エシカルなモノづくりの中で気付いた、自分で知り・感じ・考える大切さ
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こんにちは。国産ニット帽子ブランド「アミツムリ」デザイナーの寺本恭子です。前回のコラムではモントリオールの多様性を支える教育についてお伝えさせていただきました。
前回記事はこちらからお読みいただけます。
モントリオールに住む私が見た多様性を支える教育
第4回目の今回は「エシカルなモノづくりの中で気づいた自分で知り・感じ・考える大切さ」についてお話します。
わたしとヴィーガンの出会い
突然ですが今から約10年前、私は初めてヴィーガンという概念に出会いました。
息子の幼稚園のママ友の一人が、ウールを身につけないと仰ったのです。
仕事柄、いつもウールにお世話になっていた私はびっくりしました。羊の毛を刈るだけなのに、どうしてだろう。でも、何かあるのかも。この出来事が、私が素材の背景を調べる最初のきっかけになりました。
本やインターネットで調べてみると、知らなかったことが次々と出てきました。
今の羊は、人間が一万年以上もかけて山羊から改良したものだと知り驚きました。利益追及のためにコスト削減がされ、その負担が羊にかかっていることも知り胸が痛みました。
そして、他の動物繊維も植物繊維も、化学繊維も皮革もそれぞれに、私が全く知らなかった背景があることが分かりました。
素材の背景のことなど全く考えてこなかった自分にショックを受けました。
改めて考える「良い素材」とは何なのか
それまで私は、「高品質」なものを妥協せず作ってきたつもりだったのです。常に新しいデザインや技術にチャレンジし、職人さんと良い関係を築き「良い素材」を使って…
でも、その「良い素材」が作られる背景のことが、ポッカリ抜けていたなんて!
早速、「良い素材」の定義を考え直しました。背景に目を向けていわゆるエシカルな視点を持ち、改めて「良い素材」を探し始めたのですが…これがなかなか難しいのです。
オーガニックの素材が良いという話もあれば、100%オーガニックを目指すのは非現実的だから、全体のためには妥協案で行くべきだという声も。
動物がファッションの犠牲になるのはおかしいという考えもあれば、動物素材は生分解性があるから、化学繊維より環境に優しいという考え方も。
もう、何がなんだかわからなくなりました。
そこで「まず、今何が起きているのか、自分で見てみよう!」と、思い立ったのです。
「良い・悪い」の偏見を持たずに、自分で現場を見て、感じたら…私は何を思うだろうか?私は、好奇心でワクワクしていました。
アメリカ・インドなど現地を視察してわかったのは
まずは、2012年の秋に、アメリカ・テキサス州のオーガニックコットン畑へ視察に行きます。
地平線が見えるほどの広大な畑に圧倒されました。従来型の畑では、小型飛行機を使って農薬を撒き、収穫時には枯葉剤を使うのが一般的です。機械ですくい上げて収穫する際に、緑の葉の汁がつかないためです。
また、品質検査場や種を取り除く工場では、多くの有色人種の方たちが、農薬が洗い流される前の綿毛にまみれながら日々仕事をされてることも分かりました。
2年後には、インド南部のコットン畑に行きました。こちらは、貧しい農家が多く児童労働が大きな問題になっていました。
私は「なぜ可愛い我が子を学校に行かせず、児童労働をさせるのか?」と疑問でした。しかし実際に行ってみると、児童労働をさせている親自身も学校教育を受けていないため、学校の価値をよく知らなかったのです。十分な情報がないまま判断していることが分かりました。
また、羊のことが知りたくて、北海道の羊の牧場を訪問しました。
「羊をリスペクトすることと、羊の命をいただくということは、矛盾するとは限らないのかもしれない」と羊飼いの方のお話から感じました。
皮革については、まずは食用の牛から皮を剥がす工程を見学しました。「皮は塩漬けにされて、主に東南アジアの国へ送られる」と係の方が教えてくれました。日本は排水規制が厳しいので、化学物質を使った皮鞣しが難しいのだそうです。「海はつながっているのに」と思いました。
数年後には、貴重な国内の植物タンニン鞣(なめ)し工場を訪問して、生々しい皮が美しいレザーに変わって行く様子を学びました。
自分にとっての「エシカルの答え」を考える
自分で足を運び、自分の目で見て自分の耳で現場の方の話を聞くうちに分かったことがあります。それは、「エシカルに絶対的な答えはない」ということです。
全ての事象に光と陰があり、その陰影の見え方も時代や地域、見る人の価値観によって変わります。自分にとっての「エシカルの答え」は、誰も教えてくれません。内側に問いかけるものなのです。
外側に答えを探そうとすると、「何が本当なのか、わからない!」と情報の迷子になったり、「嘘に騙された」と情報に振り回されてしまいがち。
結局、自分で見て、感じて、考えたことが、自分にとっての「エシカルな答え」になっていくのではないでしょうか。
そして、一人一人が導き出した「エシカル」が重なり合い共鳴しあうことで、最終的に「誰にとっても良い社会」へと繋がって行くのだと、私は信じています。
次回は「エシカルなモノづくりへの挑戦と直面した困難」についてお話したいと思います。どうぞ、お楽しみに。
【この記事を書いた人】
ニット帽子ブランド「アミツムリ」デザイナー
寺本恭子
東京生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、東京田中千代服飾専門学校デザイン専攻科へ。卒業後は、オートクチュール・ウエディングドレスデザイナー・松居エリ氏に師事した後、祖父が経営する老舗ニット帽子メーカー吉川帽子株式会社を受け継ぐ。2004年にニット帽子ブランド「ami-tsumuli(アミツムリ)」を立ち上げ、同年にパリの展示会でデビュー。2014年からカナダ・モントリオールへ居を移し、サステナブルな視点を生かしながら創作を続けている。
Instagram@kyoko_tf