘れられてしまう危険性というのは、常に秘めているので、このようにイベントを実施して(一般の方に向けて)啓発する機会を持つことはとてもいいと思います。
ー海外ではどのように活動が進んでいるのでしょうか
海外は難病患者さんの声を拾い上げたり、お互いにコミュニケ―ションを進めていくといったシステム作りが上手で、政府よりも民間団体が主導しているケースが多いですね。例えばフランスには「Orphanet(オーファネット)」という希少疾患を集めている団体がありますが、これも基本的には民間が主導しています。一方日本はというと、民間に患者団体はあっても、日本人の気質というか、広く広げていくというのは必ずしも得意じゃないので、官が主導しての制度が合っているのだと思います。
学校教育の過程での希少疾患や難病への教育も必要
ー希少疾患や難病を持つ方々を社会から孤立させないために、私たちがいまできることは何がありますか?
まず、難病患者さんが子供の頃から病を抱えていらっしゃる場合が多いのは、全体のうち先天性異常による疾患が多いからなのです。気がついていない場合が結構あるのですが、目に見えないものを含めると、同じ小学校に通っている人が難病を抱える場合も多い。大人になってから取ってつけたように知るのではなく、まずは幼少期から学校で理解を深める教育をすること。イベントで米良さんがお話されていたいじめの問題にしても、「いじめたらいかん」という話ではなく、まずはこういう病気の話をして、その中で理解を深めることを子どもの頃から行っていくのは非常に大事ですね。
また、昔は難病患者さんの多くは、20歳までにお亡くなりになっていました。それが医学の進歩により、より長生きできるようになっています。一方で、その患者さんたちが成長して診療科が小児科から内科に変わると、また新たな問題が生じています。これは「トランジション問題」というのですが小児科で診ていた患者さんをバトンタッチするにも、内科のお医者さん側に診療した経験がなくて尻込みしてしまい、20歳を過ぎても小児科のお医者さんが診ているというケースが非常に多いのです。医療従事者側の新たな教育というのも重要になっています。
ー後天性の疾患という例については増えているのでしょうか
高齢になってから起こってくる難病というのも増えてます。それはひとえに、高齢化社会になったから。みんなが長生きするようになったことによりがん患者さんが増えてきたように、高齢になってから出てくる病気は増えています。
開かれた情報の活用をもっと広げていくべき
いま、さまざまな試みが始まっていて、ネットを活用すればたくさんのことを知ることができるようになっています。例えば、厚生労働省の難病情報センターを見ていただくと、(現在認定されている)338疾患の説明が非常に詳しく書いてあります。実はこの難病情報センターの情報には月間400~500万件ぐらいのアクセスがあります。利用者は患者さんから医療従事者までいますが、これでもまだ使っている人は少ないと思うので、もっと認知度を上げるべきですね。
また、自分の症状を入力したら病名を指摘してくれる希少疾患の検索サービス「pub case finder」もあります。医者と患者さんの団体がまとまって活動するなど、積極的に交流を進める流れが生まれてきていることも、とてもいいことだと思っております。
日本人の気質としては、上(行政)が制度を作って、上から下にトップダウン式にものごとを進める方がすすみやすい、という傾向がありましたが、ここに来て大きく変わってもきました。難病希少疾患の患者さんが「国の指定難病」の指定を受けるためには、診断基準のなかで満たさなければならない条項があります。その中に「こういう遺伝子に異常がある」ということが条件に入っているのに、つい最近までは遺伝子検査ができなかったり、保険適用になってない検査がたくさんありました。遺伝子検査を実施する検査会社が慈善行為のように赤字を抱えながら協力していた例もありました。それを患者団体と検査会社が協力し、これは保険適用にすべきだと声をあげたことで「保険適応」が実現しています。厚生労働省も体質が変わって、患者側の声を受け入れる時代にはなってきたと非常に強く感じますね。
今回のイベントに関連するSDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」のロゴに使用されるハートマークで記念ポーズ。左から、アレクシオンファーマ合同会社 笠茂公弘 社長、 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 教授 蟹江憲史 先生、歌手 米良美一 さん、フリーアナウンサー 小島奈津子 さん、関西電力病院特任院長、京都大学名誉教授、厚生労働省難病対策委員会委員長 千葉勉 先生